第18話 犯罪奴隷、地元冒険者に絡まれる

 お嬢とメイリーンと落合い、迷宮管理局の受付嬢にダクスがでないおススメ迷宮の扉を選んでもらい、先行メイリーンで変異種に対応してもらう。

 俺はお嬢が出した水を吸った迷宮が出した雑魚魔物を狩っていく。


「いいですか、お嬢。ラビット系の魔物は蹴りと頭突き。爪の攻撃に注意していく必要があります。動きにまず慣れてきました?」


「無理! うさぎじゃなくてジェフの動きが早過ぎて気がついたらうさぎ死んでる!」


 あ。

 雑魚だからってやり過ぎたか。

 ラビット系は通常種でも一撃必殺首狩りがあるからなぁ。

 ぶすくれたお嬢に謝りながら「つい安全優先しました」と言い訳しておく。

 ふわふわの茶色い兎皮を荷物袋に入れながらお嬢が軽く首を傾げる。


「レベル十五には上がらないっぽい?」


「そうでしょうね。ここはコドハンより強い魔物が多いとはいえ、浅層階ですから。それにすぐ上げるよりじっくり訓練も経ておいた方がいいんですよ?」


「うん。わかってるけど、ナッツくんとレベル五はなれる前にちょっとやってみたいことがあって」


「俺やメイリーンでは無理ですか?」


「うん。だってジェフ。絶対十どころじゃなく上だと思うから無理というか必要魔力が大きいっぽい」


 ん?


「お嬢の魔力でもですか?」


「わたしの魔力はレベル上がったからちょっとは増えているけどね。わたし、まだ八歳だからね? 多少魔力特化傾向はあるけど、『くじ引き』と『放水』に全振りだからね。『放水』に至っては水を動かすこともできずに本当に出すだけだからね」


 話を聞けば水を出す『放水』はお嬢の魔力をほぼ使用せずに可能で、「魔力? 放水には魔力いらないのよ」という理解だと理解して驚かされた。

 ラビット系の魔物を蹴散らしながら水を撒き、ところどころに見つけられたラビキャラットを引き抜く。

 ラビット系魔物が好物としている根野菜で煮込むと甘く焼くとほろ苦くなる。ラビキャラットのスープは好き嫌いが分かれやすい。


「ちびにんじん?」


「ラビキャラットですよ。他の根野菜と一緒にスープにすると美味しいぞ」


 にんじん、ラビキャラットの別名のひとつだったな。


「それ、美味しいの?」


「お嬢の水を得て生えてきたし、変異種な毒ラビキャラットじゃないんで美味しいと思うぞ?」


 変質した迷宮は魔力を含まないお嬢の水で正常化を起こしている。正常化という変質後の採取物は変異前とは違うのか、それとも類似なのかの判断はつきにくい。

 ひとしきり乱獲してきたメイリーンと合流して次の紹介されていた扉にむかった時にその集団と遭遇した。十代半ばからすこし上ぐらいの少年少女を四人連れた中年に差しかかってそうな熟練者風の冒険者四人組である。冒険者ギルドに居た気がする。


「よお、にいさん。ほんとにガパルティの迷宮で狩ってたんだな」


 ギルドで俺を囲んだやつのひとりだった。メイリーンがお嬢を彼らの視線から隠している。


「この時期だからさ。来るって噂されてた領主サマの『水の聖女』サマの護衛ってとこかい?」


 チラッと蔑むような眼差しで俺の背後を見やる。


「ま、愛人って噂だが、……おこぼれでももらってんのかい?」


 小声で囁きかけられてつい拳が出た。し、メイリーンから氷柱が俺に声をかけた男に襲いかかった。


「領主様が、お嬢さまに、劣情を抱いていると?」


 鋭い氷柱が軽口を叩いた男の指一本むこうで浮いている。


「え? アンタが、水の聖女さんじゃ?」


 男が視線だけを動かして仲間と俺を見比べている。ちなみにお仲間と若いのは間抜けヅラを晒して動けていない。


「ジェフ、れつじょうってなぁに? わたしりょーしゅさまのあいじん?」


 お嬢がちょっとワザとらしく俺と相手の男を見上げて問いを投げた。

 そう言えば、なんだかんだ言ってもお嬢、箱入り娘だよな。

 絡んできた冒険者一同がお嬢を見てギョッと目を見開いた。さっきまでとはまた違う愕然加減でこいつらあとで疲れてそうだなと思う。


「メイリーン、ちゃんと説明しておいてくれよ。そちらさんもその発言役所に報告してもいいんだよな?」


 ブチ切れていたメイリーンが「え? 私が説明?」とか言ってたがお前が言ったんだよ。説明しにくい単語を。

 冒険者連中も「え? 役所に?」って驚くなよ。

 役所連中はお嬢の厄介信者多いから覚悟しろよって気分になるな。


「ジェフ? メイリーン?」


 お嬢に呼びかけられて「はい」と対応するが劣情とか愛人とかの説明はなぁ?

 答えをもらえず不貞腐れているお嬢かわいい。


「おにーさん。ジェフとメイリーンはわたしの従者よ。りょーしゅさまはわたしを聖女さまって呼ぶけど、神聖系のスキルも称号もないし、この干魃のごじせーに水を出すスキルを持っているだけだって思うの。りょーしゅさまは「ありがとう」って優遇してくれるけど、それってあいじん?」


 お嬢の問いに冒険者連中はしどろもどろに「愛人ではないな」「うん。勘違いだった」「役人や領主サマの側近にバレたら消されるんじゃね?」という結論に至ったらしく「絡んで悪かった」という謝罪で終わった。


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