最恐勇者 ~勇者が悪者の世界に転生した俺は、光属性魔法を極めて魔物たちにもっと恐れられます~

藤谷ある

第1話 最恐の勇者


坂町蒼空さかまち そら、あなたは〝最強の勇者〟として転生するのです」


 少し前――。

 神様らしき人にそんな事を言われた俺は今、見知らぬ森の中に立っていた。

 どうやら、あの異世界転生というやつに巻き込まれたらしい。


 トラックに轢かれるという、これもまた転生モノとしてはベタな死に方をしたのだが、寧ろそれがフラグだったのかもしれない。


 生前の俺はというと冴えない暮らしをしていた。

 新卒で入った会社で上手くやって行けず即退職。

 その後は派遣労働やバイトを転々としたが、どうにも社会に馴染めずドロップアウト。

 当然、生活はすぐに行き詰まり、光熱水費も払えない状態に。

 事情があって実家には帰れないし、かといって生活保護を受ける勇気もない。

 ただ目的もなくフラフラとしていた所を事故にあったのだ。


 それにしても思い切り轢かれたわりに痛くなくて良かった。

 そして新しい人生こんにちは。


 今、俺が立っている場所は鬱蒼とした森の中。

 当然だが、ここがどこなのかは全く分からない。


 神様からも特になんの説明も無かったし……。

 ちょっと不親切すぎないかい?


 ま、いいや。

 こういうのは少しずつ周りを探索して、情報を得てゆくのが定番の流れだからな。

 きっと、俺もそうなんだろう。


 それに神様からは〝最強の勇者〟に転生させるっていうお墨付きだし、能力の面でも困ることはなさそうだ。


 となると、まずは自分に備わってる力の確認からだな。

 お決まりなのは、やっぱり……。


「ステータスオープン!」


 ……。

 ……あれ?

 何も出ないぞ?

 このパターンじゃないやつなのか?


 じゃあ、頭の中でイメージすればすぐに使えちゃう系だろうか?

 それじゃ試しに火球をイメージして……。


「ファイヤーボール!」


 ……。

 ……ん?

 これもダメか……。


 あ……勇者だから、やっぱり魔法じゃなくて剣技なのか?

 それなら……。


 最初から腰にぶら下がっていた剣を抜いてみる。

 見た目は素朴な普通の剣って感じだけど、これが勇者の剣ってやつなのか?


 まあ、それはさておき、やってみるか。

 勇者の剣技っぽいスキルをイメージして……。


 剣を正面に構え、精神を集中させる。

 お、いい感じに力が集約されていく感覚があるぞ。

 これはいけるかも……。

 そう思っていた矢先だった。


 ガサガサッ


 近くの繁みが不自然に揺れ動いて音を立てた。

 直後、その場所から何か大きいものが現れる。

 それは人間だった。


「おっ」

「えっ……」


 突然、目の前に現れた初めての異世界人に驚く。

 見た目、三十代くらいの男性。

 特に目立った特徴は無く、普通の人って感じ。

 ただ服装は、明らかに現代人とは違うものを身に付けている。


 向こうも向こうで、こんな場所に人がいるとは思ってもみなかったのだろう。

 不意を突かれた様子で目を見張っていた。


 それにしてもこんなに早く現地人に出会えるとはラッキーだ。

 自分で色々調べたり、知識を仕入れたりする期間が短縮できる。

 早速、この人に人里までの道のりを聞いてみよう。


「あのー」

「あ……ああ……赤い瞳……!」

「え?」


 どういうわけか彼は、俺と目を合わせるや否や、引き攣った顔のまま硬直してしまった。


 何? どうしたの??

 気分でも悪いんだろうか?

 それと……赤い瞳って……。

 俺の目ってそんな色なのか?


 そういや自分がどんな姿で転生したのか確認できてなかったな。


 都合良く、足下に水溜まりがあったので試しに覗き込んでみる。

 するとそこには、確かに赤い瞳を持つ少年が映っていた。


 十五、六歳だろうか。

 元の俺より一回り若い感じだ。

 赤い瞳なのを除けば、穏やかそうな普通の少年に見える。

 なのにもかかわらず、この男の反応はなんなのか?


 そんな中、彼の震える唇から言葉が漏れる。


「も、もしかして……ゆ、勇者……」


 そいつは意外だった。

 もう俺の素性がバレてる。

 要因として考えられるのは瞳の色くらいしかない。

 この世界では赤い瞳が勇者の証ってことなのだろうか。


 あーあ、せっかく素性を隠しつつ、チート能力で無双しまくりの異世界スローライフを考えてたのに、いきなり身バレしちゃったじゃないか。


 勇者だからって世界の為とか、国の為とか言われて利用されるのは御免だからなあ。

 だからと言って嘘を吐いても通用しそうな雰囲気じゃないし……。

 ここは受け入れつつ、様子を見るべきか。


「えーと……そうみたいです」

「……!」


 こちらが認めた途端、彼は怯えた表情を浮かべ、腰を抜かしてしまった。


「う……うわぁぁっ!? た、助けてくれえぇっ!!」


 え? 何……これ……。

 思ってたリアクションと違うんですけど。

 まるでモンスターに遭遇してしまったみたいな反応じゃん。

 そう思っていたら……、


「どうした! 何があった?」


 そんな声と共に繁みの中から二足歩行のトカゲが現れた。

 うわ、もしかしてこれ、リザードマンってやつ?

