第19話 タグ 冤罪

第19話 タグ 冤罪

 動画には公園を背景に、演者に操、浪川、そして俺が映し出されていた。

 そう、昨日の俺たちだ。


 最近のスマホは高性能だ。暗闇でかなり望遠でも顔の輪郭まで映し出されていた。だが、集音機能は遠くの音を拾える訳ではない。

 

 無言劇形式で動画は始まる。操が口を開いたと思ったら、浪川が目を見開いてすごい剣幕で俺に迫っている。すごい剣幕に対して俺の表情は困った様子だ。


 浪川が凄んだと思われるセリフを数回話した直後、スマホのマイクに乗る轟音で甲高い声が響いた。


「二人ともいい加減にしろ!!!!!」


 動画だけを見ると、取り合いの喧嘩を仲裁をしたとられるが、実際は喧嘩などはしていないし、仲裁ではなく叱責されている。

 

 数秒の沈黙が続いた後、シュンとしている二人は話を再開する。


 俺が一言だけ何かを話した瞬間、浪川がさっきとは打って変わって沈んだ表情になった。あーなるほど。脅している様にえるわ。


 次いで言うと、俺は平気なフリをしていたつもりだが、結構顔を引き攣っている。最後の卑怯な切り札を出して下卑た笑みをしているともえなくない。

 

 動画のシークバー終わりかけ、用事を終えた俺は現場を誰かに押さえられないように、颯爽と逃げて行った。まるで後ろめたい事がある様だ。

 

 浪川は追い縋るように何かを言っている。脅しには屈しないと意思表示だろうか。


 俺がいなくなった後、二人は慰め合うように手を取り合った。と同時にシークバーは右端に到達、動画はここで終わった。


「「……………」」


「観えるな」

「観えるわね」


「「……………」」


 閑散とした非常階段で微妙な空気が流れる。当然だ。当の本人もそう、観えてしまったのだから、微妙な空気にもなる。


 実際問題当事者からすると、これは憶測に過ぎないものが冤罪に成り変わったと認識できるのだが、観客は違う。

 第三者目線、観客はこの映像を観て帰る時、間違いなく正義はアイツで、悪は俺として印象を抱き、劇場を後にするだろう。


 そこに元々あった悪評が拍車をかけるのだから、これを覆すのは難しいだろう。

 

 それ程の紙一重の産物。だが


「蓋を開けてみれば、大したことなかったな」

「貴方…、正気?この冤罪を晴らすのは、相当難しいと思うのだけれども」

「鳳凰院。一つ勘違いしているぞ。俺はコレを晴らそうなんて思っちゃいない」

 

 鳳凰院は驚いたが、コレは大層なものではない。強いて言えば、これを盗撮とったやつが誰かが気になるが、ほんとそれだけだ。


 元々、自分の評価が0ないしはマイナスだったのだから、今更下がっても気に病む必要なんてない。無いモノを強請っても仕方がないしな。


 幸い、冤罪ものでよくある実害のある攻撃などはこの一ヶ月受けてない。


 この理由については、長等の教育課程が厳しくてそんなことをしている余裕がないだとか、暴力男の反撃に遭う最初の犠牲者になりたくないだとか、そんな所だろう。


 俺は集合体の実害を


「そ。貴方が何もしないのなら、私も何も言わないわ」

 

 一言だけ、そう添えると、彼女は教室へと戻っていった。

 天を仰ぎ、俺も一言だけ。


「男友達、欲しかったなぁ…」


 ◇


 教室に戻ると何やら騒がしい。このパターンで良かった試しがない。


「天破君に煩わしい事を頼むのやめてくれないか」


 浪川が鳳凰院にこのセリフを言ってるこのシーンだけ切り取られててもわかる。

 鳳凰院の失策のツケだ。その失策のツケが拒絶とは、鳳凰院もとことん想いが届かないもんだ。


「大翔御免なさい…。でも、そういうつもりだけではないの」


 それもよくない。それセリフは後ろめたい事がある人間のセリフだ。浪川にとって弁解すらなってないだろう。推測通りの展開になってしまった。


「ここ最近の君は変だ!昔は高潔で凛々しく、豪胆で、正しく人の上に立つ器だった。それが今はどうだ。人の好意につけこんで…、こんな…。こんな君は見たくなかった!」

 浪川は、自身が当て嵌めた昔の鳳凰院統子が理想の鳳凰院統子であると、是として疑ってなかった。自分が正しいと。

 

 だが、果たして本当にそうか?殺伐とした空気の中、だけが頭の片隅に残った。


 鳳凰院は辛そうな顔をしている。衆人環視に集団圧力が合わさって、彼の正義に刃を与えている。針のむしろだろう。


 浪川は気づいてない。この事が浪川おまえにとって後悔になることを。

 

 何故、断罪こんなことをしているのか、彼女がした依頼によって起きた冤罪に憤っているのか、将又はたまた、人の事を利用する現在と自ら切り開く過去の彼女との相違に憤っているのか、どちらにしろもっと冷静になるべきだっただろう。


 確かに鳳凰院は間違えた。けれどもこんな断罪じみたことをしていい理由にはならない。よっておまえも間違えた。そして俺も´間違える´。


 居たたまれないと飛び出す彼女を視て、反射的に


 もっと、自分の状況を正しく理解していれば


 もっと、上手く頭を巡らせていれば


 もっと、冷静でいれていれば


 ´彼女を追いかけない判断だってできたのに´


 施錠されいる筈の屋上、その先で涙ぐむ空を見た。

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