第十七話「ハズレアイテムの価値」

俺は、ボールスさんから渡された「宿題」について、頭を悩ませていた。

遺跡での、あの思考法。

小石を「武器」ではなく「鍵」として使った、あの発想の転換。

あれを、どうすれば、俺のガチャスキルに応用できるのか。


「うーん、分からん!」

俺が、訓練場の隅で頭を抱えていると、ボールスさんが、獰猛な、それでいて、どこか楽しそうな笑みを浮かべて、近づいてきた。


「まだ、そんなことで悩んでいるのか、この大馬鹿者が。まず、貴様のガチャスクリーンを見せてみろ」

「え、ああ・・」

俺がスクリーンを出すと、ボールスさんは、その中身を、鋭い目つきで一瞥した。


「なるほどな。話にならん。そもそも、スキルというものは、使い手の意志と経験に応えて『成長』するものだ。貴様は、その入り口にすら立っておらん。何も使いこなせていない」

「そんなこと初耳だ! 今まで、スキルの使い方なんて、誰も教えてくれなかったんだから、仕方ねえだろ!」


俺が、半ば八つ当たりのように叫ぶと、ボールスさんは、鼻で笑った。

そして、意外なことを、聞いてきた。


「アーサー。この『ポイント』とやらは、敵を倒すと手に入るのか?。例えば、一番弱い魔物・・ゴブリン一体で、いくつだ?」

「え? ああ、ゴブリンなら、大体10ポイントくらいだな。もちろん、敵の強さによって、入るポイントは、全然、変わってくるけど」


俺の答えに、ボールスさんは、腕を組んで、なるほどなと頷いた。

彼は、俺のスキルを、その根源から、理解しようとしている。


「ならば、体で覚えろ。貴様のような馬鹿には、それが一番だ」

ボールスさんは、俺の前に、一枚の依頼書を突きつけた。

そこに書かれた名前に、俺は、思わず息を呑んだ。


「盗賊団(ブラッディ・ファング)の討伐・・!? こいつら、少し前に、王家の輸送部隊を壊滅させたっていう、あの・・!」

「そうだ。ゴブリンなどとは、訳が違う。頭目(かしら)でなくとも、一人一人が、そこらの騎士団兵より手強いと思え」


脳裏に、あの森の光景が、鮮烈に蘇る。

剣を通して伝わった、肉を断つ、生々しい感触。

立ち上る血の匂いと、絶命する瞬間の、男の目。

そして、今も、胃の奥にこびりついているかのような、あの吐き気。


俺は、自分の手のひらが、冷たい汗でじっとりと濡れていることに、気づいた。


「だが、それだけの相手だ。貴様の計算では、ポイントも、それなりに稼げるのではないか?」

「そりゃ、まあ・・。ゴブリンの数倍には、なるだろうけど・・」


その言葉の裏にある、本当の意味。

「人間を殺せば、莫大なボーナスポイントが入る」という、呪われたルール。

それを、俺は、口にすることができなかった。


「ならば、話は早い。貴様に課題を出す」

ボールスさんは、俺のガチャスクリーンを指差した。


「この任務で、1000ポイント以上稼いでこい。そして、その1000ポイントで10連ガチャを引き、SR以上のアイテムを二つ、出してこい」

「はあ!? SR以上二つ!? 10連ガチャの確定枠は、一つだけだぞ! 残りは、完全に運じゃねえか!」


「そうだ。その『運』を、貴様の『思考』で、必然に変えてみせろ。それができなければ、貴様はここで野垂れ死ぬだけだ」


無茶苦茶だ。

だが、この人の目は、本気だった。


「・・面白え。やってやろうじゃねえか」

俺は、ニヤリと笑って、依頼書を受け取った。


遺跡での、あの思考法。

小石を「武器」としてではなく、遺跡に「問いかける」ための「鍵」として使った、あの発想の転換。

ボールスさんの宿題は、きっと、そういうことだ。


答えは、まだ見えない。

だが、俺がやるべきことは、ただ闇雲にガチャを引いて、SRが二つ出ることを「運」に祈ることじゃない。


あの時、俺は、ただの石ころで、遺跡のシステムに干渉した。

なら、今度は、俺の「意志」で、ガチャのシステムそのものに、干渉してやる。


「SRを二つよこせ」と、神様の喉元に、ナイフを突きつけるように、強く、強く、要求してやるんだ。


俺は、腰の剣を確かめると、ルナと共に盗賊団が潜むという森へと向かった。

本当の地獄は、ここからだった。

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