第5話 身内

「決闘――始め!」


ギルドマスターの声が響く。

冒険者たちが取り囲み、酒を片手に野次を飛ばす。

俺は剣を構え、にやりと笑った。


対するは三人の偽兵士。

彼らは互いに目配せし、同時に襲いかかってきた。


「うおおおっ!」


「死ねぇ!」


剣と槍が同時に迫る。

だが俺の身体は力むことなく自然に動いた。

一歩踏み込み、槍の穂先を剣で弾き飛ばす。

その反動で体をひねり、横から迫る剣をかわす。


――斬。


一人の腕が宙を舞い、悲鳴が上がった。


「ひっ……!」

残った二人が怯んだ隙を逃さず、踏み込む。


剣を振り下ろし二人目を地面に斬り伏せた。

最後の一人は恐怖に駆られ、後ずさる。


「ま、待て!俺たちは……!」


「敵にかける情けはないぞ」


俺は冷たく告げ、剣を突きつけた。

顔は能天気なままだが心は凪いでいる。


観衆の冒険者たちが息を呑む……


「……降参だ!降参する!」


最後の偽兵士が武器を投げ捨て、膝をついた。

ギルドマスターが手を上げ、決闘の終わりを告げる。


「勝者、リオ!」


歓声と拍手が沸き起こった。


「すげぇ!」

「あの動き、ただ者じゃねぇ!」


冒険者たちの俺を見る目が一気に変わるのを肌で感じた。


「……本当に、あなたという人は」


カレンが深いため息をついた。


「準備も計画も無いのに、なぜか勝ってしまう。不可解です」


「褒め言葉として受け取っとく」


俺は笑い、剣を収めた。

エリシアは目を輝かせ、両手を胸の前で組んでいた。


「すごいです、リオさん!本当にすごい!」


「ははっありがとよ」


だが、これで終わりではない。

ギルドマスターが偽兵士の一人を睨みつけ低く問いただす。


「さて……お前たち、誰に雇われた?」


「そ、それは……」


「言え。ここで吐かなければ、街の牢にぶち込まれて……まあそのあとは吊るし首ってところか」


追い詰められた偽兵士は、青ざめた顔で口を開いた。


「……グランツ公爵家の……“ご次男様”からだ。令嬢を連れ戻せと……」


「なっ……」


エリシアは息を呑み、 カレンの表情が険しさを増す。

――俺は特に表情を変えることもなくつぶやいた。


「へぇ、身内の差し金か」


「嘘です!兄がそんなことをするはずがありません!」


エリシアが必死に否定する。

だが、偽兵士は震える声で続けた。


「ま、間違いない……俺たちは金を受け取ったんだ……“ご次男様”の名で……」


ギルド内がざわめきに包まれる。

公爵家の内紛――それは辺境の街にとっても大問題だ。

ギルドマスターは険しい顔で腕を組み、低く唸った。


「……面倒なことになったな」


「お嬢様、すぐに王都へ戻るべきです」


カレンが真剣な声で言う。


「このままでは、お嬢様の身の安全が……」


「だけど……!」エリシアは唇を噛み、俺を見た。


その瞳には迷いと、そして信頼が宿っていた。


「リオさん……どうすればいいのでしょうか」


俺は肩をすくめ、笑った。


「決まってるだろ。俺は今日から冒険者だ。依頼があるなら受けるだけさ」


「依頼……?」


「嬢ちゃんを守る。それが俺の初仕事ってわけだな」


能天気な笑顔でそう告げると、エリシアの顔がぱっと明るくなった。

カレンは額を押さえ、深いため息をついた。


「……本当に、あなたという人は」


だがその時、ギルドの扉が再び開いた。

黒衣の男たちが数人、静かに入ってきた。

その胸には、見慣れぬ紋章が刻まれている。


「……あらか?」


俺は剣の柄に手をかけ、再びにやりと笑った――

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