第16話 剣闘士大会

──とある酒場


宿屋の酒場で、五人は食事をしながら、各自報告をしあっていた。

木造の梁が低く唸り、油と酒の匂いが混ざった空気が満ちている。器の音や笑い声が隙間なく重なり合い、夜の喧騒がそこだけで小さな世界を作っていた。


まずはアーサーが話し出す


「クランの登録、一応済んだんだけどさ、Fクラス冒険者だから結構難色示されたんだよ。で、明日本決定するみたいだから、クランの名前考えないとな!何かいい名前ある?」


一同の視線がアーサーに注がれる。アーサーは手のひらで汗を拭いながら、少しはにかんだように笑った。


するとゼノがクラン名を勝手に決めた


「クラン名は、ゼノとその従者たちだ!」


その声は堂々としている。しかし即座に五人の間に失笑が広がる。ゼノの無邪気さは相変わらずだった。


だが全員から却下された


「僕たちの最終目標は、原初の闇だから、それに関連した名前がいいなー」

イーライが言った。


彼の声には真剣さが滲んでいた。目は酒場の灯りに反射してキラリと光る。


「闇を滅するみたいな名前?」


リナが付け加える。


リナはおどけた顔をしているが、どこか期待を含む響きがある。


「じゃあ闇を斬る、――闇斬ヴァルス・レイでどうかな?分かりやすいでしょ?」


アーサーは少し胸を張って提案した。みんなの反応を窺うその仕草は、仲間への信頼と期待が混じっている。


「ヴァルスレイ…悪くない」


マキヤは少し興奮しているようだった。


アーサーの目が輝き、いつもの軽口が少し熱を帯びる。


「ふむ、悪くない、我が付けた名前よりかは劣るがな!」

ゼノは笑っている。


ゼノの表情は穏やかだ。皆の意見を促すその笑顔は、自然と場の空気を和ませる。


イーライもリナも喜んでくれた。

五人の意思はひとまず固まりかけていた。酒場のざわめきが彼らを優しく包み込む。


イーライ、リナは禁書を発見したこと、その禁書には、様々な魔法が記されていること、最後の戦いに役立つ可能性があることが書かれてあったそうだ。

まだ詳しい事はわからない。彼らは眉を寄せ、言葉の端々に興奮と不安を混ぜていた。


引き続き、二人は二冊の禁書と謎の魔法融合の書の解読することを誓った。

これからの探求を予感に胸が高くなる。


――――


──翌日


アーサーは早起きして、用意を済ませ、朝一でギルド本部に行くことにした。

今日はクランが結成できるかどうか決まる、大切な日だ。胸の奥がひりつくように熱い。


ギルド本部の扉を開けて中に入ると、ほとんど誰もいなかった。

大きな建物の静けさが、逆に彼の鼓動を大きくさせる。


アーサーはラッキーと思い、昨日対応してくれた受付嬢の元に行く。


「おはようございます!昨日はありがとうございました!クランについてギルドマスターとお話しできますか?」


アーサーは元気よくしゃべった。若さと熱意がにじんだ声だ。


「あら、おはようございます、今日は早いですね、ギルドマスターに話は通しておりますので、少々お待ち下さい」


そう言うと、受付嬢は二階に上がっていった。足取りは軽く、手慣れた所作に安心感がある。


数分後


「アーサー様、ギルドマスターから話があると言うことなので、二階に上がって真正面の部屋に入ってもらえますか?」


アーサーは快く承諾し、二階に上がっていき、正面の扉を開いた。

階段の音が木に反響し、扉が開く時の空気の流れが彼の緊張を少しだけ和らげた。


そこにはギルドマスターがテーブルに座っていた。


「やあ、初めましてだな!俺はこのギルドで本部長をしている、アームスというものだ、アーサー君、そのソファーに座ってくれ」


アームスの声はどっしりとしていて、部屋に重さを与える。彼の視線は鋭く、しかし押し付けがましくはない。


アーサーは返事をすると、すぐにソファーに座った。

緊張からだろう、手が少し震えているのが自分でも分かった。


「アーサー君、聞いたよ!全員Fランク冒険者でクランを組みたいんだって?」


アームスが威圧をかけてくる。


「はい!そうです。クランを作るのにランクの高さは関係ないと聞いたので」


アーサーは堂々と答える。言葉には覚悟が込められていた。


アームスは渋った顔になり、アーサーに言った。


「悪いがクラン設立は見送らせてもらう。今は時期が悪いんだ、魔族との大戦で、余裕が無い…」


言葉は重い。大陸の事情が影のように彼らの足元を揺らす。


アーサーは引き下がらない。


「人手が足らなくて、余裕がないのなら、なおさらクランが必要になるのでは?


