第2話 ねこの美術館 後編
必死に猫化に抵抗しつつ窓を割る為に、今度は窓の側にあった椅子を持ち上げると、力の限りガラス窓に向けて叩きつけた。しかし音だけが派手に響いただけで、
「もう。嫌だぁー20年間もこんな場所に閉じ込められて、マリアンナにも会えないなんて、姿はどうあれマリアンナに会って、俺は自由に生きるんだ!」
その猫はそういうと、窓に向かって猛ダッシュで突っ走った。それに慌てたのが、ルータスだった。
「ダメだ!アルベルト。ホーマを止めろーーこれ以上の仲間を!…」
ルータスの焦った声を聴いたアルベルトと他の猫達が、ホーマの行動に気がつき慌てて走り出すが、あと一歩間に合うことが出来なかった。
「ホーマ止めろー俺まで置いていくなー」
「止めてーー!もう見たくないわぁーー」
アルベルトと、三毛猫の制止も聞かずに、ホーマは勢いよくジャンプをして…。
バァアアーーン。
しかし勢いがあと一歩足らなかったのか、窓に
「わぁあああーー」
「ホーマ。馬鹿野郎…心配させるなよ」
「そうよ。あんた馬鹿なの!私の目の前で良くも出来たわね!」
ホーマの友人のアルベルトは、床に伏せて泣いているホーマを労わる様に、背中を肉球で撫でている。三毛猫はバシバシと、頭を叩いていた。
男は何気に、罅が入った窓を見るといつの間にか、先程の事なんか何事も無かったかの様に、元通りに直っている。
リン〜ゴ〜ン リン〜ゴ〜ン リン〜ゴ〜ン
そんな時である。何処からともなく鐘の音が、館内中に響いてきた。
「何だ?この音は」
「日付けが変る事を知らせる鐘の音だ。0時を過ぎたらまた此処は10年間眠りにつく。最悪にも二人目は、たった30分だけの付き合いだったけど、10年後はしょうがないから、24時間愚痴を聞いてやんよ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。ふざけるな!俺はどうなる?」
「心配する事はない。向こうから来てくれるよ。場所はそこで良いのか?10年間はこの場所から、離れられないよ」
「何を訳の分からない事を」
そんな事を言っていたら、目の前にいきなり額縁が浮かんで光を放って現れた。
「なに?この額縁は?」
「それが家だ」
「??えっ?」
「壁に掛けられている風景画は元々此処に飾られていた猫達の家なんだ。そして何十枚も床に落ちている額縁が有るのが見えるか?あれが此処に運悪く入り込んでしまった君みたいな元人間の家なんだよ。絵の風景はその人間が人生で一番楽しかった思い出の風景。君の家となる背景は何だろうな?」
言われて初めて絵が描かれている事に気がついた。これは…。
「俺の愛車と家族じゃないか!!それも購入した時に、家族と笑い合っていた場面だ。車体のナンバーも同じ…なんで?」
「その…愛車?が何かは知らないが。君の永遠の住みか、家族と一緒で嬉しそうで何より」
「永遠の…それはや、やだー―止めてくれーーやだーー」
光の中に吸い込まれそうになりながらも、両手で額縁のふちを掴んで何とか抵抗を試みているその間にも、鐘の音が3回4回と時を告げている。正面ではやはり同じように、いつの間に生き返った?のか、顔は見えないが、抵抗をしている男が半狂乱の如く騒いで立っていた。そりゃ100回も殺された後だ。最終的にこれでは、死んでも死にきれないだろう。
力なく歩いているホーマを助けながら、アルベルトが寄り添って歩いて戻って行った。そんな時に、ホーマが最後の言葉を呟く。
「10年後は、もっと助走をつけて、思いっきり飛ぶよ。あの雌猫は出来たんだ。今度こそ窓ガラスを突き破る」
そんな言葉が聞こえて、心配していたアルベルトに思いっきり猫パンチを食らい。三毛猫には、ローキックを見舞われていた。
その隣のルータスを見ると、兄妹だろうかやはり真っ白い猫が、ルータスに寄り添い頬を寄せてスリスリとして、受付の後ろに控えている巨大な額縁の中に飛び込んでいった。ルータスも後に続いて戻って行こうとしたが、その場に立ち止まり寂しそうに振り向きこう伝えてきた。
「この風景画の絵の猫には、モデルがいたんだ。この建物の中に、290年前のあの嵐の夜パパと友人が喧嘩をしていた。それによる逆恨みで、放火されて焼き殺された僕達兄妹。パパが僕達だけでも助けたかったみたいだけど、火の回りが早くって、もうどうする事も出来ずに、僕達はパパに抱かれながら死んだんだ。パパの最後の言葉が。ルータスにコリー私のせいでごめんな。ごめんなだった。詫びの言葉が最後だったなんて、絶対許せない!その友人を恨みながら死んで…その魂が何故か絵に宿ってしまい呪われてしまった…その男に人間に復讐するために、それが9月15日…にゃ~んて…じゃ…また10年後に会おう。そういえば君の名前は何だ?」
「えっ?アルフィオだ」
「アルフィオか。じゃぁ」
最後とんでもない悲惨な過去を寂しそうに話してきた後、急ぐように絵の中に飛び込んで行ったルータスは、ロッキングチェアの上に飛び乗り人間の様に座って、サーベルをお腹の上に乗せると寛いでいる。妹の猫は、ソファーの上で黒のドレスをヒラヒラとさせながら、その場でグルグルと回っていたかと思うと、心地の良い体制を見つけ丸くなると眠りについた。そのソファーをのぞき込む感じに人物画も描かれている。きっとその人がパパなのだろう。優しい笑みをこぼした白髪の男性が二匹を見下ろしている。
