第21話 萌の答え
悠斗が『好きだ』って言った瞬間、私の世界が止まった。
放課後の教室。二人きり。
窓から差し込む夕日が、オレンジ色に染めている。
「萌、俺…お前のことが、好きだ」
悠斗の言葉。
私――佐伯萌の心臓が、止まる。
*
(悠斗が……)
(好きだって……)
(言ってくれた)
嬉しい。
すごく、嬉しい。
涙が、出そうになる。
小学生の時から。
ずっと、ずっと待ってた。
この言葉を。
悠斗の、この言葉を。
*
でも。
ふと、気づく。
(私、今……)
(悠斗に依存してる)
家での孤独。
「ただいま」に返事がない日々。
両親の冷戦。
誰も見てくれない家。
その寂しさを、全部。
悠斗で埋めようとしてる。
*
片桐先輩の言葉が、頭に浮かぶ。
「小林くんが好きなのは、そういう君じゃない」
彩の言葉も。
「本当の萌ちゃんでいてほしい」
(本当の私って、何?)
家の寂しさから逃げるために。
悠斗に、すがろうとしてる私。
それは、違う。
*
(これじゃダメだ)
(今、付き合ったら)
(私、悠斗に全部求めちゃう)
愛情も。
承認も。
居場所も。
全部。
(それは……重すぎる)
*
深呼吸する。
涙を拭う。
悠斗が、待っている。
俺の答えを。
私は、悠斗を真っ直ぐ見る。
「悠斗」
「うん」
声が、震える。
「ありがとう」
*
悠斗が、驚く。
「え……?」
「嬉しい。すごく、嬉しい」
涙が、また流れる。
「ずっと、待ってた」
「この言葉」
悠斗「じゃあ……」
私は、首を横に振る。
「でも、今じゃない」
*
悠斗の顔が、凍りつく。
「え……?」
「ごめん」
「なんで……?」
私は、深呼吸する。
言わなきゃ。
ちゃんと。
*
「私ね、今、悠斗に依存してる」
悠斗が、黙って聞いている。
「家が辛くて」
「両親が冷たくて」
「『ただいま』って言っても、返事がない」
「一人で夕飯食べて」
「一人で寝て」
涙が、止まらない。
「その寂しさを、悠斗で埋めようとしてる」
*
「でも、それじゃダメなんだ」
私は、続ける。
「そんな私と付き合っても」
「悠斗、重いだけだよ」
悠斗「そんなこと……」
「そんなことあるよ」
私は、悠斗を真っ直ぐ見る。
「私、まず自分の足で立たなきゃ」
「家族とも向き合わなきゃ」
「自分の問題を、自分で解決しなきゃ」
*
夕日が、さらに傾いている。
教室が、オレンジから赤に変わっていく。
「それができたら」
私は、微笑もうとする。
でも、涙で顔がぐちゃぐちゃだ。
「もう一度、悠斗に答える」
悠斗が、何か言いたそうな顔をしている。
でも、言葉が出ない。
*
「だから、待ってて」
私は、涙を拭う。
「私が、ちゃんと自立できるまで」
沈黙。
風が、窓から入ってくる。
カーテンが、揺れる。
悠斗は、ただ私を見ている。
その目が、潤んでいる。
*
「ごめんね」
私は、鞄を掴む。
教室を出なきゃ。
これ以上いたら。
この決意が、崩れちゃう。
「本当に、ごめん」
そう言い残して、私は走った。
*
廊下を走る。
涙が、止まらない。
(悠斗……)
(ごめん)
(でも、これが正解なんだ)
(今の私じゃ、ダメなんだ)
階段を降りる。
足音が、響く。
下駄箱で靴を履き替える。
手が、震えている。
校門を出る。
*
一人で、帰り道を歩く。
空が、赤い。
夕焼けが、綺麗だ。
でも、今は何も見えない。
涙で、景色がぼやける。