「それは、クランがCランク以上の話だ、Fランクが何人集まろうと、たいした役には立たないのだ」


アーサーは食らいつく。


「どんな仕事でもいいんです!僕たちのクランの設立を認めてくれませんか?」


若さの強さが滲む声。アームスはしばらく沈黙し、額を掻きながら考え込んだ。


アームスは頭を掻きながら、悩んでいる。


「そうだ!アーサー君、今日から行われる剣闘士の大会に出てみないか?」


提案は唐突だが、目には試したいという好奇心が光っている。


「それとクランの設立にはどのような関係があるのですか?」


アーサーは不思議そうに質問した。


「話は簡単だ、ただ単に君の力を見せて欲しいだけだ、君の力を見て問題ないと判断されれば、クランの設立は可能となるだろう」


アームスがそう言い終わる前に、


「やります!クランのためなら何でもやります!!」


アーサーの返事は即座だった。胸の熱さが言葉を弾ませる。


こうして、アーサーの剣闘士の大会に出場することになった。


「ちなみに、武器、装備は自由だから、好きなものを使ってくれ」


(エクスカリバーの試し切りだな)


アーサーは心の中でそう思いながら、アームスに聞いてみた。


「優勝賞金はどのくらいあるんですか?」


「優勝者には金貨千枚と、副賞として、SSSクラン、蒼雷牙ゼウス・ロアのリーダー、レオン・アークライトとの一戦がついてくる、やってみるか?」


アーサーは勢いよく言った!


「でます!絶対出ます!それで、レオンって人を打ち負かせれば、クランの登録ができるんですよね?」


言葉に含まれる無鉄砲さと誠実さ。アーサーは自分の運命を掴み取ろうとする。


「まあ、そうだが、お前さんにはおそらく無理だ、大陸の各地から強者達が集まっているからな」


アームスは釘を刺すが、その目は何かを試しているようだ。


アーサーはその話を完全に無視して、自分の話を続ける。


「どこに行けば出場登録できるんですか?」


「ギルドを出て、右に行けば大きな闘技場が見えてくるから、そこで受付しているはずだ」


アーサーは席を立ち、頭を下げてお礼を言った。


「ありがとうございます!今から行ってきます」


そう言うと、アーサーは猛スピードで出て行ってしまった。

彼の背中には、期待と不安が交錯している。


――――


アーサーが闘技場に着くと、多くの人が列を作っていた。

活気ある群衆の中に混じり、彼は自分が小さく見えたり、逆に燃え上がるように大きく感じたりする。


アーサーもその列に並び、受付の順番が回ってくるのを待っている。

緊張の中で周囲の顔ぶれを観察するのは、彼の癖になっていた。


すると、その横を、数十人のクランが通り過ぎていき、闘技場の中に入っていった。

彼らの隊列は統率が取れており、先頭に立つ者の風格が際立っていた。


アーサーは感じていた。

今通り過ぎたクランの一番先頭に立っていた男、あいつは強い。

今の勇者の事は知らないが、勇者と同等の力を持っていることがわかった。


「意外と面白くなるかも?」


受付の順番が回ってきたアーサーは、期待に胸を膨らませながら、猛スピードで受付用紙に記入する。


「できました!確認お願いします!」


「あなたはFランクとありますが、本当に出場するおつもりですか?」


「そのためにここに来たんですよ!」


アーサーは胸を張って言った。言葉に迷いはない。


「分かりました。出場を許可します。第一回戦のルールはバトルロワイヤルとなります。

今回は二千名出場しておりますが、残り十二名になった段階で一回戦終了となります、その後はトーナメント方式で優勝者を決めますのでご承知おきください」


ルールは簡潔だが過酷だ。参加するだけで、既に冒険の匂いがする。


「わかりました!」


アーサーは元気に返事をし、闘技場の中に入っていった。


闘技場の中には、多種多様な種族や、歴戦の冒険者、まだ名が知られていない強者たちがひしめき合っていた。

歓声と怒号、鉄と皮の擦れる音が渦巻く。


アーサーは現在18歳、端正な顔立ちで、スラッとした体格、綺麗な金髪だ。だが、服の下に隠れている筋肉は、鍛え上げた者にしか宿らない、常軌を逸した筋肉の塊だった。

見た目の印象以上に、彼の身体は戦いに適応している。


そんなアーサーに絡んできた男がいた。


「お前さん、女みたいな顔してよくここに来る気になったな、彼氏でも探しているのか?」


男は豪快に笑う。彼の目つきは挑発的だ。


アーサーは無視を決め込む。


「なんだ?怖くて声も出せないのか?」


男はさらに煽ってくる。群衆の視線が二人に注がれる。


アーサーはさすがにむかついた。

内心の熱がついに静かに弾ける。


神速のスキルから、超神速のスキルにバージョンアップさせたこの力を今、使う時が来た!


