第8話 聖女様、配信動画にでる
ラノベのPR動画を配信することになった。インフルエンサーからの配信なので、多少なりとも効果はあるはず。
「俺、動画撮影は初めてなんですけど役に立てるでしょうか?」
「大丈夫だってー。誰だって初めてのことをする時は初心者なんだからね。もちろん私だって最初から動画配信ができたわけじゃないんだよ」
そうだよな、確かにそうだ。いろんな分野のスペシャリストだって努力を積み重ねてきた結果だろう。
撮影場所はインフルエンサーであるローザさんの部屋に決まった。動画で見た場所に訪れるなんて、まるで聖地巡礼している気分だ。
移動の途中で、こっそりと聖女様に話しかけた。
「やっぱりアルマさんも来てるのですか?」
「うん、そうだよ」
俺だって聖騎士だから聖女様の安全に気を配っているつもりだけど、護衛専門のアルマさんがいてくれるのは心強い。
「ちょっと待っててねぇー」
ローザさんはそう言うと、何やら機材の準備を始めた。カメラや照明など、見た目は日本で使うようなものと大差ない。
「それじゃ始めよっかー」
「ちょっと待ってください、いきなりですか?」
「生配信じゃないから心配ないよー。後から編集するからね」
「それは分かりますけど、打ち合わせとかしなくていいんですか?」
「そうだね、ホントならそうしたほうがいいと私も思うけど、紹介動画だから決められたセリフじゃなくて思う存分好きなだけ語るほうが伝わると思うんだー。まずは私からやってみるよ」
ローザさんはそう言うと本棚からラノベを取り出し、カメラの正面に立った。
「ローザでーす! いつも見てくれてありがとうー! 今日はダンジョン配信をお休みして、私の好きなものを紹介するね。といっても装備品やアイテムとかじゃないんだー」
ここでローザさんはラノベの表紙が画面に映るように位置を変えた。その表紙には美少女が描かれている。
これは俺の予想だけど、ローザさんの配信を見る人は男が大半を占めているんじゃないだろうか。『男はみんな美少女好き』。きっと間違ってはないはず。
「みんなはこういう本を見たことがあるかなー? きっと見たことない・知らない人が多いと思うんだー。だってほとんど本屋さんに置いてないからね」
ローザさんの表情と口調は明るく、不快感というものを全く感じない。
「実はこれ小説なんだよ。といっても話し言葉で書かれてることが多いから、頭の中でとってもイメージしやすいの。だから普段本を読まない人でもきっと楽しめると思うんだー」
それからもローザさんはラノベの良さを語り続けた。
「実は王都には唯一の専門店があるんだよ。今から店主のお姉さんを紹介するねー」
「みなさん初めまして。ローザさんが先ほど言った通り、まだまだこういった本のことを知らない人が多いと思います。私は子供の頃から好きで、ついには店を開きました。そして——」
まるで打ち合わせでもしていたのかという自然な流れ。そして話は続いた。
「——というわけで、もし興味があれば一度手に取ってみてください。もちろん強制ではありませんし、私の店に来てくださいということでもありません。少しでも興味を持ってくれる人が増えれば嬉しいなという思いです」
そして一礼してからフレームアウト。真面目な話しぶりが意外で少し驚いた。
「すごーい、さすが店主さんだねぇー」
「そりゃあ客商売だからね」
「次は誰にするー?」
「はい、私がやります」
聖女様が即答した。いつも大勢の人達の前に出ているから、こういった状況に慣れてるんだろう。
認識阻害の魔法により、聖女様だと知っているのは俺だけ。なので見る人からすると、ローザさん以外は「誰?」って感じだ。
それをさすがローザさんは分かっているようで、前置きとして軽く紹介してくれている。
「みなさん、ごきげんよう。私はセイリーンと申します。本日は勝手ながらローザさんの支援をさせていただけることになりました。私では力不足かもしれませんが、どうか最後までお聞きいただけると幸いに存じます」
聖女様、硬いです。いや、聖女様はこれでいいのか。きっと聖女様は本質的に真面目なのだろう。聖女になるべくしてなった感じだ。
「みなさんは小説と聞いて、どのようなものを思い浮かべるでしょうか? どこの本屋さんに置いてあるようなものもいいですが、私が好きなのはこれですっ!」
聖女様はそこまで言うとローザさんと同じく、ラノベの表紙が見えるように持った。そこには美少女のイラストがある。
「これはね、魔法学院に通う男の子が主人公なんだけど、その子の幼馴染の女の子も同じ学院に通ってるの。そしてその女の子は主人公君のことが大好きなんだよ。だけど主人公君はその気持ちに全然気づかないの。だから女の子は頑張ってアピールするんだけど、実は他の女の子も主人公君のことが好きで——」
さっきまでの硬さはどこへやら。段々と早口になる聖女様。
「——それでねそれでねっ! 主人公君の周りには段々と女の子が集まるようになっていくの! いったい誰と付き合うのかなーって考えるのがもう楽しくて楽しくて!」
それからも聖女様は喋り続け、ようやく終わる頃にはとても満足そうな顔をしていた。
「はい、みんなお疲れ様ー。あとは私が編集しておくから配信を楽しみにしててねー」
俺は詳しくはないけど、編集にはかなりの時間と手間がかかるらしい。それにローザさんはSランク冒険者だから、その活動だってあるだろう。だから気長に待つとしようか。
そして動画がアップされてから数日。バズった。さすが聖女様は動画でも人を惹きつけるようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます