神が授けた悪臭
青山 翠雲
第1話:鬼の住処
「
「残り5分からお願いします。」
額に汗が滲んでくるのを感じた。それは、この難解な局面のせいだけではなく、加えて、対局相手の奈良よりも先に持ち時間の消費が早く、1分将棋に突入してしまいそうな展開による比重の方が大きかった。
「鬼の
したがって、夢のA級棋士目指して、13名のB級1組在籍棋士たちは、全身全霊を懸けて順位戦での勝利を目指して対局に臨んでいた。
2034年度B級1組最終戦は、女性4人目の棋士として頭角を現し、今期初めて「鬼の住処」まで駒を進めていた
澤出七段もこれまで厳しい三段リーグ、人数ひしめくC級2組、C級1組、B級2組を勝ち抜いてきているだけあって、大一番には強い方だと思っていたが、さすがにA級がかかった大一番は舞台の大きさがこれまでとは違った。元々、便秘がちな体質ではあったが、今日でもう4日間も出ていなかった。それには、直近2戦どちらかを勝っていればA級入りが決まっていたものを、澤出自身が勝った!と思ったその刹那、「詰めろ逃れの詰めろ」の絶妙手が対局相手に出て速度が逆転。一手差で敗れる羽目となり、その対局の尾をひきずりながらの次局では、攻め込めば即詰みがあったにもかかわらず、自玉の守備に一手かけてしまったがために、相手玉を崩す穴を塞がれてしまい、その後は持ち駒の多寡の差により、じりじりと攻め込まれて、遂には土俵を力なく寄り切られて割った。あとで対局を振り返ると、勝勢99対1から優劣バーが一気に相手に傾く様を見た時は傷口を再び抉られ塩を塗りたくられたような疼きを覚えた。そんなことが続いたため、自律神経は乱れ、ヒドイ便秘に苛まれていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます