第31話 ギャルヒロインは罠にはまった振りをする
――――【美里目線】(颯真の呼び出し直前)
アリシアの奴……マジで迷宮探索校を辞めちまうなんてな……。
前はうじうじ一人で悩んでることが多くて、いかにも薄幸の美少女って感じだった。それでいて学食で何食べようかアリシアだけ悩んでて、こいつ決断力に欠けるなって思ってたんだけど、もう昔の面影はもうない。
アリシアは哪吒と出会って変わった。
彼女から寄せられたメッセージを見て、思わず笑ってしまった。
《私はもう迷わない 本当に好きな人が分かったから 筧さんはまだ迷ってるの?》
しっかり人を煽ってきやがんだから……。
《喧嘩上等! 受けて立つ》
秒で打ち返してやった。あたしだって譲れないもんがあんだよ。
親父とお袋……何て言うかな?
あたしが迷宮探索校辞めたら……。
『美里がまた情熱を燃やせるもん、見つけたんならおれは何も言わん。そのまま突き進め』
『バレエを辞めて荒れてたあなたがまた打ち込むものを見つけてくれて良かった』
あたしが中学を卒業する際に迷宮探索校に行くって言ったら、両親は驚いたと同時にすげえよろこんでくれたんだよな。
少し後ろめたい気持ちはあるが、このまま迷宮探索校に残っても碌なことにはならねえ。
れもんは家のことがあるから転校すんのは難しいかもしんねえ……。ただパーティーを移籍すれば問題ねえだろ。それに颯真に反旗を翻したんだ。あいつもまさかあたしたちをずっとパーティーに置いておきたがるとは思えねえし。
じゃあ、転校の手続きでもやろうかと思ったときだった。
颯真から呼び出しがあり、ちょうど良い機会だと思った。パーティーを抜けると直接言ってやるチャンスだと。
だけど、瑠衣がいるなんて思いもしなかった……。
「何しやがった!?」
「な、なにこれぇぇ?」
「私が猛毒スキル持ちであることは知ってますよね? 私に逆らえばあなた方二人にはそのチョーカーから即死クラスの神経毒が注がれるんですよ、死にたくなかったら私の指示に従ってくださいね。そうじゃないと愛しの哪吒先輩に会えなくなっちゃいますからね」
網代瑠衣……颯真の従姉妹で欲しいものならどんな手段を使ってでも手に入れるクズ女。そんな瑠衣はあたしのバレエ時代の後輩だった。
あたしが中学生でありながら、プリマだったときに瑠衣はかわいげのある後輩として接近してきた。
『セーンパイ、お疲れさまですぅ』
満面の笑みで瑠衣はあたしにタオルを差し出した。レッスンで汗を掻いて疲れていたあたしにはその気遣いが
瑠衣もあたしに並ぶくらいレッスンを積んでいたが、かわいい後輩だから手を抜くってのは何か違うと思ってプリマの座はあたしが保持してた。
瑠衣は顔にこそ出さなかったが悔しかったんだろう。まさか瑠衣があんな汚い手を使って、あたしからプリマの座を奪うなんて思ってもみなかった。
あたしが中二だったときの話だ。
『えっ? バイテロでうちが炎上?』
バカッターのバイトによって、食材をおもちゃにする動画が拡散、飲食店のフランチャイジーだった親父の会社はウーウルの口コミで監督不行き届きを問う声で溢れ、評価は地に落ちた。
親父はひたすらお詫び行脚を繰り返した結果心労で倒れ社長である親父を欠いた店は経営が傾き、結局店を泣く泣く手放す羽目になった……。
それ以降あたしはバレエに集中できなくなった。
親父とお袋は自分たちが苦労してもあたしにバレエをさせたかったみたいだが……。
それすら許されなかった。
『美里先輩は私が実力をつけていくのが憎くて、靴を隠したり、またあるときは画鋲を入れたり、私の大切なチュチュを汚したりしたんです……』
瑠衣はバレエ教室の先生と生徒たちの前で涙ながらに訴えてた。
『はあ? 何言ってんだよ! あたしはそんなことしてねえよ!』
あたしは先生に無実だと訴えたが……。
『筧さん、残念だけどあなたが網代さんに意地悪してるところを見たって、他の子が言ってるの……』
あれほどあたしを天才プリマだと持て囃した仲間は鋭い視線をあたしに浴びせ、誰一人として話を聞いてくれる者はいなかった。
先生があたしをプリマから降板させたとき、泣いていたはずの瑠衣はあたしを見て、ほくそ笑んでいたんだ……。
もうここには居場所がないと悟ったあたしは荒れ放題に荒れていたが、進学先が決まらず……いや進学するかどうかも決めてなかったとき変なおっさんに出会った。
『おれが悪かった許してくれっ!』
『あ? 嫌がってる女の子を複数の野郎で連れて行こうなんてふてえ輩はここでぶっ倒れてろ』
女の子をナンパと称して、拉致ろうって馬鹿どもに私的制裁を加えてたとこだった。
あたしの蹴りが跪いて許しを乞う男の側頭部二当たろうかとした瞬間ガンッと脛から強い衝撃が走った。ジーンと振動が骨にまで響いてからじわじわと痛み出す。見知らぬおっさんがクズ男を守り、腕でガードしていた。
『世の中に不満があるならもっと暴れられる場所がある』
黒髪短髪のイケオジ……今思えばどこなく日向に面影が似ていたような?
