大空に羽ばたいていこう

さくら猫

第1話

「3匹のこぶたの兄弟は --」

  ペラペラと絵本をめくり、兄の烏丸からすまは、読み聞かせをしていた。

 妹の小鳥は、烏丸の隣にあるベッドに座り、読み聞かせをしっかり聞いていた。

 昔から絵本が大好きで、眠れないときは、烏丸にせがんでいた。


 外では大雪が降っていて、大地を白く染めるほどだった。

 暖炉があっても、お城のような屋敷は、冷え込んでいた。

 小鳥は寒さでなかなか寝つけられなくて、烏丸に絵本を読んでほしいとお願いした。


「おかあさんのもとをはなれて--」

 小鳥に絵本が見えるように、しっかり開き、烏丸が優しい声で読んでいく。

 小鳥は目を輝かせながら、絵本を見ていた。


 ぴよぴよと、鳥の鳴き声が外からした。

 うるさくて、烏丸の声が聞こえなくなってしまう。

 烏丸は気になって、絵本を読むのをやめて、カーテンを開けた。

 がーしゃんとカーテンを鳴らすと、窓には大きな木が見えた。


 枝の上で親鳥が、大雪から巣にあるたまごを守るように、羽を背にしていた。

 大雪に耐えられず、ぽきぽきと音を立てて、枝が折れそうだった。


「このままじゃ、鳥たちがあぶない」

 烏丸は鳥を助けようと、窓から出ようとする。


「お兄さま……」

 烏丸が鳥のために頑張っているのに、小鳥はそこに立ったままだった。

 このままではいけないとわかっているのに、足が動いてくれない。

 だって、魔法を使えない。

 魔法使いの一族なのに、魔法の才能がなかった。

  親鳥から離れて、鳥の巣が地面に落ちていく。

 衝撃な光景に、小鳥の頭の中に映像が流れた。

 病院のベッドで、眠る烏丸の姿だった。

 それは、小鳥が5才のころのお話だった。


『小鳥には才能がある。魔法使いの血が流れている。だから、僕にも小鳥の魔法をみて見せてほしいな』

『お兄さまみたいに、すごい魔法を使えません。見せられません。ごめんなさい』

『そうか』

  烏丸は寂しそうに、小鳥の頭を撫でた。


 寂しそうな顔をする烏丸をもう見たくない。

 小鳥には魔法の才能があると、言ってくれた。

 だから、できるんだ。

 小鳥は集中して、魔力を溜める。

 有名なアニメで見られる、スーパーサイヤ人のように、大きな魔力が溢れる。

「わたくしだって、魔法使いの一族です。これぐらいやってやりますわ」

 落ちそうな鳥の巣に、魔法を使った。

 小鳥の手から縄が出てきて、鳥の巣と親鳥を巻きつき、部屋の中に入れる。

「小鳥、すごいよ」

 烏丸は興奮しながら、小鳥の元に走っていく。

 一瞬だけ、烏丸の体が透けて見えてしまった。

 小鳥はその姿に否定するように、目をつぶった。

 目を開けると、烏丸の体は、何も起きていなかった。 小鳥は烏丸に抱きしめられる。

「すごいよ。小鳥の魔法を初めて見たよ」

 烏丸は、小鳥の頭を撫でる。

 あれは、気のせいだった。

 烏丸の温もりを感じる。

 魔法を使えて、鳥を守れて、烏丸に褒められて、嬉しいはずなのに。

 小鳥は寂しそうに、涙をこぼれていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る