第4:浮気

 叔父は仕事はできるが、どこか孤独な人だった。


 そんな叔父を職場でからかう男がいた。皆から「電波」と呼ばれる、耳の大きなおしゃべりだ。


 ある日、叔父は休憩中にふと語ってしまった。


「公園のベンチに座っていたら……まっすぐこっちに向かってくる女がいたんだ。直立不動のまま、足音ひとつ立てずに」


 その女は人ではないと、直感で分かったという。


 やがて目の前に立ち、目が合った。


 その目は――恨めしく、どこか悲しげだった。


 女はゆっくりと指を差した。


 その先を見ると、子どもがふざけて道路に飛び出し、車にはねられた。


 子どもは大泣きしたが、命は助かった。


 それを話してしまったばかりに、「電波」がにやにやと絡んできた。


「なぁ、その話してよ」


 無視する叔父。


 だが男は笑いながら言いふらした。


「あいつ頭おかしいから、相手にするなよ」


 翌日。


 その男は会社の前でトラックにはねられた。命はとりとめたが、重い障害が残った。


 その話を聞いた叔父は静かに言った。


「俺のことはいい……けどな。あの女を馬鹿にしたろ。あの人、ものすごく怒ってた」


 ――叔父は既婚者だ。だが、あの女は今も一緒に家にいるのだという。


 浮気はよくない。そう思う午後。

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