1347
ひまるぶし
第1話
「なんだろうね」
手がけたものは消えてしまった。
すごく面白かった本を久しぶりに読んだら、くだらない子供だましだったことに気がついた気分だ。
書きあげたばかりの物語にカーソルを合わせると、フォルダをゴミ箱に運ぶ。アイコンを右クリックして ”ゴミ箱を空にする” を押すと、私の書いた物語は完全に消えた。
私は本を出版した。くだらない散文集だ。お金をゴミ箱にすてるみたいにして、その本を形にして、世の中にほんの少しまいてみた。手にした印税は1347円。
「1347円」 そんな名前の花が咲いたので、収穫して、ウイスキーとコーラを買った。その味が私の物語なのだと思った。
売れ残った本を処分していいかと聞かれたので「どうぞ」と答えた。手元にあった30冊は燃やした。もちろん、そうする必要はない。それを燃やすことで何かが変わればと思っただけだ。自分の本を燃やすなんて、もう少しかっこいいことだと思っていたけれど、においも熱も、あんがいゴミを燃やすのと、何ひとつ変わらない。
記念に3冊ほどあれば、それ以外は必要ない。本当はその3冊さえ必要ない。本の出版は誰にも話さなかったのだし、これからも話す必要はないから、渡す相手もないのだ。
「なんだろうね」
今しきりにそう語りかけてくるのは、夢をみていた過去の自分だろうか。先を進む未来の自分だろうか。
燃えた物語は黒い灰となった。どうせなら、白い灰になればいいのにと思った。
これまでの人生をすべて無駄にした、黒い灰。
これからの人生をすべて無駄にする、黒い灰。
それは、久しぶりに手にした本が、くだらないと気がついたようだ。
2025_10_2
1347 ひまるぶし @HimaruBushi
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