 本物のモンスターじゃん!


「ロバートさん! こ、こいつ……勇者です!」

「ロ、ロバートさん??」

「むっ……赤い瞳……。確かに勇者だ」


 二人は緊迫した面持ちで俺を睨んでくる。

 これ、どういう状況??


 ロバートさんて呼ばれたリザードマンはなんか言葉しゃべってるし、助けを求める   声に颯爽と現れて、まるでヒーローみたいだし……。

 てか、なんで魔物と人間が普通に会話してんの?

 これじゃまるで俺が悪者みたいじゃないか。


 リザードマン改め、ロバートさんは緊張しながらも視線を上下に動かし、俺の姿を観察していた。


「フッ……見た所、装備も貧弱だし、強い気も感じない……。こいつは恐らくFランク勇者だ。問題無い、俺だけでも倒せる」

「本当ですか!」

「ああ、俺はCランクの勇者ハンターだぞ、余裕だ。だが、とばっちりを受けるかもしれない。あんたは少し下がってな」

「は、はい!」


 言葉を受けて男は後方へ下がる。

 そしてロバートは、手にしていた剣の切っ先を俺の方へと向けてきた。


 ああ、もう、これ完全にイっちゃってるよ、この世界。

 勇者ハンターとか、魔物ハンターみたいな言い方だし。

 勇者とモンスターの立場が逆転しちゃってる世界ってこと?

 そんなの俄に信じがたいけど、こんなふうに現実を見せられちゃ受け入れるしかない。


「しかし、まさかこんな所にまで勇者が入り込んでいるとはな……。今の内に始末しておかないと面倒なことになりそうだ」


 その言い方からして他にも勇者がいるってことなのか?

 ともあれ、このままじゃ殺されてしまう。なんとかしないと。


「あのー……一応、こちらに戦う意思はないんですが……」

「は? そんな言葉に耳を傾けるとでも思ったか? 油断させようと思ってもそうはいかないぞ! この悪魔め!」


 悪魔って……どちらかというと、あんたの方がそれに近い見た目だと思うけどな……。


「勇ましき悪は無垢へと還れ!」


 なんか思想主義者みたいなこと言い出したぞ……。

 あと〝勇ましき悪〟って何?

 なんか矛盾してる気がするけど……。


 てか、ダメだなこりゃ……。

 やっぱ戦うしかないのか……。


 幸い、こっちにも武器はある。

 ただ気になるのはFランク勇者だと言われたことだ。

 もしかして俺、弱いの?

 なんだか不安に陥り始めた時、先に相手が動いた。


「成敗っ!」

「っ!?」


 ロバートの剣が空を切る。

 危な……。

 俺はなんとか咄嗟に避けることができていたが、運が良かっただけ。こんなのそう何回も続けられない。

 次は確実にバッサリだ。


 なら……こちらから仕掛けるしか!

 俺は剣を強く握ると、ロバートの頭を目掛けて振り下ろした。

 向こうも剣の腹で受け止めに来る。

 直後――


 パキッ


 嫌な音が耳に響いた。

 見れば持っていた剣が根元から折れていたのだ。


「ええっ!?」


 こんなあっさり折れるんかいっ!

 勇者の剣どころか、ただのなまくらじゃねえか!


「少しばかり、すばしっこいようだが、これで終わりだ!」


 ロバートは無防備な俺目掛けて剣を振り下ろす。


 ヤバい! やられる!

 転生早々、俺は何もせずに死ぬのか!?

 何か手立ては……。


 ……!

 そうだ!

 さっき剣技を試そうとした時、力が集約されていく感覚があった。

 もう、それに賭けるしかない!


 俺は手にある剣の柄に意識を集中させる。

 すると、再びあの時の感覚が舞い戻る。


 その刹那だった。

 折れた剣の柄から光の刃が伸びる。


「ぐはっ……!?」


 気づけばその光の刃が、硬そうな鱗で覆われたロバートの腹部を貫いていた。


「な……なんだ……その剣は……?」


 相手は意想外の出来事に困惑していた。

 だが、それが彼の最後の言葉となった。


 ゆらりと倒れたリザードマンの巨体が地面に打ち付けられる。

 すると、呆然とその様子を見ていた仲間の男が、引き攣った表情を浮かべる。


「う……うわぁあぁぁぁっ!?」


 彼は狼狽え、後退り、そのまま脱兎の如く逃げ去ってしまった。


「ふぅ……。なんとかなった……っぽい?」


 俺は自分の手元に目を向ける。

 すると、そこにあったはずの光の刃は既に消失していた。


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2026年1月2日 20:00
2026年1月3日 20:00
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最恐勇者 ~勇者が悪者の世界に転生した俺は、光属性魔法を極めて魔物たちにもっと恐れられます~ 藤谷ある @ryo_hasumura

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