第3話 冒険者ギルド
「エリシア様。お迎えに上がりました」
「……あなたたちは?」
「グランツ公爵家の命により、あなたを連れ戻しに参りました」
兵士の一人が冷たく告げる。
だがその口元には、いやらしい笑みが浮かんでいた。
どう見ても正規の迎えじゃない。俺は剣の柄に手をかけ、にやりと笑った。
「へぇ……なんかまた面白い連中が出てきたな」
次の瞬間、兵士たちが一斉に剣を抜いた。
エリシアが悲鳴を上げると、カレンは庇うように前に出る。
俺は、さらに一歩踏み出して剣を抜いた。
敵の数は五人。だが動きに迷いがある。
本物の兵士なら、もっと無駄がないはずだ。
つまり――偽物。あるいは買収された兵士くずれ。
「俺、物の道理はよくわからないが、刃を向ける相手には容赦しないって決めてるんだ……」
――次の瞬間、俺は地を蹴った。
風を裂くように踏み込み、一人の兵士の剣を弾き飛ばす。
そのまま柄で顎を打ち抜き、地面に叩き伏せた。
残りの兵士たちが慌てて取り囲むが、俺の身体は自然に動いていた。
――斬。 ――突。 ――薙ぐ。
三人が瞬く間に倒れた。
最後の一人は恐怖に顔を引きつらせて逃げ出したが、
あえて俺は追わなかった。
あきらめてくれないのなら、
どうせまた仲間を引き連れてやってくる。
この程度の相手なら、そのほうが面倒くさくない。
「……すごい……」
エリシアが呆然と呟いた。 カレンは剣を収め、俺を睨みつける。
「あなた……本当に何者なんですか」
「ただの剣士だよ。無能と言われて村を追い出されたばかりの」
俺は肩を竦めて笑った。
だが、カレンの視線は疑念を深めるばかりだった。
その後、俺たちは無事に街へ入った。
辺境都市バルンは、石造りの城壁に囲まれた交易都市で、
行き交う人々の活気に満ちていた。
露店の呼び声、荷馬車の軋む音、
冒険者らしき武装した連中の笑い声。
俺にとってはすべてが新鮮で、胸が高鳴った。
「さあ、まずは冒険者ギルドだな!」
「……本当に行くのですか?」
冒険者という職業は、命を落とす者も多く、安定とは程遠い。
しかも、村を追い出されたばかりの世間知らずが
「冒険者になる」と言い出しているのだ。
常識的に考えれば、あまりお勧めできる働き口ではない。
「いいじゃない。彼は私たちを助けてくれたのですもの。実力は折り紙付きよ」
エリシアは無邪気に笑って言う。
どうやら自分も同行するつもりのようだ。
その笑顔に、カレンは深い溜息をつく。
またお嬢様が厄介事に首を突っ込もうとしている……
そう思わずにはいられなかった。
ギルドの扉を開けると、酒場のような喧騒が広がった。
大柄な戦士、軽装の弓使い、魔導書を抱えた魔術師――
様々な冒険者たちが集まり、依頼の掲示板を睨んでいる。
だが俺が入った瞬間、ざわめきが静まった。
「おい、あの剣……血がついてるぞ」
「新顔か?ぱっとしない田舎者みたいだが……」
「くそ。女を二人も連れて……羨ましい野郎だ」
視線が一斉に突き刺さる。
だが俺は気にせず、受付へと歩み寄った。
カウンターには、栗色の髪をした若い受付嬢が座っていた。
彼女は俺を見るなり、にこやかに微笑んだ。
「ようこそ、冒険者ギルド”バルン支部”へ。ご用件は?」
「冒険者になりたいんだ。登録を頼む」
「はい、承知しました。では、こちらの用紙にお名前と簡単な経歴を……」
名前は「リオ」。経歴欄は「魔力0」と……。
これといって特技があるわけでもないしな。
村を追い出された経緯なんて書いてもクソの役にも立たないし。
受付嬢は目を丸くしていたが、特に追及はされなかった。
「では、簡単な実技試験を受けていただきます。裏庭へどうぞ」
裏庭に出ると、木製の人形が並んでいた。
試験官らしき屈強な男が腕を組んで待っている。
「おい、新入り。こいつをぶっ壊してみろ。力試しだ」
「了解」
俺は剣を抜き、軽く振り下ろした。
――トンッ! 木人形は一撃で真っ二つに割れ、地面に転がった。
試験官の目が見開かれる。
「なっ……!?お前、本当に魔力ゼロなのか?」
「うんそう。ゼロなんだよ」
俺は笑顔で答えた。 試験官はしばらく唖然としていたが、やがて大声で笑った。
「ははっ!面白ぇ!合格だ!今日からお前は冒険者だ!」
受付嬢が冒険者カードを手渡してくる。
俺はそれを受け取った……(あれ?なんかちょっと感動かも)
これで俺も、ようやく冒険者としての一歩を踏み出せたのだ!
「……本当に、こんな調子で生きていけるのでしょうか」
カレンが小声で呟いた。
その声音には、呆れと同時に、わずかな期待も混じっていた。
――その瞬間、
ギルドの扉が乱暴に開かれ、数人の男たちがなだれ込んできた。
先ほど門前で逃げた兵士、いや偽兵士が先頭に立っている。
「いたぞ!こいつが公爵令嬢を連れ去った無法者だ!」
ギルド内がざわめき、冒険者たちの視線が一斉に俺へと注がれる。
エリシアが青ざめ、カレンが剣に手をかける。
俺はカードを握りしめ、にやりと笑った。
「ははっ……初仕事は、どうやら“身の潔白を証明する戦い”になりそうだな」
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