第21話 萌の答え

悠斗が『好きだ』って言った瞬間、私の世界が止まった。


放課後の教室。二人きり。

窓から差し込む夕日が、オレンジ色に染めている。


「萌、俺…お前のことが、好きだ」


悠斗の言葉。

私――佐伯萌の心臓が、止まる。



(悠斗が……)

(好きだって……)

(言ってくれた)


嬉しい。

すごく、嬉しい。

涙が、出そうになる。


小学生の時から。

ずっと、ずっと待ってた。

この言葉を。

悠斗の、この言葉を。



でも。

ふと、気づく。


(私、今……)

(悠斗に依存してる)


家での孤独。

「ただいま」に返事がない日々。

両親の冷戦。

誰も見てくれない家。


その寂しさを、全部。

悠斗で埋めようとしてる。



片桐先輩の言葉が、頭に浮かぶ。

「小林くんが好きなのは、そういう君じゃない」


彩の言葉も。

「本当の萌ちゃんでいてほしい」


(本当の私って、何?)


家の寂しさから逃げるために。

悠斗に、すがろうとしてる私。

それは、違う。



(これじゃダメだ)

(今、付き合ったら)

(私、悠斗に全部求めちゃう)


愛情も。

承認も。

居場所も。

全部。


(それは……重すぎる)



深呼吸する。

涙を拭う。


悠斗が、待っている。

俺の答えを。


私は、悠斗を真っ直ぐ見る。

「悠斗」

「うん」


声が、震える。

「ありがとう」



悠斗が、驚く。

「え……?」

「嬉しい。すごく、嬉しい」


涙が、また流れる。

「ずっと、待ってた」

「この言葉」


悠斗「じゃあ……」

私は、首を横に振る。

「でも、今じゃない」



悠斗の顔が、凍りつく。

「え……?」

「ごめん」

「なんで……?」


私は、深呼吸する。

言わなきゃ。

ちゃんと。



「私ね、今、悠斗に依存してる」


悠斗が、黙って聞いている。


「家が辛くて」

「両親が冷たくて」

「『ただいま』って言っても、返事がない」

「一人で夕飯食べて」

「一人で寝て」


涙が、止まらない。

「その寂しさを、悠斗で埋めようとしてる」



「でも、それじゃダメなんだ」

私は、続ける。

「そんな私と付き合っても」

「悠斗、重いだけだよ」


悠斗「そんなこと……」

「そんなことあるよ」


私は、悠斗を真っ直ぐ見る。

「私、まず自分の足で立たなきゃ」

「家族とも向き合わなきゃ」

「自分の問題を、自分で解決しなきゃ」



夕日が、さらに傾いている。

教室が、オレンジから赤に変わっていく。


「それができたら」

私は、微笑もうとする。

でも、涙で顔がぐちゃぐちゃだ。


「もう一度、悠斗に答える」


悠斗が、何か言いたそうな顔をしている。

でも、言葉が出ない。



「だから、待ってて」

私は、涙を拭う。

「私が、ちゃんと自立できるまで」


沈黙。

風が、窓から入ってくる。

カーテンが、揺れる。


悠斗は、ただ私を見ている。

その目が、潤んでいる。



「ごめんね」


私は、鞄を掴む。

教室を出なきゃ。

これ以上いたら。

この決意が、崩れちゃう。


「本当に、ごめん」


そう言い残して、私は走った。



廊下を走る。

涙が、止まらない。


(悠斗……)

(ごめん)

(でも、これが正解なんだ)

(今の私じゃ、ダメなんだ)


階段を降りる。

足音が、響く。


下駄箱で靴を履き替える。

手が、震えている。


校門を出る。



一人で、帰り道を歩く。

空が、赤い。

夕焼けが、綺麗だ。


でも、今は何も見えない。

涙で、景色がぼやける。


(悠斗の顔)

(あの、凍りついた顔)


胸が、痛い。

すごく、痛い。



でも。


(これで、良かったんだ)

(今、付き合ったら)

(私、悠斗に全部求めちゃう)


家での孤独。

親の愛情の欠如。

居場所のなさ。


それを全部、悠斗に埋めてもらおうとする。


(それは、間違ってる)



家に着く。

「ただいま」


返事はない。

いつも通り。


玄関を開ける。

静かな家。


リビングに行く。

お母さんが、ソファに座っている。

テレビを見ている。


「おかえり」

小さな声。

私を見ない。


「……ただいま」

それだけ。

会話は、終わる。



お父さんは、まだ帰ってない。

いつも通り。


私は、階段を上る。

二階の自分の部屋。

扉を開ける。

ベッドに倒れ込む。



涙が、止まらない。


(悠斗……)

(好きだよ)

(大好きだよ)

(でも、今じゃダメなんだ)


枕が、濡れていく。


スマホが、鳴る。

誰か、LINEを送ってきた。


画面を見る。

彩からだった。


「萌ちゃん、大丈夫?」



返信する。

「大丈夫じゃない」

「悠斗に、告白された」

「でも、断った」


すぐに、彩から電話がかかってくる。


「もしもし」

「萌ちゃん!大丈夫!?」


彩の声。

心配そうな声。


「大丈夫じゃない……」

また、涙が出る。



彩が言う。

「今から、行っていい?」

「え?」

「萌ちゃんの家」

「でも……」

「いいから。待ってて」


電話が、切れる。


私は、ベッドで丸くなる。

(彩……)

(ありがとう)