(悠斗の顔)
(あの、凍りついた顔)
胸が、痛い。
すごく、痛い。
*
でも。
(これで、良かったんだ)
(今、付き合ったら)
(私、悠斗に全部求めちゃう)
家での孤独。
親の愛情の欠如。
居場所のなさ。
それを全部、悠斗に埋めてもらおうとする。
(それは、間違ってる)
*
家に着く。
「ただいま」
返事はない。
いつも通り。
玄関を開ける。
静かな家。
リビングに行く。
お母さんが、ソファに座っている。
テレビを見ている。
「おかえり」
小さな声。
私を見ない。
「……ただいま」
それだけ。
会話は、終わる。
*
お父さんは、まだ帰ってない。
いつも通り。
私は、階段を上る。
二階の自分の部屋。
扉を開ける。
ベッドに倒れ込む。
*
涙が、止まらない。
(悠斗……)
(好きだよ)
(大好きだよ)
(でも、今じゃダメなんだ)
枕が、濡れていく。
スマホが、鳴る。
誰か、LINEを送ってきた。
画面を見る。
彩からだった。
「萌ちゃん、大丈夫?」
*
返信する。
「大丈夫じゃない」
「悠斗に、告白された」
「でも、断った」
すぐに、彩から電話がかかってくる。
「もしもし」
「萌ちゃん!大丈夫!?」
彩の声。
心配そうな声。
「大丈夫じゃない……」
また、涙が出る。
*
彩が言う。
「今から、行っていい?」
「え?」
「萌ちゃんの家」
「でも……」
「いいから。待ってて」
電話が、切れる。
私は、ベッドで丸くなる。
(彩……)
(ありがとう)
*
30分後。
インターホンが鳴る。
階段を降りる。
玄関を開ける。
彩が、立っている。
「萌ちゃん」
彩が、私を抱きしめる。
そこで、私は声を出して泣いた。
*
私の部屋。
彩と二人、ベッドに座っている。
「話して」
彩が言う。
私は、全部話した。
悠斗の告白。
私が断ったこと。
家での孤独。
依存していること。
自立しなきゃいけないこと。
*
彩は、黙って聞いていた。
話し終わって。
彩が言う。
「萌ちゃん、偉いね」
「え?」
「だって、好きな人に告白されて」
「でも、自分の問題を先に解決しようとしてる」
「それって、すごいことだよ」
*
私は、また涙が出る。
「でも……辛い」
「そりゃそうだよ」
彩は、私の手を握る。
「でも、正しいことしてる」
「萌ちゃんは、強いよ」
「強くない……」
「強いよ」
彩は、笑う。
「だって、悠斗くんを待たせてるんだもん」
「それって、勇気がいることだよ」
*
私は、彩の肩に頭を預ける。
「彩、ありがとう」
「どういたしまして」
二人で、しばらく黙っている。
窓から、月が見える。
綺麗な月。
「萌ちゃん」
「ん?」
「私、応援してるから」
「ありがと」
*
それから、彩は夜まで一緒にいてくれた。
一緒に夕飯を食べて。
一緒にテレビを見て。
バカ話をして。
少しだけ、楽になった。
*
彩が帰る時。
玄関で。
「萌ちゃん、無理しないでね」
「うん」
「何かあったら、すぐ連絡して」
「うん」
彩が、去っていく。
私は、手を振る。
(彩……)
(本当に、ありがとう)
*
部屋に戻る。
ベッドに座る。
スマホを見る。
悠斗からのLINEは、ない。
当たり前だ。
私が、断ったんだから。
*
でも。
(悠斗……)
私は、悠斗にLINEを送ろうとする。
指が、画面の上で止まる。
(何て書けばいい?)
(ごめん?)
(待ってて?)
