第29話 ヒロインは遅れてくるもの

 今日が活動報告期限。迷宮部はシミュレーターで俺を除く四人で100パーセントの確率で髑髏卿スケルトンロードを攻略可能になっていた。


 協会にもばちっと探索届を提出し、あとは深淵へと潜るだけとなっていたのだが……。


 部室で装備品の再チェックを済ましたあとで、シノブが悲鳴にも似た声を上げた。


「来てないって、どういうことなの!?」

「部長、おれに訊かれても分かんないっすよ」


 焦燥の色を見せるシノブが赤沢に詰め寄るが、赤沢は首を左右に振って困惑していた。そこへ伊勢が青い顔をしながら慌てて部室に戻ってくる。


「シノブさん、大変です。佐渡くんが登校中に轢き逃げにあって、緊急搬送されたと……」

「なんですって!?」



 佐渡は東都大付属病院に搬送されていた。応急処置済みだったらしいので、迷宮部で佐渡のお見舞いへ行った。


 命に別状はなかったようで、ひとまず安心したが怪我があまりにも痛々しい……。


 右足はギブスと包帯で固められ、牽引器具で宙吊りにされていた。左手は肩から下げられた紐で位置を固定されたアームホルダーにくるまれている。


 シノブが佐渡に大丈夫かと声を掛けると佐渡は人目も憚らず大粒の涙を流した。


「部長……すんません……。おれ悔しいっす! 日向さんに教えてもらってせっかく強くなれたのにこんなところで指咥えて、迷宮部がなくなるのを見てるだけなんて……」


「大丈夫! 迷宮部はなくさせない。佐渡くんは怪我を治すことに専念して。治ったらまたダンジョン探索しましょ」


 シノブは佐渡の前で拳を握り、諦めていない姿を見せた。


「ううっ、ううっ、ありがとうございます……ぶちょおぉぉぉ……」


 学園に戻る途中の道でのことだった。


「はあぁぁぁぁ…………」


 佐渡のお見舞いを終え、病院から出たシノブは深い深い溜め息を漏らした。彼の前では弱気をおくびにも出さなかったが、内心は違ったようだ。



 部室で対策を練ろうとしていたときだった。


「森野部長、期限は今日だが、こんなところで油を売っていてもいいのかね? それとももう諦めたのかな?」


 見計らったように生徒会長の石動が現れたのだ。


「なんて卑劣な手段を!」


 伊勢が石動を見た瞬間噛みついた。


「はあ? なんのことかな? まさか私が佐渡くんの事故を画策したとでも言うのかね? もし、そんなことを言えば私はキミを名誉毀損で訴えるが良いのかね?」


 ぶん殴ってやりたい、その笑顔!


「ここまで腐ってたなんて」


 赤沢ががっくりと膝を床へ落としてしまう。


 迷宮部はその歴史を閉じてしまうかもしれないが、俺は少しだがうれしかった。部活をそれぞれの事情で休んでいた佐渡、赤沢、伊勢の三人が迷宮探索にやる気を見せてくれたことに。


 諦め切れない伊勢はシノブに提案した。


「部長! 人数合わせくらいなら……」

「ううん。人数合わせはできても、経験のない子は途中で脱落したり、そのまま気後れして動けなくなってしまったりするかも。そもそも探索を望まない子を危険な目には遭わせられない」


 直接手を下してないにしても、佐渡の事故に石動が関与してる可能性は高い。ただすぐに馬脚を現すほど奴も馬鹿じゃないようだ。


 卑怯な石動と誠実なシノブでは相性が悪かった。


 石動は生徒会役員とにやにやと笑いながら、迷宮部の終焉を見届けるつもりらしい。


「随分と暇そうだな。生徒会の業務はしなくていいのか?」

「心配ご無用。優秀な私はすべての業務を終えて、ここに来ているのだよ」


 俺たちが石動と丁々発止でやりあっていると部室の外から窓を覗いている人物がいることに気づく。この状況で入部希望の生徒が来るなんてことは有り得ないだろう。仮にもし来てくれたたしても迷宮探索協会から許可を取らないと……えっ!?


「お待たせ、な、哪吒くん」

「えっ? 御門さん!?」

「ど、どうかな? 似合うかな? 転校してきちゃった……」


 銀糸の髪が漆黒のセーラー服と強いコントラストを生み出し、その美しさに目を奪われた。彼女が部室へ入るだけで春風のような良い薫りが漂ってくるような気がした。


 いつもクールに澄ましたアリシアがふふっとはにかんだ表情に目が奪われる。俺と目が合うと恥ずかしそうに視線を反らしながら前髪をかき上げていた。


 セーラー服姿のアリシアは恥ずかしいのか俺を見たり、視線を外したりと落ち着かない様子だった。


 シノブの椅子から立ち上がる勢いが強過ぎて、椅子が床に転がる。


「まさか!? あの御門アリシアがうちに!?」


 俺は救いの天使アリシアさまにお願いする。


「急なお願いで済まないんだけど、今から付き合ってくれないか?」

「えっ!? 本当に……うれしい」


 ダンジョン探索という文言は抜いてしまったけど、俺がアリシアみたいな美少女と付き合える訳がないから勘違いされることはないだろう。


 彼女は俺の言葉を受けよろこんでくれていたけど、やはり御門家のご令嬢だ、ダンジョン探索には目がないらしい。


 アリシアが俺たちに付き合ってくれると分かり、すぐにシノブに進言した。


「部長、のんびりしてる暇はないよ。すぐに御門さんを部員に登録して、協会に探索届の変更をしよう」

「ええ……」


 放心状態だったシノブはスマホを取り出し、協会のHPへアクセスしている。だが石動たち生徒会がシノブを囲む。


「そんなことがまかり通って溜まるか!」

「俺以外であることと人数は指定されたが、探索する部員の変更は条件に入っていない。もしかしてあとから付け加えるとでも?」


 俺は生徒会がシノブに近づかないよう赤沢と伊勢と連携して壁を作って阻止した。


「登録変更を完了したわ!」


 伊勢と赤沢から「やった!」という歓喜の声が漏れる。


「くそっ!? 覚えておけよ、無事にダンジョンから帰れると思ったら大間違いだぞ!」

「意外だな、会長が俺たちのことを心配してくれるなんて。俺はもっと会長がドライな奴かと思ってたよ」


「心配などしてないっ! なんてムカつく奴なんだ! 私は不快だ! 帰るぞ!」


 生徒会役員か立ち去る石動のあとを金魚の糞のように追っていた。


 石動たちにとっては誤算だろう。佐渡以上のメンバーが加わってしまうなど。


「あまり時間に余裕はないわ。今から迷宮に潜ります! そして迷宮部を存続させるの!」

「「「おー!」」」


 俺たちが出発式の拳を突き上げると、アリシアが少し戸惑った様子で拳を突き上げていた。


「お? おー!」

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