第11話 彼氏の実力を見抜けない彼女

――――【ゆき目線】


『ほら、ゆき。遠慮すんなって』

『で、でも……』

『哪吒だって、ゆきがもっとかわいくなったらほっとかねえって』

『そうかな?』


『絶対そうだって。かわいい女の子が嫌いな男はいねえ。それはオレが保証してやるよ』


 私は颯真くんに誘われ、美容院、眼鏡店、ネイルサロン、ブティックを梯子していた。普段、足を踏み入れることのない高級店のサービス料金と値札に頭がくらくらしてきてしまうけど、颯真くんは……。


『支払いはこいつで頼む』

『畏まりました、網代さま』


 店員さんが颯真くんから恭しくブラックカードを両手で受け取ると料金を精算していた。


 学生なのにブラックカードを持ってるなんて、やっぱり颯真くんとは同じ学校なのに住む世界が違う……。


『見ろよ、ゆき。はっきり言って生まれ変わったんじゃね?』

『うそ!? これが私?』


 颯真くんから姿見で自分を見るように勧められ、確認すると驚いてしまった。姿見にはまるで雑誌を飾るモデルのようになった私が映っていたのだから……。


『嘘じゃねえよ。元々ゆきはポテンシャルがあったんだ。自信持てよ』

『う、うん……』


 長くてボサボサした髪はショートボブに、黒くて地味な髪色は染めて明るくなっている。最も野暮ったかった眼鏡からコンタクトに変えて、私は見違えるほど垢抜けていた。



『じゃあな、ゆき。哪吒に綺麗になった自分を見せて怖がらさせてやれ』

『うん! ありがとう、颯真くん』


 運転手付の車で家の前まで送ってもらう。颯真くんは窓を開け、私に向けて拳を突き出した。恐る恐る私も拳を突き出し、颯真くんの拳と合わせた。


 何か変なことされないかと警戒したけど、颯真くんは紳士そのものだった。



 翌日の放課後、私は久々に哪吒くんと帰宅していた。


 哪吒くんは垢抜けた私を見て驚いていたけど、どこか浮かない顔をしていた。もしかしたら、他の男子が私を見てくることに嫉妬していたのかもしれない。


 だったら颯真くんの作戦は見事に成功だ。


『哪吒くん、ほら見て! この前のダンジョン攻略配信の再生回数が10万超えたよ! やっぱり颯真くんって凄いよね』


 哪吒くんにスマホの画面を見せると、彼は画面に釘づけになった。


 画面では颯真くんがワーウルフが持つ石槍の突きを少し首を振ってコンパクトに避ける。彼は石槍の柄を左手で掴むと突きの勢いそのままに投げ飛ばした。


 ワーウルフは颯真くんが右手で持ったロングソードにより腹を裂かれており、瀕死の重傷を負っている。


 回避と攻撃を同時に繰り出す……。


 目の前で颯真くんの流れるような動きを見たときは流石S級パーティーのリーダーだと感心してしまった。


 その一方で哪吒くんは背後からやってくるモンスターはいないか見張りの役割を果たしていた。


 引き抜かれたとき、哪吒くんがパーティーの中で大活躍しているものとばかり思っていたけど、地味な役回りを目の当たりにしてちょっとがっかりしてしまった。


 にも拘らず哪吒くんはアリシアさんたちと話しながら適当に颯真くんのサポートをしているようだった。颯真くんが哪吒くんたちに怒るのも無理はないと思った。


 颯真くんが倒れたワーウルフの胸にロングソードを突き立て止めを刺した。動画を切りの良いところまで見届けた哪吒くんが口を開く。


『そっか、なら良かった。ちょっとでも雛子の治療費を稼いで母さんを助けられる』


 真面目な哪吒くんと派手な颯真くん。


 真反対と思われる二人がなぜ一緒のパーティーなのか最初は分からなかったが、哪吒くんはダンジョン配信で稼げると颯真くんに持ち掛けられ、加入したようだった。


 颯真くんが哪吒くんのことを評して、『あいつはオレの最高の引き立て役なんだよ』と笑いながら言っていた。


 哪吒くんは『俺はゆきを危ない目に遭わせたくなかった』と言っていたけど、もしかして自分の格好悪いところを私に見られたくなかったのかもしれない。


 それに哪吒くんはパーティーでダンジョン攻略をしようと言っているのに、途中で私たちから離れて長時間トイレに行ってしまったりする……。


 颯真くんの格好良さに比べて、哪吒くんが少し情けないように思えてきてしまっていた。



――――【哪吒目線】(10万再生の裏側)


