第20話 トラウマの正体
片桐が俺に話した真実は、俺の世界を変えた。
日曜日の午後。
俺――小林悠斗は、公園のベンチに座っている。
カフェを出てから、ずっとここにいる。
*
空を見上げる。
青い空。
白い雲。
風が、気持ちいい。
*
(ユキは、幸せになった)
(俺のせいじゃなかった)
胸が、軽い。
二年間抱えていた重し。
それが、消えている。
*
(片桐先輩が言った)
(「もう逃げるな」って)
(「佐伯さんに、ちゃんと伝えろ」って)
深呼吸する。
*
(明日は、代休)
(火曜日、学校で)
(萌に、伝えよう)
(好きだって)
(ちゃんと)
決意する。
*
スマホを取り出す。
時計を見る。
午後2時。
*
萌の名前を見る。
LINEを開く。
最後のやり取りは、文化祭の前。
「演奏、楽しみにしてる」
既読がついている。
でも、返信はない。
*
(今、送ろうかな)
(「明日、話せる?」って)
指が、画面の上で止まる。
*
(いや)
(LINEじゃダメだ)
(直接、言わなきゃ)
画面を閉じる。
*
立ち上がる。
公園を出る。
家に帰ろう。
明日、ゆっくり考えよう。
火曜日、学校で。
萌に、伝える。
*
その夜。
俺の部屋。
ベッドに横になって、天井を見つめる。
*
(片桐先輩の話)
何度も、頭の中で再生される。
「君は、何も悪くない」
「ユキは、君を恨んでない」
「むしろ、感謝してる」
*
涙が、また出そうになる。
でも、今度は悲しい涙じゃない。
安心の涙。
解放の涙。
*
(俺、やっと自由になれた)
(二年間の呪縛から)
目を閉じる。
*
(明日、どうやって伝えよう)
(「萌、好きだ」?)
(「付き合ってください」?)
シミュレーションする。
でも、どれもしっくりこない。
*
(まぁ、その場で考えよう)
(大事なのは、言葉じゃない)
(気持ちだ)
そう思って、眠りについた。
*
月曜日。
代休。
目が覚める。
時計を見る。
午前10時。
*
窓を開ける。
晴れている。
良い天気だ。
*
(今日は、ゆっくりしよう)
(明日に備えて)
リビングに行く。
母が、洗濯物を畳んでいる。
「おはよう」
「おはよ。遅かったわね」
「うん…ちょっと疲れてて」
*
朝食を食べる。
トーストと、コーヒー。
母が話しかけてくる。
「昨日、友達と会ったんでしょ?」
「うん」
「楽しかった?」
「まぁ…話したいことがあるって言われて」
*
母は、俺の顔を見る。
「何か、良いことあった?」
「え?」
「顔が、明るいもの」
*
俺は、少し驚く。
「そうかな」
「そうよ。最近ずっと暗かったけど、今日は違う」
母は、優しく笑う。
「何があったか知らないけど、良かったわね」
*
俺も、少し笑う。
「うん。ちょっと、吹っ切れた」
「そう。それは良かった」
母は、洗濯物を畳み続ける。
*
午後。
俺は、部屋で過ごしている。
漫画を読む。
ゲームをする。
でも、集中できない。
*
(明日、萌に伝える)
(どうやって?)
(どこで?)
考える。
*
(屋上?)
(いや、また誰かに邪魔されるかも)
(教室?)
(人が多すぎる)
(放課後、二人きりになれる場所…)
*
(音楽室?)
(いや、軽音部の人がいるかも)
(図書館?)
