第2話 朝から大胆だね

前回のあらすじ。


自称神様の少女は自身を拾ってくれた前沢悠斗の提案で、「瑞月」という名前を得た。


以上




2024年6月23日 日曜日


朝、ちゅんちゅん鳴く雀の声で悠斗は目を覚ました。


(まーた軒下に巣を作りやがって...壊されること学習しないのかよ)


まだ覚め切っていないない頭でそんなことを考えながらも、起き上がろうと地面に手をついた...はずだった。


ふにっっとした感覚とまるで人のぬくとさを感じた。


(ふにっ?)


急激に意識が覚醒した悠斗はその温かさの原因をみた。


それは自称神様こと瑞月の腹部だった。


「ンー!?!?!?!?!!?」


声にならない声を上げた悠斗は彼女はいた事が無いため、服越しとはいえ女の子のお腹に触ったことはなかった。そのためいま、悠斗は温かいだとか、やわらけえなぁとか様々なこみあげてくる感情と、まずい、起きてないよな?早く手をどけて...などの理性で脳の処理が追い付いていなかった。


その追いつかない処理を終わらせたのは瑞月の声だった。


「んー?」


(あ、終わった...)


瑞月は頼む見ないでくれ!という悠斗の願いを裏切り、目だけ動かして状況を把握したようだった。


数秒の沈黙の末、瑞月は苦笑いしながら一言...


「朝から大胆だね」


悠斗は自身を呪った






あれから必死に弁明し、何故かその気になっていた瑞月を説き伏せた悠斗はスクランブルエッグを作っていた。


(あぁ~ホント疲れた。疲れた言ってもいい思いしたけど...柔らかかったな。


じゃなくて!俺がその気になるならまだしもなんで瑞月の方がノリノリなんだ...神様だから常識がないとか言わないだろうな。でもそうじゃないと普通叫んだりするよな...やっぱ瑞月のこと分からん)


はぁ...とため息をついた。


神様はというと何事もなかったかのようにお目覚めニュースを聞きながら昨日買った新聞を読んでいた。


じみーに常識はないくせして、言葉や行為の意味とかは理解しているらしい。


朝食を待ちながらニュースを聞きながし、新聞を読み込む美少女はなかなか見られないレアな光景だろう。


目線を瑞月からスクランブルエッグに向けるとちょうどよくなっていたので火を止めた。計算したかのようにチーンと音も響いた。


瑞月の肩がピクっと動いたのが見えた。


「パン焼けたから取りにおいで」


「うん」


新聞をとじでドタバタ駆け寄ってくる。結構お腹がすいていたようだ。


「冷蔵庫からマーガリン出して塗っておいて。スティックシュガーは向こうに置いておく」


瑞月が頷いたのを確認し、悠斗はスクランブルエッグを二皿に移した。


箸二膳と砂糖も持って先に席について待つ。


二分くらいして瑞月がパンを皿にのせて持ってきた。悠斗の体内では、寝起きの一件で忘れていた空腹も再び騒いでいた。そのパンを見るまでは。


「おい待て瑞月...お前このマーガリンの量は、なに?」


瑞月はふふんと自慢げに告げた。


「多ければ多いほどおいしいでしょ」


「...」


あながち間違ってはいない、否定はしない...がさすがにくどかった。


瑞月にはこれから少し...かなり教育が必要かもしれないと軽く絶望したのだった。




朝食を食べた後ゴロゴロして気づけば10時を過ぎていた。


「よし、スーパーいくぞ」


布団から起き上がった悠斗はこぶしを握り締めて告げた。


その拳からは布団と別れを告げる強い決意が感じられた。


「スーパー?」


瑞月は未だ布団から起き上がろうとしないが少し興味がわいたらしい。


「そう。誰かさんがマーガリンを一箱使ってしまったからな。ついでに安い食材を探す」


一応反省していたらしい瑞月は、少しの...否、かなり葛藤して立ち上がった。神様は一日目にして既に布団に魅入られてしまっているらしい。


「あんまり遠くないし歩いていくぞ」


「分かった」


グーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっと伸びをしてから少し支度、二人で家を出た。




「夜中と違って人が多いからな。あまり離れずに変なことも言うんじゃないぞ。いい?」


瑞月は頷く。


「分かったよ。迷惑はかけない」


迷惑はかけないという言葉にいろいろ言いたいことはあったが、飲み込み二人で歩いた。


少し路地を歩くと視界が開けた。


そこには川辺と右手の山の青々と繁る木々、ザアザア水の音を響かせる堰堤、地域の高校生が植えた花壇が見える少し古い橋が見えた。


悠斗は何度も見ている景色であり、特に思うことはなかった。


しかし瑞月の視界に映るそれはキラキラ輝く新鮮なさっぱりした美しさだった。


「綺麗...」


ふと立ち止まった瑞月はとても綺麗な目を輝かせていた。


(瑞月も...)


