『16barsの鼓動』第二十二章(改定完全版)

音楽室の空気は冷えきっていた。

 昨日の仲間割れの余韻が、まだ三人の間に残っていた。


 ことねはノートを閉じたまま俯き、芽依はターンテーブルを触ろうともせず、

 彩葉だけが必死に声を張っていた。


「ねぇ! こんなの、Silent Riotじゃないよ!」

 その声は震えていた。


 放課後。

 彩葉はことねを呼び出した。

「ねぇ、聞いて。私はね、ことねの言葉に救われたの。

 中学のとき、ことねがいなかったら……私、今ここにいないよ」


 ことねは目を見開いた。

「……彩葉」


「だから、やめないで。ことねの言葉がなきゃ、Silent Riotは空っぽなんだよ」

 彩葉は涙を滲ませながら必死に訴えた。


 同じ頃。

 芽依はひとり、駅前のカフェにいた。

 イヤホンから流れる過去のビートを聞きながら、自分の言葉を思い返していた。


「……弱音ばっかりなら、やめろ」

 その一言がことねを傷つけたことを、今さら痛感していた。


 ふと窓の外を見ると、猫丸が缶コーヒーを掲げていた。

「謝る音も、ビートになるぞ」

「おばちゃんも適当なこと言ってるだけだよ〜」

 みのたが隣で笑っていた。


 芽依は小さく息を吐き、決意した。


 翌日、音楽室。

 ことねと芽依の視線がぶつかる。

 沈黙が流れたあと、芽依が深く頭を下げた。

「……悪かった。言いすぎた」


 ことねも唇を噛みしめて答えた。

「私こそ……弱音ばっかりで、ごめん」


 彩葉が間に立ち、両手を広げた。

「ほら! ちゃんと仲間じゃん! これがSilent Riotだよ!」


 三人はしばし無言で見つめ合い、そして小さく笑った。

 それは確かな「再結成」の笑みだった。


 その夜。

 べすが三人まとめて「べろりんちょ」。

「……もう、ほんとに!」

 笑い声が響き、Silent Riotの鼓動は再びひとつになった。

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