体を泥に変えてでも、たった一人の家族は守る

電子サキュバスショコラ・ケオスリャー

第一話:泥の悪魔との契約


「買い物はこれで全部?」

 僕は彼女に笑いかけた。

「うん、これで数日分の食料は買えたよ!持ってくれてありがとうね!」

 彼女は星屑のような尊い笑顔をみせる。

「これくらい、当然だろ?僕の方が背が高いんだし、それに兄貴分として当然じゃないか」

「もう、お姉ちゃんは私でしょ!なーにをいい気になってるんだか」

 ゲシっと軽く僕を足蹴にしてから、悪い気はしないと言った風な、むくれっ面をしてアルシエ・エルアルは腕を絡めてきた。

 傍から見れば彼氏彼女のように見えるかもしれないが、僕らにはそんな気持ちは決してなかった。だって僕は彼女の兄として守らねばならない立場なんだから。

 

 彼女とは、物心つくころから既に家を近くして家族の接点があった。親同士の仲からよく付き合いがあって、暇さえあればよく遊ぶ。そんな日常が僕らにはあった。

 けれど、とある時を同じくして僕らの両親は命を落とした。


 それからというもの、二人でなんとか生計を立て、半ば夫婦のような、兄妹のような関係で生きてきた。

 彼女曰く、「カルマは弟で、私が姉だ」との弁だが、僕から言わせれば僕よりも背の低い彼女の方が妹にしか見えない。どうせ年も変わらないんだし、いいかげん年上の座を明け渡して素直にしてくれたらいいものの、彼女はその座を明け渡すつもりは一切ないらしく、今に至るまでこのような態度を続けていた。


「腕にくっつくなら逆の腕にしろよ、荷物を持ってる方だと歩きにくいだろ」

「利き腕の方が力は強いんだし、お姉ちゃん一人分くらい、よゆーでしょ?」

「そういう問題じゃなくて、二人の間だと荷物が足にぶつかって揺れるだろ」

「そういうこというんだったらもう一生しなーいよっ!」

 アルシエがパッと腕を離した瞬間、店の外から、地鳴りのような低い音が響いた。

「えっ!なに、今の音……?」

 アルシエが小さく僕の腕にしがみつく。今度は荷物の邪魔にならないように、肘より腕に寄り添う形で。

 

「ひっ!何あれ!」

 アルシエが指さした方向、建物との間に、外の通りから黒いものが流れていくのが見えた。いや、それは「流れている」のではなく、「這っている」のだ。

 泥のような黒いトカゲのような何かが地面を覆い、ひとつ、またひとつと人の形に盛り上がっていく。

 それは人間の形をしていたが、皮膚の下を黒い液体が蠢き、ところどころ身体が崩れ落ちては泥のように滴り落ちていた。


 「……あれ、人間じゃないのか?」

 化け物はよろめきながら歩いていたが、目に入った人間へと突進した。突き飛ばされた人が地面に転がり、倒れた。すると触れた個所から身体が侵食されていく。


 「おいおい、嘘だろ……逃げるぞ!アルシエ!」

 腕を後ろに回して、掴んでいたアルシエを後ろに回す。

 「えっあっ待ってカルマが先!お姉ちゃんが後ろ守るから!」

 「そんなこと言ってる場合じゃない!身体的に優位な僕が後ろにいるべきだ!化け物からは僕が守る!だからアルシエは先に!」

 こうしてやり取りしていると、化け物は逃げる人々の中からこちらへと真っ直ぐ走ってきた。

 「っしまった!!アルシエ!!!」

 アルシエの手を引こうとした瞬間、化け物はアルシエに向かって手を伸ばした。

 ただの人の化け物であれば今の間でアルシエを抱きしめて庇えたはずなのに。その化け物は腕が泥のように伸び、彼女を突き飛ばした。

 突風に煽られる枯れ葉のように、勢いよくアルシエは吹き飛び、壁に打ち付けられ倒れた。


 胸の奥が焼けるような恐怖と怒りが込み上げる。


 その瞬間――頭の奥で声が響いた。

『その腕をよこせば、女を守ってやる』

 耳鳴りのように繰り返す声。それは、僕自身の声だった。

 ――アルシエを、守るためなら。

 僕は、差し出すしかなかった。

 

 「アルシエに、手を……出すな――――!!!!」

 僕が全身に力を込めて右手を突き出すと魔法陣が現れる。そして、その魔法陣は右てを包みその腕を徐々に溶かしていった。


「あぐっ!あああああ!!!」

 激痛が襲う。焼けつくようなじわじわとくる痛みと、骨を削るような真に迫る鋭い痛みが同時に右肩から送られてくる。

 見る見るうちに僕の腕は溶けていく、赤黒い泥と化して地面に落ちていく。

 何が起きているかわからない。それでも、伸ばした右手は止まらない。伸ばし続けて、その姿失っても彼女を守ろうと突き出し続けた。

 既に肩から先が無くなってしまっても。僕の右腕は彼女を守りたいと願い続けた。

 幻の痛みが右腕を覆う。

 見えなくなっても、彼女を求める。その願いは悪魔に届く。

「お前の腕は俺の物。女を守ってやるよ、かわりにな」

 耳の奥から響く声。なぜだか、奇しくも僕と同じ声だった。いや違う、それは僕の口から放たれていた。



 ――――――


 「はっ!?」

 気が付くと、融けて消えたはずの腕が、巨大な化け物の腕と化し怪物の胴体を握り潰さんと掴んでいた。

 「誰だかわからないけど、彼女を助けられるのなら、こいつを、この腕で……潰して、やる――!!」


 ぐしゃりと捻じれ、化け物は吐しゃ物を撒き散らしたような音とともに掻き消えた……。

 その後、僕の腕はずるずると肩先にしまわれるかのように短くなって、元の腕へと姿が戻っていった。

「い、いまのは一体……。それよりも、アルシエ! よかった、息はある……」

 アルシエは化け物に突き飛ばされたときに倒れて、意識を失ったまま、彼女は僕の異形と化した腕を見ることはなかった――。

 

――――――――――――――――


あとがき

カフェインを久しぶりに摂取したら突然思いついて衝動的に書いちゃった……。だから続きが書けるかわからないの。

良かったら、いいねやコメントで応援してくれたら続き書ける、かも!??!??!??!??!??!?

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体を泥に変えてでも、たった一人の家族は守る 電子サキュバスショコラ・ケオスリャー @swll

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