第20話 孤独の女王と恋する乙女
緑の格子状に広がるフェンスに掴みかかり、空を仰ぐ彼女に問うた。
「安心して…。変な気、起こすつもりないから」
彼女の強さを表すような紅い瞳がしっとりと濡れ、弱々しく答えた。
口を開いた彼女は「聞いてくれるかしら?」と返事も聞かないまま、独白を始めた。
「私ね、周りに思われてる程強い人間じゃないの」
「世の中には、沢山辛い目に遭ってる人もいるのだから、恵まれている自分は弱みを人に見せちゃいけないと思ってた。」
「本音で語り合ったりなんてした事なかった。馬鹿ね、話さないと何も伝わないのにね。それでも友達とも、好きな人とも、通じ合えてると思ってた」
「気付くのはいつも失った後、一方的で、感情的になって、それでも吐き出せないのに周りが助けてくれるの」
「今度は強く結ばない、適切な距離で人と関わろうとしたの。孤独が怖くない訳ないのに」
淡々と語られる鈴の音に俺は聞き入っていた。節々に捉えられる抑揚に彼女の真の人間性を見た。
鳳凰院は話の締めに入り「変ね。知り合ったばかりの人にこんな話。忘れて頂戴」と言った。
「忘れねぇよ!!!」
忘れれる訳ねぇだろ!なんて、なんて不器用なんだ!こいつならもっと上手く立ち回れた筈だ。
そんなことを思ったが、そんな押し付けが彼女の鳳凰院統子像を肥大化させていったのだろうか。
ナイーブな今の彼女なら、本音を言ってくれるかもしれない。そんな予感から俺は質問を始めた。
「最初、俺に仲良くしないぞ宣言したのは何故だ?」
「…。さっきも言ったのだけれども——」
「いいから答えろよ」
「クラスメイトとして適切な距離を保つため」
「じゃあ、友達になってくれたのは何故だ?」
「交換条件だったから」
「嘘だな。もし、表面上友達だったとして、会ったばかりの人間に復縁の依頼なんて普通はしない。で、本当の理由は?」
「…、ひ、大翔なら、貴方の置かれていた状況をなんとかしてくれると思ったから」
「初対面の俺の状況を何とかしたかったのは何故だ?」
「周りの評価だけで決めつけられてる貴方が、私と…、私と同じ事のように見えたから…」
「アイツに復縁の希望を告げればバレる杜撰な計画を、何故した?」
「わ…私がどうしようもなく、狡い女だと知って欲しかった」
「俺が金輪際とアイツの言葉を言った時、答えが分かり切ってたように答えたのは何故だ?」
「……………。」
「今までの自分と関係を持っても振り出しに戻るだけだからだろ?」
「最後に浪川に別れを告げた時、理由を話さなかったのは何故だ?」
「………。鳳凰院家に縛り付けるのが——」
「嘘だな、ここまで何とか、周りと自分の気持ちに嘘をついてきたが、どうしても浪川大翔にだけは嘘を付けなかった。で、だ、鳳凰院統子、お前の本当の答えは?」
少しの沈黙の後、堰が切れたように彼女は
「ううっ、……いつもの、統子じゃ、なくてっ……狡い、私を……好き、になって、欲しかった……っ!」
絞り出したように出した声は涙と嗚咽交じりでくしゃくしゃだった。
「私、分かってた!私が好きでい続ければ、周りが勝手に諦めてくれるだろうなって、友達押しのけて、家の所為にして来た」
「貴方を差し向けて、大翔が周りの評価だけで人を決めつけるか試した。だから今日、貴方と大翔が一緒に登校して来た時、嬉しくなった。私と大翔が登校して来たように見えたから」
こいつは年相応の臆病な恋する乙女であることを忘れたフリをした。本当の自分は拒絶されると危惧して本心を隠してしまったのだ。
その証拠に本来、重なりようのない俺と自分を重ねて、自分は受け入れられているのだと悦に浸った。
だがその臆病も今日で終わりだ。吐き出させたのがよかったのだろう。
「私を受け入れてくれる気がしたのに!なのに!なのに!拒絶するのってよ!!!」
いつもの大人びた口調とは打って変わって、少女のような口調になっていた。
また、自己嫌悪に喜怒哀楽が見られる。いつもの鳳凰院統子を破壊していた。
数秒、さっきの天変地異のような空気は凪に変わる。鳳凰院もいつもの面持ちを取り戻しつつ、戻した口調で
「あなたは強いのね…私とは大違い。こんな事耐えれないもの」
「強くなんかない、全然な…。つか、どこまで知ってんだ?」
「さぁ?鳳凰院はどこまで調べられるでしょう?」
そう言って、彼女は舌をべーと出して悪戯っぽく笑って魅せた。正しく恋するヒロイン《乙女》のようだった。
「強制しないが黙っててくれ」
「?、貴方がそれでいいのなら、いいわ。黙っとく」
本鈴が鳴り、授業は今開始された。予鈴はいつの間にか鳴ってたらしい。ドアに向かって歩き出す。
「今回の件、お前の臆病が招いた冤罪で俺に迷惑かけた罪として、一つ罰を課す」
「何かしら、何でも言って頂戴。私、今ならなんでも出来る気がするわ」
完全に吹っ切れているようだ。もうこんな回りくどいことはしないだろう。
「浪川に俺が絡まれてる時にお前は俺に助け船を出す。お前は必ず答えろ」
「!?、それって罰なのかしら?」
「さぁ、轍にでも聞いてくれ」
春の心地よい風が吹いた気がした。風に当てられ、彼女は臆病な終幕につぶやた。
「ありがとう」
◇
「それにしても、ププ、ってないよ口調か、本当のお前は可愛いなぁ~」
「!!!!。今すぐ忘れなさい!さもないとその背後霊引っこ抜くわよ」
斜め上過ぎる脅しが来た。俺が運悪いのってもしかして?え?嘘だろ?
ドアノブに手をかけた時、物音がした。呪術師って何当番ですか?
よく見ると、ドアは完全閉まり切ってなくて、隙間ができている。ドアを開けるとそこには、クラスメイトのA君B君がいた。ごめんなぁ~名前なんやっけ?
「あら、
「いや、俺たちは心配だって、呼びに行くように言われてて」
「そ、そうです!い、いや~統子様、仮面被ってたんだなぁなんて!」
「バカ!誘導尋問でもない段階でしゃべるな!」
二人がひそひそと話す背中で般若が笑ってた。
「二人とも、誰に話したら家、潰すから」
鳳凰院は笑ってるけど笑ってない、普段俺に言ってるのは冗談だったんだなと再認識した。
4人で教室に帰ってる途中、二人はずっと鳳凰院にへこへこしてた。よっぽど、彼女が怖いようだ。
他の教室の授業を横目にダラダラ歩いてると、鼻つまみ者を見るような目で俺は見られていた。他のクラスにも伝播したらしい。
教室着くと、教師に叱責を受け自分の席に戻った。
ちらほらと聞こえてくる怪訝な声に、またかと辟易していたところ、今回は勝手が違った。観られていたのは俺、ではなく、鳳凰院だった。
あーなんで、俺はちょっと考えればわかることを考えなかったんだろう。
´俺の冤罪が鳳凰院に飛び火した´
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