どうせ罰ゲームだから

 私には縁のない人。そう思ってた。


 涼しい風の吹きこむ教室で、私は今日もひとりで本を読む。別に読書が好きなわけではない。こうやって自分の世界に入るしかやることがないのだ。

 けど私の平穏は昨日、崩れ去ってしまった。


 同じクラスの間宮まみやくんから告白されてしまったのだ。


 いきなり個人のトークルームで。22時あたりに。

 ちなみに、まだ既読はつけていない。だってなんて言ったら正解か分からないから。間宮くんはいわゆるクラスの中心系。それなのになんでこんな陰キャに告白するの?なにかの罰ゲームにしか考えられないのだ。


 休日はゲーム。部活は無所属。スカートも折らず、メイクもできない。明らかに間宮くんと不釣り合いだ。

 女の子らしいことに興味がない、わけではない。でもやり方が分からない。


 これを機に始めてみようかな。いや、たかが罰ゲームだし、私が本気にならなくてもいい?でも、理由もないのに疑うのは違うよね。

 本を閉じて、スマホを取り出す。初めて見た、『可愛くなる方法』という文字。なんだか周りに知られたくなくてキョロキョロしてしまった。



「あっ、杏果きょうかちゃん、いらっしゃい!」

「こんにちは…」


 勇気を振り絞って、小さい頃から行っている美容院へ。店長さんがお母さんの友達であり、私もこの暖かな店内が好きなのだ。

 髪は随分と長く伸ばしてしまっていて、もう少しで腰に届くほどだ。ちなみに間宮くんの告白から3日が経過している。


「今日はどうする?」

「肩につかないくらいで…」

「オッケ〜……ん?結構切るわね」

「はい…」



 翌日、教室に足を踏み入れると真っ先に『髪切ったよね!』と言われた。なんて反応したらいいか分からずただ頷くだけだったけど、やっぱり切ってよかったかも。頭が軽いのだ。

 今日は薄くメイクをしてみている。スカートも実はひとつ折っている。どれも心臓が飛び出るくらいのことだけど、不思議な充足感もあった。


「相澤」

「はいっ…!」

「俺が送ったやつ、見てくれた?」

「あ、うん…」

「…どう?」


 あ、これ本気だ。間宮くんの瞳はまっすぐ私を捉えている。

 っていうか、私も本気だったのか。どうせ罰ゲームだからと自分に嘘をついていたけど、あの私が、それだけで髪を切りに行ったりしない。私も期待してたんだ。

 いくら外面を磨こうが、結局は内面。絞り出して、蚊の鳴くような声で告げる。


「私も…同じ…」


 間宮くんの顔が一瞬で笑顔に変わる。

 ずっとあなたに、憧れていたのかな。勝手に線引きして諦めてたみたい。


「髪、めっちゃ似合ってる」


 前髪を切ったおかげで、君の顔がよく見える。

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1分後に 真白いろは @rikosyousetu36

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