『ああ? あんた、格闘技のスカウトか? あたしは格闘技なんかやんねえぞ』
『ははっ、今のキミだと格闘技では満足できないことは目に見えている。それに格闘技では網代家の者に報復はできないだろう』
『おっさん……あたしのストーカーか? あんたは警察へ突き出してやる……』
『待て待て! 話は最後まで聞いて欲しい』
おっさんがあたしを宥めようとしているとその隙を狙って不良どもが路地裏から走り去ろうとしていた。
『今の内にずらかるぞ!』
『あっ! 待て!』
『大丈夫だ。壁の向こうには警察が待機している。奴らはあぶり出された鼠と大差ない』
おっさんが言った通り、不良どもは警察に捕まっていた。
『キミの後輩に一泡吹かせたいのなら、迷宮探索校へ行くべきだ。それだけの格闘センスを腐らすのはもったいない。それにキミの両親も配信の収益で助けられると思うぞ。まあ行くかどうかはキミの判断になるが……では機会があればまた会おう』
『待てよ、おっさん。詳しく教えろ』
あたしは立ち去ろうとしていたおっさんから迷宮探索校の情報を集める。
そんなこんな経緯があり、面接官の前でバレエ仕込みの蹴りを披露してやったら、難関であるはずの迷宮探索校にすんなり合格してしまった。入学初日から颯真から勧誘を受けた。
『網代颯真だ。おまえ、いい女だな。良かったらオレのセフレにしてやんぜ』
『あ? 何寝言言ってんだ? 寝言は寝てから言えよ、勘違い野郎』
素人丸出しの読モレベルの容姿で勘違いしてる颯真からセクハラを受け、ムカついて中指を立てやった。
そのとき網代って名前にもしやとは思ったが、別に関わりになんねえ男だからと思い、スルーしてた。
それからもあたしは颯真からクドいほどパーティーに入らねえかとか、オレの女になったら好き放題させてやるとか、クソみてえな勧誘を受けてたが……。
『あっぶねえ! 何しやがんだ! このクソアマ』
『どっちがクソだ! 近寄んなっつってんだろ、忘れんなよ、この脳みそ1グラム以下の鳥頭がっ!』
ニヤつきながら近づいてきたところを狙って、回し蹴りを放ってやったが、寸前のところで躱されてしまう。
颯真からうぜえ勧誘を受ける日々が続いたが、あたしはどのパーティーにも入るつもりはなかった。何故なら日向がパーティーを作ってくれるとばかり思っていたから……。
だがあたしの命の恩人とも言える日向が颯真の演技に騙されて、パーティーに加入しちまったことであたしも不本意ながら加わった。
――――ダンジョン1層。
「てめえらに日向をやれなんて酷なことは言わねえよ。ただあいつに『助けてくれー!』って一言叫べばいいんだよ。誰にでもできる簡単な命乞いって寸法だ」
「何でそんなに日向のことを恨む? あいつはおまえに嵌められても恨み言の一つすら言ってねえのに」
「ああ? 哪吒はオレの大事なものを奪ったんだよ! アリシアに、てめえに、れもんに、他にもだ! オレが欲しい女はぜんぶあいつが持っていきやがるんだ。これが許されることか?」
「アホくせえ……。んなもん、おまえより日向の方が魅力的だっただけだろ」
「オレはこの国を牛耳る網代家の人間だ! 選ばれた上級国民の中の上級国民、超上級国民だ!!!」
「はあ……おまえ、言ってて恥ずかしくねえのか? おまえみたいに選ばれた人間とか思ってる奴はあたしらみたいな庶民にとって、とにかく付き合いにくいんだよ。それくらい分かれよ、馬鹿が」
「おい、瑠衣。この生意気な牝奴隷を黙らせろ」
「お兄さま、ダンジョンの中でセッ○スしたいとかウケるし」
「ちげえ! ただこいつの減らず口を黙らせろっつってんだ」
「ふふ、嘘ついてもだーめ。お兄さまが新しいオナホちゃんとダンジョンで○ックスしてるの、見たもん」
「瑠衣……てめえ、オレのもんでその口塞がれてえのか?」
「へえ、お兄さまの粗末なもので瑠衣の口を犯せるのかなぁ? クスッ」
「くそっ! てめえら、瑠衣の相手なんかしてねえでさっさと先行くぞ」
颯真はあたしが瑠衣に即死毒の首輪をつけられ、完全に支配下に置いたと思っているらしい。瑠衣もあたしが口でしか逆らえないことにご満悦といった表情だ。だけどな、あたしもあれ以来演技ってもんを学んだんだよ。
瑠衣……おまえは残念な奴だ。
あたしはおまえに実力でプリマの座を勝ち取って欲しかった。妙な小細工なんてせずにさ……。
おまえは今度あたしに確実に敗北する。
Sランクパーティーの前衛がちっとやそっとの人間の致死量の程度の毒で倒れてたら、務まんねえんだよ。
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