30分後。

インターホンが鳴る。


階段を降りる。

玄関を開ける。


彩が、立っている。

「萌ちゃん」


彩が、私を抱きしめる。

そこで、私は声を出して泣いた。



私の部屋。

彩と二人、ベッドに座っている。


「話して」

彩が言う。


私は、全部話した。

悠斗の告白。

私が断ったこと。

家での孤独。

依存していること。

自立しなきゃいけないこと。



彩は、黙って聞いていた。


話し終わって。

彩が言う。

「萌ちゃん、偉いね」


「え?」

「だって、好きな人に告白されて」

「でも、自分の問題を先に解決しようとしてる」

「それって、すごいことだよ」



私は、また涙が出る。

「でも……辛い」

「そりゃそうだよ」


彩は、私の手を握る。

「でも、正しいことしてる」

「萌ちゃんは、強いよ」


「強くない……」

「強いよ」


彩は、笑う。

「だって、悠斗くんを待たせてるんだもん」

「それって、勇気がいることだよ」



私は、彩の肩に頭を預ける。

「彩、ありがとう」

「どういたしまして」


二人で、しばらく黙っている。

窓から、月が見える。

綺麗な月。


「萌ちゃん」

「ん?」

「私、応援してるから」

「ありがと」



それから、彩は夜まで一緒にいてくれた。

一緒に夕飯を食べて。

一緒にテレビを見て。

バカ話をして。

少しだけ、楽になった。



彩が帰る時。

玄関で。


「萌ちゃん、無理しないでね」

「うん」

「何かあったら、すぐ連絡して」

「うん」


彩が、去っていく。

私は、手を振る。


(彩……)

(本当に、ありがとう)



部屋に戻る。

ベッドに座る。


スマホを見る。

悠斗からのLINEは、ない。

当たり前だ。

私が、断ったんだから。



でも。


(悠斗……)

私は、悠斗にLINEを送ろうとする。


指が、画面の上で止まる。

(何て書けばいい?)

(ごめん?)

(待ってて?)


でも、何も打てない。

画面を閉じる。



窓の外を見る。

月が、綺麗だ。


(悠斗も、見てるかな)

(この月を)


涙が、また流れる。


(ごめんね、悠斗)

(でも、私……)

(変わらなきゃ)


そう決意した。



【視点切り替え:悠斗】


教室。

一人残された俺。

夕日に照らされている。

もう、赤というより暗い。


(萌が……)

(断った)


胸が、痛い。

息が、できない。



拳を、握る。

(なんで……)

(やっと伝えたのに)

(やっと、勇気を出したのに)


机を、叩く。

痛い。

でも、心の痛みの方が強い。



萌の言葉が、頭に残る。

「私、悠斗に依存してる」

「家が辛くて」

「その寂しさを、悠斗で埋めようとしてる」


(萌……)

そうだったのか。

萌は、家で辛い思いをしていた。

俺は、それに気づいていなかった。



「まず自分の足で立たなきゃ」

「それができたら、もう一度答える」

「だから、待ってて」


(待つ……)


俺は、窓の外を見る。

夕日が、完全に沈んでいる。

空が、暗くなっている。

星が、見え始めている。



深呼吸する。

(分かった)

(待つよ、萌)

(何年でも)


そう心に誓った。



教室を出る。

廊下を歩く。


誰もいない。

静かだ。

足音だけが、響く。


下駄箱で靴を履き替える。

校門を出る。



帰り道。

一人で歩く。

空が、オレンジから紫に変わっていく。


(萌、辛かったんだな)

(俺、気づいてなかった)


胸が、痛い。

でも。


(萌は、正しいことをしようとしてる)

(自分の足で立とうとしてる)

(それを、俺が邪魔しちゃダメだ)



家に着く。

「ただいま」


母が出てくる。

「おかえり。どうだった?」


俺は、少し迷ってから言う。

「……伝えた」


母の顔が、明るくなる。

「そう!良かったじゃない!」


「でも……」

「でも?」

「断られた」



母の笑顔が、消える。

「え……」

「萌が……自分の足で立つまで待ってほしいって」


母は、少し考えてから言う。

「それって……」

「家族のこと、とか」


母は、頷く。

「そう……萌ちゃん、辛かったのね」



母は、俺の頭を撫でる。

「あなた、偉いわね」

「え?」

「待つって決めたんでしょ?」

「……うん」


母は、優しく笑う。

「大丈夫。きっと、上手くいくわ」

「そうかな」

「そうよ。萌ちゃんは、強い子だから」



部屋に入る。

ベッドに座る。

窓の外を見る。


もう、暗くなっている。

星が、たくさん見える。


(萌……)

(今、何してるんだろう)


心配になる。



スマホを取り出す。

萌にLINEを送ろうとする。


でも。


(今は、そっとしておこう)

(萌は、自分と向き合ってる)


画面を閉じる。



ベッドに横になる。

天井を見つめる。


(待つ)

(何年でも)

(萌が、自分の足で立つまで)


涙が、一筋流れる。


(萌……)

(好きだよ)

(ずっと、待ってる)


そう思いながら、目を閉じた。



でも、眠れない。

萌の顔が、浮かんでは消える。


笑った顔。

泣いた顔。

今日の、決意した顔。


全部、好きだ。


(萌……)

(頑張れよ)


窓の外を見る。

月が、綺麗だ。


(萌も、見てるかな)

(この月を)


そう思って。

俺は、月に向かって呟いた。


「待ってる」

小さな声で。

でも、確かに。


「萌、待ってるから」



その夜。

俺と萌は、同じ月を見ていた。


遠く離れて。

でも、同じ月を。


そして、二人とも思っていた。

(いつか、また)


そう。

いつか。



--------

【あとがき】

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