電話ボックス

かみあだりん

第1話

私はA町からH町へ通勤しているのだが、その通勤路に電話ボックスがある。



田舎ゆえ、通勤路といっても山越えの峠道、しかも町境の山頂には700mほどの薄暗いトンネル。

そのトンネルを出てすぐの木の枝に隠れた場所に電話ボックスがポツンと1つある。


電話ボックスの場所は人気のない山頂、民家はおろか人が歩くような場所でもないし車通りも少ない。通勤途中で毎日のようにすれ違うのはせいぜい数台の車だけだ。バスなどの公共交通機関も皆無である。


なぜあの場所に電話ボックスが設置され、しかもなぜ未だに稼働しているのか理由は不明だ。




残業などで夜遅くに電話ボックスの前を通ると、申し訳程度に薄っすらとついているボックス内の電気に照らされて人影が見える時がある。


「……ん?? 人??」


とは思うのだが、車で通りすぎるため実際に停車して確認したことはない。

もちろん、確認するのが怖いということもあるのだが…



同じ通勤路を使っている同僚やH町の職場で山頂の電話ボックスのことを聞いてみたこともあるが、一様にして皆がその存在を知らない。

そのくらいわかりにくい場所にあるのだ。



ただ一度、ひとりの同僚がほかの人に聞こえないように小声で話してくれたことがある。



現在、H町側の山のふもとには大きな葬儀場がある。20年ほど前に隣町から移転してきたそうだ。

そこで葬儀が行われている日は山頂の電話ボックスに人影が見えることがあるという噂があるらしい。


残された家族や友人に生きていたころの感謝を伝えているのか、

将又はたまたやり残したことや恨みつらみを伝えているのか…。


とにかく、理由はわからないが葬儀のある日は人影が見えることが多いらしい、のだと。



現に、同僚は心筋梗塞で急死した父親から電話がかかってきたらしい。


「これからは母親のことを頼むぞ」と。


亡くなったはずの父親から突然電話があったので、同僚は驚いて「…わかった」としか返事ができなかったと言っていた。


今思えば、父親がどこから連絡してきているのか、普段は知らない番号からかかってきた電話には出ないようにしているのに、その時はなぜ電話に出てしまったのかと不思議がっていた。


そして、父親から連絡があったことを母親に伝えると、近所の人からも同じような話を聞いたことがあるといわれたそうだ。


例えば、近所のおばさんは不慮の事故で亡くなった娘さんから「来月の旅行に行けなくなってゴメンね」とか、同じ町内のおじさんは病気で亡くなった奥さんから通帳や印鑑の置いてある場所の連絡があったそうだ。



ただ、その同僚も同僚の母親も、恨みつらみの連絡があった人の話は今まで聞いたことがないというのだ。


……それはその人たちがすでにこの世に存在していないからだろうか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

電話ボックス かみあだりん @wgdpwgd

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