第三話 「伝説の武具の覚醒」

 辺境の森に棲む鋼竜を撃退した翌日。

 僕たちは森の奥にある古代遺跡へと足を踏み入れていた。


「……こんな場所があったなんて」


 リディアが驚きの声を漏らす。

 苔むした石の壁、崩れた柱、そして中央にそびえる祭壇。

 千年前の大戦で失われた“伝説の武具”が眠ると噂された遺跡だった。


「ここに……何かを感じます」

 聖女エリナが胸に手を当てる。

 彼女の神聖魔力が、眠る気配を敏感に察していた。


 僕もまた、胸の奥で〈魔力記録〉がざわめくのを感じていた。

 何かが呼んでいる――そんな直感。


◆◆◆


 祭壇の中央には、封印の光に包まれた一本の剣が突き立っていた。

 黒曜石のような刀身に、淡い蒼光が流れている。


「……“蒼刃の大剣”。伝説級の武具だわ」

 リディアが小さく息を呑む。

 王家の文献にしか残っていないはずの武具が、今目の前に存在しているのだ。


「でも……封印が強すぎます。普通の人間には抜けないはず」

 エリナが首を振る。

 実際、ジークのような勇者でさえ、ここに挑んで敗れたと記録にあった。


 だが、僕は自然と前へ歩み出ていた。


「待って、カイン!」

「大丈夫だ。呼ばれてる気がするんだ」


 祭壇の前に立ち、僕は剣の柄に手を伸ばした。

 瞬間、〈魔力記録〉が共鳴し、頭の中に鮮烈な“記録”が流れ込んでくる。


『……アルトリウスの血を継ぐ者よ』


 古の声が響いた。

 大賢者の残した意識が、この剣に刻まれていたのだ。


「あなたは……」

『千年を超えて、我が血脈が再び現れたか。ならば託そう。この刃は“記録”を写す器。お前の力で、未来を切り拓け』


 光が弾け、封印が砕け散る。

 剣が僕の手に吸い込まれるように収まった。


「……っ!」


 次の瞬間、全身を駆け抜ける魔力の奔流。

 ただ持っているだけで、無限の記録が剣を通じて流れ込んでくる。


「すごい……!」

 リディアが目を見張る。

「封印が……本当に解けたのですね」

「これが……伝説の武具」


 エリナの声も震えている。

 僕は剣を構え、軽く振ってみた。


 ――ドォン!


 空気が裂け、地面に深い溝が刻まれる。

 たった一振りで、竜をも斬り伏せるだけの力を宿していた。


「まさか……これほどとは」

「ふふ、これで証明されましたね。あなたは“最弱従者”なんかじゃない。――正統なる継承者です」


 リディアの言葉に、胸の奥が熱くなる。

 彼女の瞳が僕を見つめ、誇らしげに輝いていた。


◆◆◆


 そのときだった。


「……やはり、ここに来ていたか」


 遺跡の入口から響く声。

 振り返ると、勇者ジークとその仲間たちが立っていた。


「ジーク……!」


 憤怒に満ちた瞳で僕を睨みつけている。


「噂は本当だったらしいな。お前が王女殿下に拾われ、聖女まで従えていると」

「別に拾われたわけじゃない。僕の力を理解してくれる人が、ここにいるだけだ」


 僕が剣を握る手に力を込めると、ジークは鼻で笑った。


「くだらん。従者風情が武具を得ただけで調子に乗るな。蒼刃の大剣は本来、俺のものだ!」


 その瞬間、ジークが突進してきた。


「カイン様!」

「大丈夫だ!」


 蒼刃の大剣を振り下ろす。

 刃が青白く輝き、ジークの剣を弾き飛ばした。


「なにっ……!?」

「これは僕の力だ。お前たちが切り捨てた“無能”の力だ!」


 言葉と同時に剣を横薙ぎに振る。

 その一撃だけで、勇者パーティは後退を余儀なくされた。


 広間の空気が一変する。

 もはや、立場は逆転していた。


「……覚えていろ、カイン!」


 ジークは悔しげに吐き捨て、仲間を連れて退却していった。


 静寂が戻る。

 リディアとエリナが駆け寄り、僕の腕を握った。


「カイン……すごい、本当に勇者を超えてしまった」

「ええ。あなたこそ、この時代に必要とされる人です」


 二人の言葉に、胸の奥で誓いが固まる。


「僕は……もう二度と迷わない。この力で、あなたたちを守り抜く」


 蒼刃の大剣が、蒼光を放ちながら応える。

 こうして“最強パーティ”の伝説は、確かな形を取り始めたのだった。


(第三話・完)

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