第十二話「新たな決意」
「ぼーっとしている場合か!」
「遺跡が崩れるぞ!」
「急げ、撤退だ!」
ボールスさんの怒号が、崩落の轟音を切り裂いて響き渡る。
俺は、呆然とした意識を引き戻され、何とか立ち上がった。
周囲では、天井や壁が巨大な岩塊となって、次々と降り注いでいる。
世界が終わる、というのは、きっとこういう光景なんだろう。
「ケイ! エレイン! しっかりしろ!」
俺は、意識が朦朧としているエレインを背負い、ケイは砕けた盾を手に、ふらつきながらも立ち上がった。
だが、出口へと続く通路は、既に巨大な瓦礫で塞がれている。
「クソッ、逃げ道がねえ!」
「案ずるな!」
俺たちの前に立ちはだかったボールスさんが、叫んだ。
彼の全身から、先ほどとは違う、静かだが力強い闘気が立ち上る。
ユニークスキル【獅子奮迅】の効果時間の3分間は、もう尽きたはずだ。
だというのに、この人の力は、まだ底が見えない。
「道は、俺が開く!」
ボールスさんは、その巨腕に【轟雷の篭手】を再び装着すると、崩れ落ちてくる巨大な岩塊に向かって、真正面からそれを叩きつけた。
ゴウッ!と、雷鳴が落ちたかのような轟音が響き、岩塊が、まるで小石のように粉々に砕け散る。
「行くぞ! 俺から離れるな!」
ボールスさんが、文字通り、道を切り開きながら突き進んでいく。
俺はエレインを背負い、ケイは砕けた盾を手に、必死にその後を追った。
背後で、研究所だった場所が、完全に崩落していく音が聞こえる。
「あそこだ! 飛び込め!」
ボールスさんが指差したのは、さっき俺たちが通ってきた、祭壇のある遺跡の中枢ドームへと続く通路だった。
俺たちは、なだれ込むようにして、その通路へと転がり込む。
その直後、俺たちの背後で、通路そのものが完全に崩落し、入り口を塞いだ。
俺たちは、間一髪で、遺跡の中枢ドームへとたどり着いた。
遺跡の中枢ドームは、不思議なほど静かだった。
外で研究所が崩落していく轟音が、まるで嘘のように、分厚い壁に遮断されている。
俺たちは、ようやく訪れた安息に、へたり込むようにして座り込んだ。
「二人とも、大丈夫か」
俺の問いに、ケイは、砕けた盾の残骸を抱えたまま、力なく頷いた。
その腕に残るモードレッドに受けた傷は深く、出血は止まっていない。
エレインは、魔力が尽きかけているにも関わらず、最後の力を振り絞り、ケイの傷に治癒の光を当てていた。
ボールスさんもまた、【獅子奮迅】の凄まじい消耗を隠すように、目を閉じて瞑想している。
俺は、自分の体を見下ろした。
多少の切り傷や打撲はある。
だが、動けないほどの深手ではない。
この場で、一番動けるのは、皮肉にも、一番無力だった俺自身だった。
俺は、震える足で立ち上がり、瞑想しているボールスさんの前に、膝をついた。
「ボールスさん」
俺の声に、獅子はゆっくりと目を開ける。
「俺を・・俺を、強くしてください」
俺の声は、震えていた。
悔しさと、不甲斐なさと、そして、未来への渇望で。
「俺は、何も分かっていませんでした。」
「自分の力が、どれだけ未熟で、中途半端なものだったのかを」
「あの男に勝つために、そして、俺の大切なものを、今度こそ守り抜くために」
「俺に、本当の戦い方を教えてください」
俺の言葉に、彼は何も答えなかった。
ただ、その鋭い瞳で、俺の覚悟を値踏みするように、じっと見つめている。
沈黙が、落ちる。
一秒が、永遠のように長い。
やがて、彼は重々しく口を開いた。
「貴様には、才能がない」
それは、あまりにも無慈悲な、事実の宣告だった。
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