暇つぶし
10月16日
フローラからの連絡が来なくなって4日。
一日中ゲームをしていたが、思考放棄での消化にも飽きが来ていた。
こんな時は一人で性欲に溺れる...わけではない。人生に諦めをつけた時から、性欲はかなり減退していたから。
夜9時
オレは空想前の儀式として、風呂に入った。身体を洗い、ドライヤーでしっかり髪を乾かす。
それからワードローブを開け、巫女の装束と赤い足袋を取り出してそれに着替えた。
それから、上に立てかけていた三度笠も取る。風来のシレンに影響されて買い始め、今は二つ目のものである。それも被った後、グラサンと指貫もつけた。誰かから見れば清楚・旅人・ロッカーの雰囲気が混ざっていてよく分からないが、オレは気に入っている。
耳栓をつけ、電気を消し、壁にもたれかかって腕組みしたまま目を閉じた。
そして、燃え上がるようなオレンジに色づいた楓が舞っている風景、今の姿で腕組みしながらその中を歩く自分を、脳内に浮かべる。
隣に死神と名乗る黒スーツの硬派なイケメンの青年以外は、誰もいない。
「...どこまで行くつもりだ?」
死神はオレに聞く。
「行けるまで、どこまでも」
オレは短く返す。
「青年、キサマはこの道の果てが分かるのか?」
「知らないな。テメエは分かるのか?」
「私も知らん」
「そうか。じゃあ行こう」
死神とオレは歩き続けた。オレはところどころでミックスナッツと氷砂糖、マイボトルで水分補給をしながら、であるが。
「なんだ、それは?」
「ナッツと氷砂糖、あと水だよ」
「そんなものを摂取することに何の目的がある?」
「なんて説明すべきかな...これがないと動けないから、かな」
「つくづく不便な生き物だ」
「そういうテメエは食わねえのか?」
「死神は、食事する必要がないからな」
「こんな硬派なイケメンの死神がいてたまるか。死神といえば、大鎌を持ったフード姿の骸骨だろう」
「あれは人間のイメージに過ぎん」
そんなとりとめのない話をしながら。
「青年。聞いても良いか?」
「オレが答えられるもんであればいいぜ」
「今から100年過ぎたら、この道や木々は残っているだろうか」
「なんだよいきなり。...まあ、残ってねえ確率の方が高いと思うぜ」
「ほう...聞かせてもらおう」
「人工物はもちろん、自然の中の木も、道も誰かが整えたものだ。その人間がいなくなれば...この道も、木々も姿を変える。もしかすると面影がないレベルで廃れてるかもな」
「キサマは意外と冷ややかだな」
「死神に冷ややかと呼ばれるとはな...確かにそうかもしれないが、廃墟で鉄骨が錆びきった遊園地やホテルとかにノスタルジーを感じるってのも確かだ」
「廃墟にノスタルジー?よく分からないな」
「もうボロボロになった建物を前にして、「ここも昔はカップル、家族連れでにぎわっていたんだよな」...そんな感傷に浸るのも好きなんだよ」
「冷ややかなのか、感情豊かなのか。分かったもんじゃないな」
「そんなもんじゃねえか?オレ達はやたらとものを断定したがるが、相反する二つ以上のものを持ち合わせることが多い故、極めてあいまいなんだ」
「...つくづく分からないな」
「それはお互い様だろうに」
そんな不毛な話も、道も延々と続いていった...
オレの空想の中の情景はそこで途切れ、目が覚めた。机にある時計を見ると、もうすぐ深夜1時になろうとしていた。
「そんなに経ったのか」と「それしか経っていないのか」という二つの相反した気持ちが入り混じり、それからはすぐに眠気も来てそのまま眠りに落ちていった。
あれから4日が経っていたが、風呂と空想の儀のおかげもあって、フローラからのストーカーが続いて以降は最も安らげる日だった。
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