第3話 連絡先ゲット

「俺、てっきりアルマさんもラノベに興味があるのかと思いました」


「いえ、そもそも私が本を読まないというだけの話です」


「俺もそうですよ。ラノベ以外の小説は読まないですからね」


「そうなのですね。ところでハヤテさん、その『ラノベ』というのは何のことでしょうか?」


「すみません、つい。それはですね、こういう本のことです」


 俺はそう言ってさっき買ったばかりのラノベを見せた。その表紙には学生服姿の美少女のイラストが描かれている。


(しまった、女性に対して美少女イラストを見せてしまうとは……!)


 それが悪いことなわけがない。でもやっぱりどこか抵抗がある。

 それにヘタをすれば、「キモ……」なんて言われる可能性も。二文字で人の心をポキッと折るのは勘弁してほしい。


「なるほど、可愛い絵ですね」


「ラノベっていうのはこんな感じのイラストが途中にも描かれていて、文章を読みながら頭の中でそのキャラクターを動かします。……いや、キャラクターが動くと表現するほうが正しいかもしれません。イラストが無いキャラクターもいますが、それはそれで幅広くイメージできます」


「つまり想像を楽しむというわけですね」


「そうですね。でもそれが案外楽しいんです」


「確かに楽しいことを考えている間は幸せを感じますからね」


 アルマさんは冷静に返しながらも、さっきからラノベを一度も否定していない。そういった意味でも聖女様の護衛にピッタリの人だと思う。


「あっ、もうこんな時間かぁ。お城に戻らなきゃ」


 少し慌てた様子で聖女様が言う。これは俺の想像だけど、分単位のタイムスケジュールが組まれていそうだ。


「ハヤテ君ごめんね。絶対にまたラノベのことお話ししようね」


 それから聖女様は俺に背中を向け歩き出した。ところがアルマさんはまだ俺と向き合ったまま。


「一緒に行かなくていいんですか?」


「ハヤテさん、お願いがあります」


「何でしょうか? 俺にできることならいいんですけど」


「そうですね、あなたにしかできないと言っていいでしょう」


「それは光栄です」


「これからも聖女様の話し相手になってもらえませんか?」


「俺でよければもちろん喜んで。ですがなぜそのようなお願いを?」


「先ほど書店であなたと話をしていた時の聖女様、とても楽しそうな顔をしていました。好きなものの話が存分にできる人に初めて出会えて、きっと本当に嬉しかったのだと思います」


 そうだよな。好きなものの話を誰にもできないなんて、思った以上にツラいだろう。


「でも俺は聖騎士団の中でも一番の下っ端ですよ。どうやって聖女様と話せる機会を作ればいいのでしょうか」


「確かに今のままではそばに近付くことすら難しいでしょう。なので私の連絡先を教えます」


 実はこの世界にも、スマホのような役割の魔法具が存在している。

 仕組みこそ魔力回路とかそんな感じの異世界ならではのものだけど、機能面においては似ている。


「さすがに聖女様と直接連絡をとることはできませんが、何かあれば気軽にどうぞ」


「分かりました」


 こうして意図せず可愛い子の連絡先をゲットした。だからって本当に気軽にしょうもない理由で連絡したらブン殴られそうだ。



 その日の夜。部屋の明かりを消して考えてみる。


 ラノベのことを話す聖女様、とても楽しそうだった。だけど普段は誰にも話せないでいる。

 アルマさんなら話は聞いてくれるだろう。だけどアルマさんはラノベに興味が無く、深い話はできない。


 そうなると現状では本当に俺しかいないということになる。だけど俺は下っ端だから、本来は近づくことすら不可能。


(だとすると俺が出世すればいいのか……?)


 もしそうなれば、公の場でも近くにいることができる。


(もしくはラノベの普及……?)


 ラノベの世間的な地位が向上すれば、偏見など無くなるはずだ。そして好きなものは好きと言える世の中に!


 まるで絵空事のようだけど、日本だってそんな時代になった。なのでこの世界でもきっかけさえあれば……!

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