(静かすぎる)
*
考えがまとまらない。
(まぁ、その場で決めよう)
(大事なのは、伝えること)
深呼吸する。
*
夕方。
スマホが鳴る。
LINEの通知。
斉藤からだった。
*
『明日、学校だな』
『うん』
『萌ちゃんに、言うんだろ?』
『言う』
『マジで?』
『マジで』
*
すぐに返信が来る。
『お、やっと本気出したか』
『頑張れよ』
『ありがと』
*
斉藤は、良い友達だ。
いつも、俺を応援してくれる。
(明日、良い報告ができるといいな)
*
夜。
夕飯を食べる。
母が作ったカレー。
美味しい。
*
「明日、学校よね」
母が言う。
「うん」
「何か、大事な日?」
「え?」
*
母は、笑う。
「なんとなくね。あなた、そわそわしてるもの」
「そうかな…」
「そうよ」
母は、俺を見る。
「萌ちゃんに、何か言うんでしょ?」
*
俺の心臓が、跳ねる。
「なんで分かるの?」
「お母さんだもの」
母は、優しく笑う。
「頑張ってね」
「…うん」
*
部屋に戻る。
ベッドに横になる。
天井を見つめる。
*
(明日)
(明日、伝える)
(萌に)
心臓が、バクバクする。
緊張。
でも、今度は逃げない。
*
(ユキのメッセージ)
頭の中で、何度も思い出す。
「小林くんも、幸せになってね」
*
(ユキ)
(俺、頑張るよ)
(君の言葉が、俺を救ってくれた)
(だから、今度は俺が)
(自分の幸せを掴む)
*
目を閉じる。
明日。
明日、俺の人生が変わる。
そんな予感がした。
*
火曜日。
朝。
目が覚める。
時計を見る。
午前6時。
早い。
でも、もう眠れない。
*
起き上がる。
窓を開ける。
晴れている。
空が、青い。
*
(今日だ)
(今日、萌に伝える)
深呼吸する。
手が、震える。
緊張。
でも、逃げない。
*
準備をする。
制服を着る。
鏡を見る。
いつもと同じ顔。
でも、目が違う。
覚悟が、ある。
*
朝食を食べる。
母が見送ってくれる。
「頑張ってね」
「うん」
*
家を出る。
学校に向かう。
いつもの道。
でも、今日は違う。
足が、軽い。
*
校門をくぐる。
下駄箱で靴を履き替える。
階段を上る。
廊下を歩く。
*
教室に入る。
萌が、既に席についている。
いつものポニーテール。
制服姿。
ノートに、何か書いている。
*
俺に気づいて、顔を上げる。
「おはよ」
「おはよ」
一瞬。
目が合う。
萌は、すぐに目を逸らす。
*
(やっぱり、避けられてる)
胸が、痛い。
でも。
(今日、伝える)
(絶対に)
自分の席に座る。
*
午前中の授業。
全く集中できない。
教科書を開いているけど、文字が頭に入ってこない。
チラチラ萌を見てしまう。
萌は、真面目に授業を受けている。
*
(放課後、どうやって誘おう)
(「ちょっと話せる?」?)
(それとも…)
考えがまとまらない。
*
昼休み。
俺は、購買でパンを買う。
教室に戻る。
斉藤が、隣に来る。
*
「お前、今日やるんだろ?」
小声で言う。
「うん」
「どこで?」
「まだ決めてない」
「屋上は?」
「また邪魔されるかも」
*
斉藤は、少し考える。
「じゃあ、放課後の教室は?」
「人がいる」
「HR終わって、みんな帰った後は?」
「…それがいいかも」
*
斉藤は、ニヤリと笑う。
「よし。じゃあ、俺が協力する」
「え?」
「HR終わったら、俺がみんなを早く帰らせる」
「いいの?」
「当たり前だろ。親友だろ」
*
俺は、胸が熱くなる。
「ありがと」
「礼はいいから、ちゃんと言えよ」
「…うん」
*
午後の授業。
時間が、すごく遅く感じる。
時計を何度も見てしまう。
*
5時間目。
6時間目。
やっと、終わる。
*
HR。
担任が、前に立つ。
「はい、連絡事項。明日は…」
いつもの連絡。
俺は、全く聞いていない。
ただ、心臓がバクバクしている。
*
「以上。じゃあ、気をつけて帰ってください」
「起立、礼」
HR終了。
*
みんなが、帰り支度を始める。
斉藤が、大きな声で言う。
「おい、みんな!今日、駅前のゲーセン行かない?」
「え、マジで?」
「行く行く!」
*
何人かが、斉藤について行く。
教室が、少しずつ空いていく。
萌も、鞄を持って立ち上がる。
*
俺は、立ち上がる。
「萌」
萌が、振り返る。
「ちょっと、話せる?」
*
萌は、少し迷う。
その目が、不安そう。
でも。
小さく、頷く。
「…うん」
*
教室に、二人きり。
窓から、夕日が差し込んでいる。
オレンジ色の光。
静寂。
*
萌が、俺の前に立つ。
「何?」
俺は、深呼吸する。
*
(今だ)
(今、伝える)
(もう、逃げない)
手が、震える。
でも、言わなきゃ。
*
「萌」
「…うん」
「俺、ずっと…」
言葉を探す。
*
(何て言えばいい?)
(好きだ?)
(付き合ってください?)
心臓が、バクバクする。
*
萌が、待っている。
俺を、真っ直ぐ見ている。
その目は、不安と期待が混ざっている。
*
俺は、意を決する。
「萌、俺…」
「お前のことが、好きだ」
*
その言葉が、口から出た瞬間。
時間が、止まった。
--------
【あとがき】
🌟沢山のフォローやお星さま、ハート、本当にありがとうございます!
皆さんの応援がモチベーションになっています(⁎˃ᴗ˂⁎)
これからもどうぞよろしくお願いします✨
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