アーサーは瞬時に、超神速のスキルを発動し、人に見えないスピードで、絡んできた男の後ろに回り込むと、手の平を合わせて尖らせ、男の尻の割れ目にむけて突き刺した!かと思うと、アーサーは超神速で、元の場所に戻った。

動作は浮遊する風の如く滑らかで、誰の目にもまともには映らなかった。


間違いなく誰も気がついていない。


「うぎゃーーー!!尻がー尻が痛いー!」


男は痛さのあまり床をのたうち回っている。群衆からは笑いが漏れる。


アーサーは気分が晴れた。

この技は古代から受け継がれている技で、名前は「カンチョー」というらしい。噂話としては子どもの小さないたずらに聞こえるが、実際の切れ味は侮れない。


この技を受けたものは、もがき苦しむといういい伝えがあるくらいだ。


そんなことをしていると、大会第一次予選の始まりを告げる鐘が鳴り出した。

その音が場内に鳴り響くと、全ての空気が一変した。


アーサーはゆっくりと会場まで歩いて行った。

戦いの開始を迎えるその瞬間、彼の顔は静かに引き締まる。


――――


会場はとても広く、二千人が余裕で入れる広さであった。


アーサーはすみっこのほうで、目立たないように立っている。

見えない力を蓄えるように、彼はじっとタイミングを待った。


「さあ!皆様お待たせいたしました!大会第一次予選を開始します、準備は良いでしょうか?五……四……三……二……一……スタート!!」


アナウンスの声が轟き、一斉に周りで戦いが始まった。地鳴りのような衝撃と叫びがあちこちで上がる。


アーサーは目立たないように、攻撃はせず、スキル未来眼でひたすら回避に専念した。

彼の動きは滑らかに、必要最小限の力で相手の攻撃をいなし続ける。


回避された者たちは、今度は集団になって一気に襲ってくる。が、アーサーは軽く宙を舞い、逆に背後を取った。


「俺の第二のエクスカリバーを受けてみろ!」


アーサーは両手の手のひらを合わせて尖らせ、目の前にある五人の尻に狙いを定めた。内心の遊び心が顔を覗かせる。


「古代奥義、第二のエクスカリバー!!」


その瞬間、五個の尻にアーサーのカンチョーが炸裂した!五人は一瞬にして倒れ、泡を吹きながら白目をむいている。場内に思わぬ悲鳴と笑いが混じる。


「この技はかなりヤバいやつだな…」


アーサーはカンチョーを封印することに決めた。若さゆえの悪戯心にも歯止めをかける判断だ。


一方、剣闘士の人数は、半分位に減っていた。


アーサーは回避だけを続ける。彼の目は周囲を冷静に見渡している。


そのうち、人数が六百人となり、四百人、二百人と減っていく。剣闘士たちの体力も限界に近づき、戦いは激しさを増していく。熱と汗が場内を支配する。


ついに残り十五人となった。群衆の声が高まる。


すると十五人は、アーサーに目を付けた。


「なるほど!そういう作戦か!面白い」


敵の一人が笑い声を漏らす中、アーサーはゆっくり剣を抜いた。


「エクスカリバーよ、力を借りるぞ」


アーサーはエクスカリバーをなでなでしながら、話しかけている。儀式めいたその所作には、本人なりの冗談と真剣が混じる。


その時、十五人全員が一気に攻撃を仕掛けてきた!


アーサーは、魔力もスキルも技も使わず、エクスカリバーを軽く横一閃に切り払った。刃の振動が空気を裂く。


それは、強烈な風を起こし、相手全員の腹部付近に当たると、勢い良く吹っ飛んでいった。観客からはどよめきが上がる。


「…………え?」


観客全員が静まり返る。


「え?」


アーサーは観客が静まり返ったことに驚く。自分の振る舞いが場の空気を一変させたことを、ようやく理解する。


本来ならば、十二人が勝ち抜き、十二人でトーナメントをする大会。だが、最後に残ったのはアーサーただ一人。


急きょ、アーサーはチャンピオンとなった!

場内の空気が一気に変わり、歓声と割れんばかりの拍手が巻き起こる。


目立たないようにしていたつもりが、逆に目立ってしまった。彼は少し照れくさげに頭をかく。


金千枚をいただき、副賞は辞退するつもりだった。──だが、それはできなかった。

闘技場の空気が、別の流れを作り出している。


レオン・アークライトとの対戦が決定する。場内アナウンスが静かにそれを告げる。


アーサーはやれやれと思っていると、前から歩いてきたレオンにある提案をされた。


「俺を打ち倒すことができれば、何でも言うことを聞くぞ!逆に俺が勝てば、お前も何でも俺の言うことを聞け」


なんて、強引な人だろうと思いながら、アーサーは返事をした。


「それでいいっすよー」


「約束成立だな、絶対に約束守れよ!」


レオンは高圧的に言ってくる。だが、その声には男気が宿っている。


アーサーは剣を構えた。空気が一瞬にして研ぎ澄まされる。


レオンもゆっくり剣を構えた。


「我流一式──受けフロウ


アーサーの声が冷たく響く。戦いの舞台が整った。


アーサーは、構えを解き、ただ立っている状態になった。静かな緊張がふたりを包む。


それを見たレオンは瞬速で右横から腰を切りつける。が、何かに弾かれる。


「?」


レオンの二激目がアーサーの頭を狙う。しかしこれも弾かれてしまう。


「何かに弾かれてるな…」


レオンは剣撃のスピードを上げた。筋肉と技術が唸る。


だがそれは全て弾き返された。アーサーは立っているだけで動かない。


(あいつ、俺に見えないスピードで動いてやがる。はは、面白い!)


レオンの内心が笑う。だが表情は次第に真剣さを帯びる。

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