第3話:ビル

 自宅を出て坂を下ると、目の前には町で一番大きなビルがある。大金持ちが建てたという、妙に存在感のある建物だ。


 その日、塾に行くため外に出ると、冬の夕方はすでに真っ暗だった。


 そこで目にしたもの――それは、ビルの最上階からひょっこりと顔をのぞかせている“ガメラに似た巨大な顔”だった。


 光る眼がこちらを凝視している。


 作り物ではないかと確かめるため、道幅いっぱいを使って反復横跳びをしてみた。


 すると、その眼は明らかに僕の動きを追っていた。


 やがて飽きてしまい、そのまま塾へ行った。教室でその話をしたが、誰も信じてはくれなかった。


 ただひとり、友人Bだけは黙って頷き、「わかるよ」と言った。


 彼もまた、そのビルで妙な体験をしていたという。


 ある夜遅く、腹が減った彼はビルの裏手にあるラーメン自販機へ向かった。


 すると、ビルの入り口から煙が立ち上っていた。火事だと思い近くの居酒屋に知らせると、すぐに消防車が駆けつけた。


 そのとき――。


 煙の中から現れたのは、禿げ頭に眼鏡をかけ、セーラー服を着た中年のおじさんだった。


 慌てた様子で外へ飛び出し、そのまま闇に消えていったという。


 しかし、彼がそのことを話しても、誰ひとり信じてはくれなかったと言う。


 勿論僕も信じたくない。


 知っている人だから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る