File18 -メタフィクション

いらっしゃい。

……ん?本を読んでるのが珍しいかい?


私だってたまには読むさ。

ここには娯楽がないからね。君のように、話を聞きに来てくれるのが唯一かな。


さて。

せっかく来てくれたんだ。話をしようか。


あぁ、本はいつでも読める。気にしないでくれ。

では、タイトルは「メタフィクション」。


◇◆◇◆◇◆


唐突だが、ミステリーにはいくつかのテクニックがある。

例えば、人間の先入観を利用したどんでん返しに使われる叙述トリック。

また最初に犯人を開示し主人公がどう追い詰めるかを楽しむ倒叙トリック。


かの横溝正史御大は「密室」「顔の無い死体」「一人二役」を推理小説の三大トリックとしておられる。

逆に『ノックスの十戒』や『ヴァン・ダインの二十則』ような、守らなければいけないルールも存在している。


そういう昔からの蓄積により、昨今の上質なミステリが提供されている訳だ。


それでは、全てを詳らかにした状態でのミステリは成り立つのか。


犯人も被害者も動機も、そして主人公が追い詰めた結果も導入で開示し、なおかつスリルある物語は作れるのか。


そう考えた女性が居てね。

すでに筆を折った作家なんだが、なかなかに面白い試みだと思うよ。


彼女は全3巻のミステリ小説を書き、1巻目で全てを読者に知らしめた。

残りの2巻で過程を書くという手法をとってね。


連続殺人事件で犯人は少年、動機は家族を殺された復讐。

被害者は取るに足らない者たち。アコギな商売で骨までしゃぶり尽くすやつらだ。

ナイフやロープと言った物的証拠が揃って、それを主人公が突きつけ、アリバイトリックと動機をさらす。

最終的に犯人が自殺する……といった内容だ。


残りの2巻で、犯人の憎悪、残された手がかり、被害者発見時の恐怖とトリックの謎を書いた。

書いたんだが……どうにも売れなかったようでね。


そりゃあ、一番最初にネタバレを食らったんだ。

読書好きならもう手に取らないだろう。


そもそも彼女がそういった小説を書こうとした理由も『コンテストで賞を取りたい』、『新しいことに挑戦したい』

という理由だったみたいでね。


周りからは、反対されていた。

売れないからもあるし、うまくいくはずもないと。


結果、当然のごとくコンテストは落ち、編集者から酷い言葉をかけられた。

こんなものは文学でもなんでもないと。


そんな状態だから本も出版までいかなかったんだよ。

それでも夢は捨てきれず、自費出版したそうだ。

まずは第1巻だけ。


最初はミステリ好きが買った様だが、結果は惨憺たる物。

かなりの批判が出てね。

精神的に参ってしまったそうだ。


それでも完結はさせたかった。

だからなんとか残りを書き上げた……が結果は最初に述べた通りだ。


◇◆◇◆◇◆


さて、ここまで聞いてどうだったかな?


興味深かった?

そうか。なら彼女の手法は間違っていなかったんだな。


どういう意味って……そのままの意味だよ。

これはタイトルにもかかっているんだがね。


私は最初に全て詳らかにした上で、彼女がそこに至る過程を話しただろう?

メタフィクションの名の通り、話を通して彼女の手法を真似てみたのさ。


そして、それが興味深かった。

つまり彼女の革新さを『固定観念』のせいで受け入れられなかった。

ただそれだけなんだ。


自分の世界を守るのは大事だ。

だが、たまには冒険してみるのも悪くはないんじゃないかな。

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