第2話

 その夏は珍しく両親が不在で、遠くに住んでいる母方の実家に預けられる事になった。初めて一人で飛行機に乗った事は今でもよく覚えている。乗務員のお姉さんを頼りにしながらも、もしかしたら僕はこの人たちに騙されていてユーカイされているのかも?と心の中でビクビクしていたので、飛行機が到着しておじいちゃんおばあちゃんが迎えに来てくれた時には酷く安心したものだった。


 慣れない土地にワクワクしていたのも束の間で、すぐに何もない田舎に飽きてテレビばかりを眺める退屈な日々を過ごしていた。おばあちゃんは初めての孫の来訪に上機嫌なようで、こまめにお菓子を用意してくれたが、閑散とした穏やかな日々の退屈さを紛らわすことは難しかった。辺り一面が山か畑で、人なんて滅多に通りかからない。公園なんてものもなく、しばらくの間誰とも知り合う事はなかったので無理もない話である。


 何もする事がなく、誰とも出会う事もなく、ただぼーっと日々を過ごしながら、暇に耐えかねてはふらふらっと外を出歩いて、散歩にも飽きたら家に帰ることを繰り返す、やるせない程に無為な夏休みを過ごしていた。


 唯一の慰めはおじいちゃんが貸してくれたラジオから聞こえる音楽だけ。周波数を79.7に合わせてFM局の放送に耳を傾ける。


 「攫われたい夏」という歌がよく流れていて、何度も繰り返し聞いていたせいか、脳裏をかすめて離れないようになった。


 なぜかこのラジオでは曲名は流れないので、後になって知ったのだが、正確には凛として時雨の「Sadistic Summer」という曲名のようだ。「攫われたい夏」というフレーズが何度もリフレインする心地良くも陰鬱で、凄惨な夏の殺人の歌だった。


 この頃から、どこか遠くへ連れ去られたいという歪んだ願望を抱いていたのかもしれない。東京から離れて田舎まで遊びにやってきたというのに、それでもまだどこかに行きたくて仕方がなかった。けれどこれ以上どこへ行けばいいのかは分からなかった。



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