第20話 トラウマの正体

片桐が俺に話した真実は、俺の世界を変えた。


日曜日の午後。

俺――小林悠斗は、公園のベンチに座っている。

カフェを出てから、ずっとここにいる。



空を見上げる。

青い空。

白い雲。

風が、気持ちいい。



(ユキは、幸せになった)

(俺のせいじゃなかった)


胸が、軽い。

二年間抱えていた重し。

それが、消えている。



(片桐先輩が言った)

(「もう逃げるな」って)

(「佐伯さんに、ちゃんと伝えろ」って)


深呼吸する。



(明日は、代休)

(火曜日、学校で)

(萌に、伝えよう)

(好きだって)

(ちゃんと)


決意する。



スマホを取り出す。

時計を見る。

午後2時。



萌の名前を見る。

LINEを開く。

最後のやり取りは、文化祭の前。


「演奏、楽しみにしてる」


既読がついている。

でも、返信はない。



(今、送ろうかな)

(「明日、話せる?」って)


指が、画面の上で止まる。



(いや)

(LINEじゃダメだ)

(直接、言わなきゃ)


画面を閉じる。



立ち上がる。

公園を出る。

家に帰ろう。


明日、ゆっくり考えよう。

火曜日、学校で。

萌に、伝える。



その夜。

俺の部屋。

ベッドに横になって、天井を見つめる。



(片桐先輩の話)

何度も、頭の中で再生される。


「君は、何も悪くない」

「ユキは、君を恨んでない」

「むしろ、感謝してる」



涙が、また出そうになる。

でも、今度は悲しい涙じゃない。

安心の涙。

解放の涙。



(俺、やっと自由になれた)

(二年間の呪縛から)


目を閉じる。



(明日、どうやって伝えよう)

(「萌、好きだ」?)

(「付き合ってください」?)


シミュレーションする。

でも、どれもしっくりこない。



(まぁ、その場で考えよう)

(大事なのは、言葉じゃない)

(気持ちだ)


そう思って、眠りについた。



月曜日。

代休。


目が覚める。

時計を見る。

午前10時。



窓を開ける。

晴れている。

良い天気だ。



(今日は、ゆっくりしよう)

(明日に備えて)


リビングに行く。

母が、洗濯物を畳んでいる。


「おはよう」

「おはよ。遅かったわね」

「うん…ちょっと疲れてて」



朝食を食べる。

トーストと、コーヒー。


母が話しかけてくる。

「昨日、友達と会ったんでしょ?」

「うん」

「楽しかった?」

「まぁ…話したいことがあるって言われて」



母は、俺の顔を見る。

「何か、良いことあった?」

「え?」

「顔が、明るいもの」



俺は、少し驚く。

「そうかな」

「そうよ。最近ずっと暗かったけど、今日は違う」


母は、優しく笑う。

「何があったか知らないけど、良かったわね」



俺も、少し笑う。

「うん。ちょっと、吹っ切れた」

「そう。それは良かった」


母は、洗濯物を畳み続ける。



午後。

俺は、部屋で過ごしている。


漫画を読む。

ゲームをする。

でも、集中できない。



(明日、萌に伝える)

(どうやって?)

(どこで?)


考える。



(屋上?)

(いや、また誰かに邪魔されるかも)

(教室?)

(人が多すぎる)

(放課後、二人きりになれる場所…)



(音楽室?)

(いや、軽音部の人がいるかも)

(図書館?)

(静かすぎる)



考えがまとまらない。

(まぁ、その場で決めよう)

(大事なのは、伝えること)


深呼吸する。



夕方。

スマホが鳴る。

LINEの通知。

斉藤からだった。



『明日、学校だな』

『うん』

『萌ちゃんに、言うんだろ?』

『言う』

『マジで?』

『マジで』



すぐに返信が来る。

『お、やっと本気出したか』

『頑張れよ』

『ありがと』



斉藤は、良い友達だ。

いつも、俺を応援してくれる。


(明日、良い報告ができるといいな)



夜。

夕飯を食べる。

母が作ったカレー。

美味しい。



「明日、学校よね」

母が言う。

「うん」

「何か、大事な日?」

「え?」



母は、笑う。

「なんとなくね。あなた、そわそわしてるもの」

「そうかな…」

「そうよ」


母は、俺を見る。

「萌ちゃんに、何か言うんでしょ?」



俺の心臓が、跳ねる。

「なんで分かるの?」

「お母さんだもの」


母は、優しく笑う。

「頑張ってね」

「…うん」



部屋に戻る。

ベッドに横になる。

天井を見つめる。



(明日)

