圧倒的ユニバース体験
白川津 中々
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人間関係が苦手である。
殊更、諍いが嫌いだ。歪み合う相手と一緒にいると、それだけでメンタルが削られる。他の人はどうしてあの空気感に耐えられるのだろう。ハートが強すぎる。
弱者筆頭の俺は逃げる以外に道はない。仕事で他従業員と何かあれば即座に職を変え、退職と入社を繰り返してきた。その内に履歴書に書ききれず、また県内で噂も広がり始めたので縁もゆかりもない場所へ赴き、短期就労期間は「入院していた」と詐称して働き口に潜り込んでいた。しかしながらどこへ行っても嫌なやつというのはいるもので、やはり問題が起こり、逃げ出した先でも転職を繰り返す日々。たちまち地元の時と同じ状況となりまた逃避を余儀なくされる。仕方なく、今度は山奥へ行き香草を育てながら生きてゆく事にしたのだが、出荷先に大変横柄な人物がおり、一悶着、ニ悶着があった結果、そいつをぶん殴って廃業せざるを得なくなって、またもや生活環境を変えなくてはならなくなった。だがどこへ。行くところ行くところ馬が合わない奴がいる。これはもう、運命の必然なのではないか、そう思えてきた。人と……人間と合わない場所へ行かなくては、俺は生きていけない。
結論、宇宙。
俺は発射予定のスペースシャトルをジャックし大気圏を突破。地球の引力から離れ、宇宙での生活を始める(クルーはシャトルが安定した後全員殺して外に捨てた)。
無重力空間での一人暮らしはまったく快適だった。煩わしい人間関係はないし働かなくてもいい。まさに理想郷。待ち望んでいた孤独が、そこにあった。
が、平和は束の間。すぐに地球から追っ手がやってきた。
この生活を手放して成るものかと、パワーを最大にしてジェットを噴射。帰りのエネルギーの心配もないからとにかく全力前進。一応の逃亡には成功したのだが、ここからである。暗黒空間に漂い、さぁこれで安心だぞと一息ついているところに現れたアダムスキー型UFOにシャトルを回収され、宇宙人の母星に連れ去られてしまったのだ。着陸した先で人体実験でも始まるのかと怯えていたが、存外宇宙人は友好的だった。話を聞いてみると、漂流していた俺を難民と間違えて救助したとの事。申し訳ないと謝意を表され、そのままその星のとある国で異星人タレントとして働けるよう手配してくれた。
遠く離れた星での日々は悪くはなかった。普通に生活できたし物価も安定していて、あくせくと労働に勤しむ必要もない、全体的に生きやすい環境であった。とはいえ、異星にも案の定嫌な奴はいた。地球外惑星であっても諍いを生む種があったのだ。
いつもならここで逃げ出していたところだが、どうやら人格や性格といったものは知性を持つにあたって千差万別に形成され、どうしても人同士で得手不得手が生じると理解した。それを知った俺は、我慢と需要を覚えた。今では嫁がいて、子供がいて、ペットの@.#!&がいて、幸せな生活を築いている。夫婦喧嘩はたまにあるが、それもまた、幸福の断片だろう。人生とはつまり、人同士の関係に終始するのだ。それを差し置いて生きる事などできはしない。俺はようやくそこに気が付き、人として、個人として、生きていけるようになったのだ。これも、宇宙逃避行のおかげである。
ありがとう、ユニバース。
圧倒的ユニバース体験 白川津 中々 @taka1212384
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