雪豹になった俺

風羽

まえがき

 あの日から1ヶ月後、俺は雪豹の住むヒマラヤの山奥にいた。


 🐾


 あの日というのは、俺が生まれた時からの大切なパートナーだったゆいがその生を全うした日だ。

 唯が本当にやりたかった事を一緒に成し遂げる事ができた。俺もやり切った。しばらくは放心状態のようになり何も手につかなかった。


 俺は唯の為に生まれ、生きてきたのか?

 いや、そんな事はない。それが俺のやりたい事だった。

 唯がいない今は?


 俺にはずっと突き動かされる物があったはずだ。

 唯が本当にやりたかった事を成し遂げたように、俺も本当に突き動かされる物に向かってみようと決心したのだった。



 幼い頃からどうしようもなく惹かれ続けてきた雪豹。

 4歳の時にズーズーという動物園で初めて雪豹の赤ちゃんと目と目が合った時の衝撃。


 その少し前、俺は4歳の誕生日を境に言葉と表情を失ってしまっていた。

 しかし、雪豹の赤ちゃんと見つめ合いながら「カート」という言葉を発していた事をはっきりと覚えている。

 俺はその子の名付け親となり、風斗かざとという自分の名前とそいつの名前が似ている事が誇らしかった。周りの大人は理解してくれて、俺は学校に行くかわりにズーズーで働かせてもらうようになった。


 2年後のある日、雪豹の展示が突然なくなり、その1年後にカートは顔に3本のキズを持ち3本足になって帰ってきた。

 カートの顔に付いていたキズは俺の顔のアザと同じ形だった。俺はそれまで自分のアザが嫌いだったけど、このアザが好きになったし、少しだけ自信が持てるようになった。


 中学校を卒業して、俺は野生動物の研究が出来る専門学校に通うようになった。

 野生動物の研究をして、それに関わる仕事に付き、彼らを守りたい。

 人間のエゴによる密猟や自然破壊によって、美しい彼らの生命が奪われていく事は耐えられなかった。大好きな野生動物達と同じ空間で過ごす事がその頃から持ち続けている夢だ。


 専門学校に通っている時に雪豹の調査に同行させてもらったロシアで凄い体験をした。

 荒野には俺とそいつだけしかいなかった。野生の雪豹の凄まじい冷気と殺気を感じたあの日。

 雪豹は姿を確認するだけでも難しいって言われているけど、俺は気配を感じる事が出来るし、数年後には自分自身の能力をここで思う存分発揮出来るって確信したのだった。



 今すぐに雪豹の大地に行きたい。

 再び強く突き動かされるものを感じた。学生の時にお世話になった研究機関に連絡を入れると、すぐにヒマラヤの小さな街に行ってほしいという要請が届いたのだった。

 俺は雪豹の気配を感じ取る能力に秀でていたので、雪豹に関する仕事をしている人々には名前が知れ渡っていた。

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