第十六話 「最強夫婦の誓い」

 魔王との決戦から数日。

 王都は焼け野原と化していたが、それでも人々は生き残り、互いに手を取り合っていた。

 崩れた城壁を修復する兵士。家を失った民に食事を分ける修道女。

 そこには確かな「再生」の息吹があった。


「……国はまだ生きている」

 僕は瓦礫の上に立ち、遠くを見つめた。


 かつて“最弱従者”と嘲られ、追放された僕。

 けれど今は違う。

 仲間と共に魔王を討ち、王都を救った英雄として名を呼ばれていた。


◆◆◆


「カイン」

 背後から、澄んだ声が届いた。

 振り返れば、白いドレスを纏ったリディアが立っていた。

 王女としてではなく、一人の女性として。


「父上は重傷ですが……意識を取り戻しました。あなたに感謝を伝えたいと」

「……よかった」


 リディアは少し微笑み、それから真剣な顔で僕を見上げた。


「でも、私から伝えたいことがあります」


 彼女の瞳は強い決意を宿していた。


「王女ではなく、一人のリディアとして――私はあなたと未来を共に歩みたい。

 戦いの時も、平和の時も。

 だから……改めて言わせてください。カイン、私と結婚してください」


 王都の広場。

 戦後の慰霊と再建のために集まった民衆の前で、リディアの声は澄んで響いた。


「……!」


 ざわめく人々。

 僕は深く息を吸い込み、彼女の瞳をまっすぐに見つめ返した。


「僕は……追放され、無能と呼ばれ、何も持っていなかった」

「でも、君が手を取ってくれた。

 エリナが祈ってくれた。

 セシリアが背中を押してくれた。

 仲間がいたから、僕はここまで来られたんだ」


 僕は剣を地に突き立て、リディアの手を握った。


「だから――誓う。

 僕はあなたを愛し、共に未来を築く。

 この国を守る“最強夫婦”として、生きていく!」


 歓声が広場を揺らした。


「おおおおおっ!」

「カイン様万歳! リディア殿下万歳!」

「最強夫婦だ!」


 人々の声が波となり、王都を包み込む。

 リディアは目を潤ませ、それでも笑顔を崩さなかった。


「……ありがとう、カイン」


 彼女の手は温かく、震えもなかった。


◆◆◆


 その夜。

 焚火を囲んで、仲間たちが集まっていた。


「いやぁ、カイン。お前、本当に王女を射止めちまうとはな」

 セシリアが酒杯を掲げ、豪快に笑った。


「……カイン様は誰よりも誠実で強い方ですから」

 エリナは微笑んだが、その瞳に少しだけ影が落ちた。

 僕はその揺らぎに気づいたが、彼女はすぐに祈るように目を伏せた。


「……ありがとう、エリナ。君の祈りがなければ、僕は禁呪に呑まれていた」

「ふふ……私にできるのは祈ることだけです。でも、それであなたが救われるなら本望です」


 その笑みは、少し切なかった。


◆◆◆


 翌朝。

 まだ崩れたままの城門前で、王国の兵士や民衆が列を作っていた。

 新しい時代の始まりを告げるために。


 僕とリディアは手を取り合って進み出る。

 セシリアとエリナがその背を守る。


「これからは……君と共に歩むんだな」

「ええ。あなたが隣にいてくれるなら、どんな未来も恐れない」


 王都に朝日が昇り、光が街を包んでいく。


 追放された最弱従者。

 だが今は――王女と並び立つ“最強夫婦”として、人々の前に立っていた。


「……行こう、リディア」

「ええ、カイン」


 二人の誓いは、この国の未来そのものとなった。


(第十六話・完 / 完結)

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追放された最弱従者、実は古代魔法の正統継承者でした ~役立たずをクビにしたら王女様に逆プロポーズされて即最強パーティ結成!?~ 妙原奇天/KITEN Myohara @okitashizuka_

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