第17話 犯罪奴隷、ガパルティの冒険者ギルドに行く

 役場で指定された貯水池でお嬢が水を流し込んでいる間に俺は昨日の収穫を持って冒険者ギルドに顔を出す。

 薄ら暗い受付の様子に貧乏臭さを感じてしまう。

 全体的に感じるのは鬱屈した暗い倦んだ空気。

 それなりのレベルであろう男達が酒の匂いをさせたカップを弄びながら朝のギルドに居座っている。

 品定めされている視線を感じつつ、買取所に向かう。

 ギルドに所属していなくても販売はできるのだから。


「ダクスの毛皮と肉、アシッドマイマイの外殻。フェリーチェの葉を買取ってほしいんだが」


 買取所のカウンターむこうから顔を出したのは中年のおっさん。


「ダクスは解体も必要か?」


「いいや。迷宮の収集物だから問題ないだろう」


 外で狩れば解体は必要だが、迷宮内ではその部分だけがそこに残る。解体は必要ない。


「そうか。アシッドマイマイの外殻は助かるな。コドハンの迷宮が正常化しつつあるって本当だったか」


 出せ。とばかりにカウンターをおっさんが示す。

 アシッドマイマイの外殻は他のマイマイの外殻より浄化能力が高いとされ、水不足の現在価格は高騰気味だ。


「この袋がアシッドマイマイの外殻。こっちの袋にダクスの毛皮と肉だ」


 個数指定のストレージバッグ(ダクス)と重量指定のストレージバッグ(アシッドマイマイ)をおっさんに押しつける。なにせメイリーンと討伐数を競っていたので物量だけはある。


「袋は後で返却してもらえるんだろう?」


 コドハンで売ると供給過多で買い取り価格が変動しそうだったからな。


「もちろんだとも。低階層でよく狩ったモンだなぁ」


「ま。採取の護衛だったからな。フェリーチェの葉はとりあえず三十枚ほど。薬師ギルドにいくべきかと思ったんだが、窓口は少ない方がありがたくてね」


「あー、フェリーチェの葉は体力回復薬の原料のひとつだからなぁ。ま。ウチとしては塩漬け依頼分がなんとかなるから助かる。助かる」


「は。フェリーチェの葉の採取はどこのギルドでも常設だろうが」


 回復薬はいつだって必要とされているし、時間経過軽減、もしくは停止のストレージバッグがなければ薬の消費期限は十日というところだと聞いている。

 本来、それなりの雑木林でもあればどこにでも生えているような薬草だが干魃の影響でノグル地方は枯れ木ばかりとなっている現状と元バーセット王国の荒野は徐々にノグルを侵食しているという事実がある。

 ただ、なんというか。

 お嬢が、そうお嬢が水を流すことで『彷徨いの森』を呼び寄せ、お嬢の旅程コースに森林地帯が生じるという聖女の奇跡を行使しているという事実はお嬢自身が認めていないというか、目を逸らしている。

 辺境伯様としては迫る荒野の魔物に『彷徨いの森』をぶつけるつもりなのかも知れない。


「フェリーチェの葉も他の回復薬の材料も干魃と迷宮の変異種の大発生でままならねぇんでな。おい、このダクス、通常種じゃねぇか」


「大量に狩ったからな。ちったぁ混じりがあったか」


 ワザとだが。

 じろりとおっさんが俺を睨む。


「ちょっと待ってろ。すぐ倉庫にあけてくる。迷宮で馬鹿狩りするんならストレージバッグはいるだろ」


「ああ。助かる。清算は明日でもいいから預け札貰えるか?」


「明日も来んのか?」


「ああ。たぶんな」


「よし、すぐ戻るわ」


 おっさんがぴゅっと奥に消え、「預け札手続きしとけ!」という怒鳴り声と共にひょろっとした若い男がよろめき出てきた。


「あ、こ、あ、おはようございます。ダクスとアシッドマイマイ、フェリーチェの三種清算待ちの預け札になります。あす、これをお持ちください」


 挨拶に惑い、オロオロした態度のわりに手早く数字の入った金属の板を差し出してきた。


「おぅ、ありがとうよ」


 奥から「おい!」というおっさんの声が響き、すこし戻った若い男が困ったような表情でストレージバッグを撫で整えてから差し出してきた。


「おぅ。ありがとうよ」


 奇しくも同じ返事を繰り返す羽目になった。


「ダクスの通常種……。コドハンではまだ狩れるのか? にーさんよぉ」


 買取所の前からはなれようとした俺はガラの悪い倦んだ空気を醸す男たちに囲まれていた。

 意図的な行動ではあるが、予想範囲内の動き過ぎて心配しないでもない。


「コドハンでも狩れるが、今回のダクスは迷宮管理局の紹介で入ったココの迷宮産だが? あんたらだってあのランクの変異種なら一掃チョロいだろ?」


 呆れたように告げるとグッと距離が近くなった。臭い。


「チョロいさ! 俺たちにはな! だが! だがな!」


 うるせぇ。


「見習いたちにはキツイんだ。レベル一桁に狩らせるにはたとえ瀕死にしたとしても手負いの一撃で見習いの方が致命傷になる」


 わかる。

 変異種は危ない。


「通常種が狩れる狩り場があるなら、見習いたちに機会ができるんだ」


 そうだな。


「通常種が狩れる迷宮があるという情報は助かる。どの迷宮なんだ?」


 背後で見習いたちに召集をかけろ。動ける者を手配しろと声が飛んでギルド内に活気が増えている。


「受付嬢に紹介された扉をくぐっただけでなんの迷宮かは受付嬢に聞いてくれ」


 なぜか冒険者連中はあまり迷宮管理局の受付は使わないんだよな。登録に費用と時間がかかるからかも知れない。

 聞かなくてもダクスがいたはずの迷宮総当たりすればいいとかそんな声が飛び交っている。

 うん。

 好きにしてくれ。

 もうしばらくしたら城壁外の仕事も出てくるから忙しくなるだろうよ。





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