(明日、伝える)

(萌に)


心臓が、バクバクする。

緊張。

でも、今度は逃げない。



(ユキのメッセージ)

頭の中で、何度も思い出す。


「小林くんも、幸せになってね」



(ユキ)

(俺、頑張るよ)

(君の言葉が、俺を救ってくれた)

(だから、今度は俺が)

(自分の幸せを掴む)



目を閉じる。

明日。

明日、俺の人生が変わる。

そんな予感がした。



火曜日。

朝。


目が覚める。

時計を見る。

午前6時。


早い。

でも、もう眠れない。



起き上がる。

窓を開ける。

晴れている。

空が、青い。



(今日だ)

(今日、萌に伝える)


深呼吸する。

手が、震える。

緊張。

でも、逃げない。



準備をする。

制服を着る。

鏡を見る。


いつもと同じ顔。

でも、目が違う。

覚悟が、ある。



朝食を食べる。

母が見送ってくれる。


「頑張ってね」

「うん」



家を出る。

学校に向かう。


いつもの道。

でも、今日は違う。

足が、軽い。



校門をくぐる。

下駄箱で靴を履き替える。

階段を上る。

廊下を歩く。



教室に入る。

萌が、既に席についている。


いつものポニーテール。

制服姿。

ノートに、何か書いている。



俺に気づいて、顔を上げる。

「おはよ」

「おはよ」


一瞬。

目が合う。

萌は、すぐに目を逸らす。



(やっぱり、避けられてる)

胸が、痛い。

でも。


(今日、伝える)

(絶対に)


自分の席に座る。



午前中の授業。

全く集中できない。

教科書を開いているけど、文字が頭に入ってこない。


チラチラ萌を見てしまう。

萌は、真面目に授業を受けている。



(放課後、どうやって誘おう)

(「ちょっと話せる?」?)

(それとも…)


考えがまとまらない。



昼休み。

俺は、購買でパンを買う。

教室に戻る。


斉藤が、隣に来る。



「お前、今日やるんだろ?」

小声で言う。

「うん」

「どこで?」

「まだ決めてない」

「屋上は?」

「また邪魔されるかも」



斉藤は、少し考える。

「じゃあ、放課後の教室は?」

「人がいる」

「HR終わって、みんな帰った後は?」

「…それがいいかも」



斉藤は、ニヤリと笑う。

「よし。じゃあ、俺が協力する」

「え?」

「HR終わったら、俺がみんなを早く帰らせる」

「いいの?」

「当たり前だろ。親友だろ」



俺は、胸が熱くなる。

「ありがと」

「礼はいいから、ちゃんと言えよ」

「…うん」



午後の授業。

時間が、すごく遅く感じる。

時計を何度も見てしまう。



5時間目。

6時間目。

やっと、終わる。



HR。

担任が、前に立つ。


「はい、連絡事項。明日は…」


いつもの連絡。

俺は、全く聞いていない。


ただ、心臓がバクバクしている。



「以上。じゃあ、気をつけて帰ってください」

「起立、礼」


HR終了。



みんなが、帰り支度を始める。

斉藤が、大きな声で言う。


「おい、みんな!今日、駅前のゲーセン行かない?」

「え、マジで?」

「行く行く!」



何人かが、斉藤について行く。

教室が、少しずつ空いていく。


萌も、鞄を持って立ち上がる。



俺は、立ち上がる。

「萌」


萌が、振り返る。

「ちょっと、話せる?」



萌は、少し迷う。

その目が、不安そう。


でも。

小さく、頷く。

「…うん」



教室に、二人きり。


窓から、夕日が差し込んでいる。

オレンジ色の光。

静寂。



萌が、俺の前に立つ。

「何?」


俺は、深呼吸する。



(今だ)

(今、伝える)

(もう、逃げない)


手が、震える。

でも、言わなきゃ。



「萌」

「…うん」

「俺、ずっと…」


言葉を探す。



(何て言えばいい?)

(好きだ?)

(付き合ってください?)


心臓が、バクバクする。



萌が、待っている。

俺を、真っ直ぐ見ている。

その目は、不安と期待が混ざっている。



俺は、意を決する。

「萌、俺…」

「お前のことが、好きだ」



その言葉が、口から出た瞬間。

時間が、止まった。



--------

【あとがき】

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