 俺は緊張で腹が痛いなどと適当な理由を付けて、パーティーから一時的に離れていた。今頃颯真がゆきたちの前で俺のことを散々貶していることだろう。


 だがそんなの俺にとってはどうでもいいことだ。妹の雛子の治療費が稼ぐために、あえて羽振りのいい颯真のパーティーを選んだんだから。


 マスクをして、フードを被る。


 暗殺者アサシン風の格好をすると、いつもながら厨二心が沸き立つ。


 撮影用ドローンに俺の顔が映ってしまうと色々と都合が悪いのでこんな格好をしているが、一つ下の階層に降りると突然撮影用のドローンの赤いランプが消えてしまった。と、同時に階層を繋ぐ階段が上へとせり上がってしまう。


 退路を塞がれた哀れな探索者を嘲笑うかのように俺の周りをワーウルフの群れが囲っている。


 トラップフロアか……。


 俺が見立てた通り、颯真が計画した探索ルートには罠が潜んでいた。重傷で戻れれば御の字、最悪は死を覚悟しなければならない。


 本当に良かった。


 颯真の固有スキルは【帝王の玉座マウンティング】。優位に立っている場合は颯真自身に能力上昇のバフが掛かるが、形勢が不利になるとデバフが掛かるという厄介なものだ。


 ワーウルフがじりじりと間合いを詰めてくる。


 あと一歩……。


 突撃隊長なのか分からないが左目が疵で塞がったワーウルフが俺の攻撃範囲に入った瞬間、抜剣。


 グァァァァッ!!!


 隻眼のワーウルフが叫び声を上げた。胴体に十字の深い傷が刻まれる。


 目の前のモンスターを倒したことで一瞬ワーウルフたちがたじろいだが、その程度で逃げ帰ってくれるほどワーウルフは臆病者ではなかった。


 数に任せて俺を蹂躙しようとしてくるのだ。


 槍衾やりぶすまが俺に迫ってくるが、ギリジャンで回避するとワーウルフの互いの槍で見事に同士討ちをやらかしている。


『おまえたちに恨みはないけど、俺の母さんと雛子ために狩らしてもらう』


 俺は槍が刺さって動けなくなったワーウルフの首を両手の剣で薙ぐだけという誰にでもできる簡単なお仕事をしていた。


 そんな波状攻撃を回避し、狩るを繰り返していると攻撃の勢いは落ちてきた。


 颯真がトラップフロアに引っ掛かればパニックを起こして、俺以外は全滅しかねない。あいつは予想外のことが起こると対応できないのだ。


 だから俺はこそこそと地均しをしたあと、何食わぬ顔でパーティーに戻り、颯真が無双するダンジョン配信を演出している。


 無謀な颯真の世話は焼けるが、地味な俺が立ち回ってる光景よりルックスのいい颯真が暴れてくれる方が配信が伸びる。


 ただ颯真にこのことが知られると、あいつののとだ。必ず機嫌を損ねるに違いないから知られないように振る舞う必要があった。


 ワーウルフの包囲の厚みは徐々に消え、最後の一体となる。


 胴体に手応えがあったが、ワーウルフは俺の前から逃走してしまった。


《トラップフロア解除》


 ホログラムの文字が空中に浮かび、せり上がっていた階段がゴゴゴゴと轟音を響かせながら大地へと降りてきた。これで俺はパーティーと合流できる。


 あとは颯真が何も知らずにモンスターを倒してくれればチャンネル登録者数が増えてWINーWINだ。


 あとは颯真の虚栄心に巻き込まれて、アリシア、美里、れもんの三人が死ぬようなことはあってはならない。


 俺はどれだけ颯真から馬鹿にされようが地均しを続ける気でいた。颯真が暴走して、レイドボスの呪竜カースドラゴンに挑む日までは……。

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