『16barsの鼓動』第十六章(改定完全版)

《鼓動 -KODOU-》の初披露から数日後。

 ことねは、町田駅前の掲示板に張り出された一枚のポスターを見上げていた。


「町田代表選考オーディション開催」

 南関東大会の切符をかけた市内大会。

 そこに立てば、全国へ続く道が開ける。


「……これに、出たい」

 ことねの声は小さかったが、はっきりしていた。

 隣で彩葉がぱっと顔を輝かせる。

「いいじゃん! 最高じゃん! 町田代表とか、絶対目立つよ!」

 芽依は少し黙ってから頷いた。

「本気なら……やるべきだ」


 音楽室。

 三人がポスターを広げて相談していると、後ろから声が飛んだ。

「お、なになに? 町田代表オーディション!?」

 橘陽菜と紅葉が顔を突っ込んできた。

「え、出るの? 出ちゃうの? ……青春すぎない?」

「どうせならうちら応援隊にしてよ〜!」

 ことねは赤面しつつ、必死にノートを隠した。


「女子高生が代表戦!? 町田の宝だぁぁぁ!」

 窓から飛び込んできたのは北山望。

「やめてください!!」

 三人と橘姉妹に総ツッコミを食らい、すぐに廊下へ追い出された。


 その夕方。

 町田サイゼリヤ。

 テーブルを囲んだ三人はドリンクバーを前に拳を合わせた。


「私たち……出よう。Silent Riotとして」

「うん! 絶対勝とう!」

「……音で証明する」


 決意の空気に包まれたその時、隣の席から声がした。

「粗いままでいい。ただ進め」

 猫丸がピザをつまみながら、ぽつりと呟いた。

「おばちゃんも適当なこと言ってるだけだよ〜」

 みのたが笑い、べすがテーブルの下から這い出てきて、ことねの膝を「べろりんちょ」。


「っもう! ほんとにやめて!」

 笑いとツッコミが飛び交う中、三人の決意は固まった。


 ――Silent Riot、町田代表を目指す。

 彼女たちの挑戦が、本格的に始まった。

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