ウォズニアックのコーヒーテスト【1分で読める創作小説】

知良うらら

上等な人類

 お盆の帰省で来ていた、夫裕司ゆうじの田舎の本家の台所にて、三十代後半の兼業主婦で、普段はAIの研究をしている由香里ゆかりは、夫の弟の妻で同年代の紗栄子さえこに愚痴をこぼした。


「なんだって盆正月は、女衆おんなしゅうだけがおさんどん係で、男衆おとこしゅうは居間でふんぞり返って酒を飲んだくれてるシステムなのかな、この地方は」


 と由香里が溜息をつくと、同じく兼業主婦の紗栄子が言った。


「ほんとに……。

 日々夫の世話、子供の世話、会社の仕事に明け暮れた挙句の貴重な休みをいてまで、何が悲しくて夫の実家に帰省とか。これは一体何の罰ゲームだよと思いつつ、断ると陰で何言われるかが恐ろしくて、つい来ちゃうのよねえ……」


「ところで、紗栄子さん、ウォズニアックのコーヒーテストって知ってる?」

 由香里が紗栄子に尋ねた。


「聞いた事ないけど……」

「ロボットAIの性能を試すのには、コーヒーをれさせるのが一番良いんだって」


「コーヒーを?」


「ロボットが知らない家でコーヒーメーカーとコーヒーを探し、こぼさないでちゃんとコーヒーを淹れる事が出来たら、それは高度なAIと言える。できなければ“弱いAI(Narrow AI)”なんだってさ」


 そう由香里が言うと、紗栄子は、


「おお、そう考えると、田舎の本家で良く知らない近所の人やしゅうと小姑こじゅうとに囲まれて、愛想を振りまきながら嫁の役割を果たしつつ、自然にお給仕できる私たち女衆って、最強に高度なAIロボットって事じゃない!」


 二人は笑い合った。


 由香里と紗栄子が皿を洗いながら、そんな話で盛り上がっていると、


「おおい! 由香里さん、紗栄子さん。もう飲み過ぎて腹がくちくなって来たでのう、そろそろコーヒーが欲しいんだわ」


 と居間から昭和の男衆の一人が大声で命令して来たので、やれやれと思って由香里がコーヒー粉の在りかを誰かに尋ねようとした。


 その時、ガラっと台所の引き戸が開いて、由香里の夫、裕司が汚れた食器を何枚か手にして顔を出したのだった。


「聞いてたよ。コーヒーは俺が淹れる。


 居間でゴロゴロしている昭和の男どもみたいな“弱いAI(Narrow AI)”になるのは、俺はごめんだからね。令和の夫は、上等な人類の方に加わらせていただく事にしたよ。


さて……と、コーヒーの粉はどこに有るのかな?」



          完

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ウォズニアックのコーヒーテスト【1分で読める創作小説】 知良うらら @Chira_Urara

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