でも、何も打てない。
画面を閉じる。
*
窓の外を見る。
月が、綺麗だ。
(悠斗も、見てるかな)
(この月を)
涙が、また流れる。
(ごめんね、悠斗)
(でも、私……)
(変わらなきゃ)
そう決意した。
*
【視点切り替え:悠斗】
教室。
一人残された俺。
夕日に照らされている。
もう、赤というより暗い。
(萌が……)
(断った)
胸が、痛い。
息が、できない。
*
拳を、握る。
(なんで……)
(やっと伝えたのに)
(やっと、勇気を出したのに)
机を、叩く。
痛い。
でも、心の痛みの方が強い。
*
萌の言葉が、頭に残る。
「私、悠斗に依存してる」
「家が辛くて」
「その寂しさを、悠斗で埋めようとしてる」
(萌……)
そうだったのか。
萌は、家で辛い思いをしていた。
俺は、それに気づいていなかった。
*
「まず自分の足で立たなきゃ」
「それができたら、もう一度答える」
「だから、待ってて」
(待つ……)
俺は、窓の外を見る。
夕日が、完全に沈んでいる。
空が、暗くなっている。
星が、見え始めている。
*
深呼吸する。
(分かった)
(待つよ、萌)
(何年でも)
そう心に誓った。
*
教室を出る。
廊下を歩く。
誰もいない。
静かだ。
足音だけが、響く。
下駄箱で靴を履き替える。
校門を出る。
*
帰り道。
一人で歩く。
空が、オレンジから紫に変わっていく。
(萌、辛かったんだな)
(俺、気づいてなかった)
胸が、痛い。
でも。
(萌は、正しいことをしようとしてる)
(自分の足で立とうとしてる)
(それを、俺が邪魔しちゃダメだ)
*
家に着く。
「ただいま」
母が出てくる。
「おかえり。どうだった?」
俺は、少し迷ってから言う。
「……伝えた」
母の顔が、明るくなる。
「そう!良かったじゃない!」
「でも……」
「でも?」
「断られた」
*
母の笑顔が、消える。
「え……」
「萌が……自分の足で立つまで待ってほしいって」
母は、少し考えてから言う。
「それって……」
「家族のこと、とか」
母は、頷く。
「そう……萌ちゃん、辛かったのね」
*
母は、俺の頭を撫でる。
「あなた、偉いわね」
「え?」
「待つって決めたんでしょ?」
「……うん」
母は、優しく笑う。
「大丈夫。きっと、上手くいくわ」
「そうかな」
「そうよ。萌ちゃんは、強い子だから」
*
部屋に入る。
ベッドに座る。
窓の外を見る。
もう、暗くなっている。
星が、たくさん見える。
(萌……)
(今、何してるんだろう)
心配になる。
*
スマホを取り出す。
萌にLINEを送ろうとする。
でも。
(今は、そっとしておこう)
(萌は、自分と向き合ってる)
画面を閉じる。
*
ベッドに横になる。
天井を見つめる。
(待つ)
(何年でも)
(萌が、自分の足で立つまで)
涙が、一筋流れる。
(萌……)
(好きだよ)
(ずっと、待ってる)
そう思いながら、目を閉じた。
*
でも、眠れない。
萌の顔が、浮かんでは消える。
笑った顔。
泣いた顔。
今日の、決意した顔。
全部、好きだ。
(萌……)
(頑張れよ)
窓の外を見る。
月が、綺麗だ。
(萌も、見てるかな)
(この月を)
そう思って。
俺は、月に向かって呟いた。
「待ってる」
小さな声で。
でも、確かに。
「萌、待ってるから」
*
その夜。
俺と萌は、同じ月を見ていた。
遠く離れて。
でも、同じ月を。
そして、二人とも思っていた。
(いつか、また)
そう。
いつか。
--------
【あとがき】
🌟沢山のフォローやお星さま、ハート、本当にありがとうございます!
皆さんの応援がモチベーションになっています(⁎˃ᴗ˂⁎)
これからもどうぞよろしくお願いします✨
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