「ああっ…でも、ちょ…ちょっと待ってくれルータス!俺はやだこんなの!!まだやりたい事が沢山あるんだ。ソフィアや子供達にも会いたい!こんな所で消えるなんっ……」
最後の鐘の音が鳴り終わったと同時に、アルフィオの身体は完全な猫の姿になり、絵の中に吸い込まれていった。その絵は家族に見守られ、愛車の座席にちょこんと座り、首を傾げている愛嬌のある猫の絵になった。そして先にこの屋敷に入っていた男も、額の中に吸い込まれていくのが見えた。そして静かな空間に、コツーンと二つの音を響きさせて額は床に落ちる。
ルータスは目を細め、爪を出して、パール色の爪を満足そうに見ている。
「アルフィオ…それにしても運だけは良い男だ。僕達の楽しみを味わう事なく猫になれたのだから、二倍楽しめなかったのが残念だった。猫になった瞬間にそれまでの恐怖の記憶だけは残らないから、思いっきり遊べるし、都合が良いことこの上ない。でも、何であの男にあんな話をしたのか そういえばもう片方の男の名前聞くの忘れた。まぁ良いか10年後に聞くか。…にゃ~ん…」
絵の中のルータスは最後の言葉を残したのち、静かに洋館と共に姿を消していった。
そして次の日の朝…。
円を描く様に立ち並ぶ民家に清々しく太陽光が差し込みだし、朝日を浴びながら、村人達が続々と外に出てきた。とある家の住人が扉を開けた途端に、うんざりした様に親を呼び寄せた。
「母さん!また家の前に、車が放置されてるよ」
「なぬ?またなの?昨日の朝も、家の前に停めてあったのよ💢寝る前は無かったから、深夜に停められたと思うんだけど、夕方になっても持ち主が戻って来なかったから、パパに警察まで持って行ってもらったけど、今回もしっかり鍵が挿したままね?おかしなこともあるわ。如何にも不用品を置いて行ってるみたい」
「こんな山中で、それは有り得ないだろう?帰りはどうするんだよ。これ昨日と同じ車。1891年にフランスで作られたばっかりのパナールだろう?」
「それもそうね。また夕方まで待つか。今度はあなたが警察まで届けに行ってよ。連続なんて、パパが疲れちゃうわ」
「分かったよ。お隣のダンテに馬車を出して貰って、帰りは荷車に乗せて来て貰うよ」
「ええ。お願いね」
その時そのダンテが、家から出てきた。
「本当だ。車置いてあるじゃないか。お前が話しているのが聞こえたから、出て来たけどよ。昨日の車の持ち主も結局帰ってこなかったし、20年前のホーマとアルベルトが、失踪した事件と同じなんじゃないのか?って、昨夜父さんと話してたんだ」
「だよな。同じだ。結局15年前に、アルベルトの母親も息子の顔を見る事なく亡くなったし、その翌年には親父もだしな。…皆んな行き成り消えちまって、いったいこの村で何が起きてるのか。怖いよ」
「だな。でも2ヶ月後には、もう此処ともおさらばできるから良いじゃないか、我が国で、シルク産業が発展し過ぎて、人手が足りないってんで、この商いで生計を立てている経験者ばかりのこの村が選ばれて、この村ごと都会に引っ越しできるんだから」
「本当ありがたい。都会に住めるなんてな。田舎もんと言われない様に、気をつけないと」
「だな。それじゃ…この車取り敢えず鍵も付いている事だし、脇に停めておくか。2回続けては、流石に縁起が悪い。明日の朝届けに行くか。今日はちょっと早いけど、マリアンナ姉さんの墓参りに家族で行く事になってんだ」
「そうだったな。俺も行っても良いか?いつも遊んで貰ってたし、大好きなお姉ちゃんだったな」
「勿論良いぜ。じゃ後でな」
「おぅ」
お互い片腕を上げると、それぞれに分かれていった。
そして時は流れて、その10年後の1903年
「何だよ此処、薄気味悪いな」
遠くから、男の叫び声が聞こえた来た。
「おや?今回もお仲間さんが来たようですね。しかもこんな遅い時間に、遊べないじゃないか💢10年前のアルフィオと同じですよ」
視線をそちらに向けると、苦笑いしているアルフィオと、その隣には散々な目に遭った
それを横目にルータスも苦笑いさせながら、ベンチの上に上がりこう叫ぶ。
「今回はしょうがない。お遊びは諦めましょう。今回は私が優しく接待しますよ。皆さんは、泣き泣き引き続き自由時間にしててください」
「ええ~つまんねぇよ。10年も待ったんだぜ」
「そうですね。私もつまらんですよ。では残り少ない時間は、リッキーの頭の上に仲良く描かれているねずみさんと遊んでてね」
「ちぇっ」
リッキーと呼ばれた猫は、相方のねずみをギュッと抱きしめ合っていた。
「…改めて、猫としての本来の本能を押さえ、血の贄も諦め。歓喜のギャハハハ!の高笑いも封印し…そう思ったら、…つまらん」
目を細め、本当につまらなそうにしている。
「お兄ちゃんひと引っ掻きもダメ?喉乾いたし、私のドレスも綺麗にならないわ」
「そうだねコリー。でもまだ服は綺麗だよ。今回は諦めなさい」
コリーがブゥ~と頬を膨らませて不機嫌になってしまった。黒いドレスを強く握りしめて、元居た場所に戻って行くと、友達の三毛猫によしよしと、撫でて貰っている。
「また次回ですねコリー。そして皆さん。ここからは可愛い猫の皮を被ったプリティな猫を演じてきますかね。…にゃ〜ん」
continuation
ねこの美術館 カクヨムコンテスト 佐伯瑠鹿 @nyankonyanko
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