「水、すごくきれい。お魚が見える」


川は太陽の光を反射させており、悠斗の目には魚をとらえることはできなかった。


「俺の目では魚は見えないけどこの時期なら鮎じゃないかな」


「鮎?」


短い反応であるが、いつもより食いつき気味で声も上がっており、テンション上がっているんだなと伝わってきた。


「そう。ここらの鮎はブランド物で高級なんだ。全国の鮎食べ比べ大会で優勝しているらしいぞ」


「そうなんだ。黄色とグレーで目もくりくりしてて可愛いね。おいしそうに見えてきた」


(この距離でそこまで見えてるのかよ。やっぱ人間じゃありえない視力だな)


「お嬢ちゃん、鮎が気になるのかい?」


その時二人のものではない老婆の声が聞こえた。


瑞月はびっくりしたのか固まってしまった。


「藤村さん!おはようございます」


「おはよう。まめなか?」


まめなか=元気かな? 郡上弁であり案外使われている。


「はい。それとこちらはうちの親族で我が家に同棲することになった前沢瑞月です。ほら挨拶して」


あわせてくれ、と視線を瑞月に送る。


それを感じ取ったようで瑞月はウインクした。


「まめなかです。前沢瑞月と言います」


藤村さんこときんじょのおばちゃんは使い方の間違えている郡上弁を聞いて笑った。瑞月の実年齢は知らないが、おばちゃんからみたら子供が覚えたての言葉を使っているのが愛らしく見えたからだろう。


「瑞月ちゃんね、おばさんは藤村タエ子よろしくね」


瑞月は頷いている。


「少しぎこちないですけどすみません。今からスーパーに行こうと思ってたんですけどここらの子じゃないから新鮮だったようで」


「確かに田舎で自然豊かだからね。瑞月ちゃんは鮎、食べたことある?」


瑞月は首を振る。


「ないです。おいしいですか?」


「あたしらは食べなれてちゃってるけどおいしいよ。今晩持ってってあげる。たくさん食べなね」


「そんな、申し訳ないですよ!」


瑞月はそのままもらいそうだったので悠斗がいったん断りを入れる。


「いいっていいって。うちの主人が鮎の解禁日から毎日釣りに行ってるから余ってるの。育ち盛りなんだし二人で食べて。塩焼きでよかったかな?悠斗君原取ったりできないやろうから焼いて持ってくよ」


「いいんですか。それじゃあお言葉に甘えさせていただきます!ありがとうございます」


瑞月に視線を送る。


「ありがとうございます」


その後タエ子さんは微笑み、若いっていいね~と言いながら立ち去った。


「いい人だね」


「そうだね。藤村さんはいつも野菜とかくれるんだよ。一人暮らしだし若いから気にかけてくれてるんだと思う」


瑞月は微笑んでいた。


「さて、そろそろスーパーいくぞ」


二人はさっきより足取りが軽かった。




ここら辺では一番大きいスーパーにきた。


店内では激しい戦争が繰り広げられた。


実は悠斗は昨日、コンビニでかなりお金を使ってしまっていた。そのためあまり無駄なものは買う余裕はなかったのだ。それでも瑞月は気になるものがあればすぐかごに入れようとする。


伸ばそうとする手を未然に抑えたり、腕に抱きつかれ、終いにはウルウルとした視線を向けてきたり...泣き落としには勝てず、某カラフルな混ぜる知育菓子を買ってしまった。


けれど他は


「タエ子さんの鮎、少なくするぞ」


と言ったら諦めてくれた。


多分瑞月は自分がマーガリンでやらかした事は忘れているのだろう...


(はぁ、本当は好きなもの食べさせてあげたいけどお金の使い過ぎはよくないし。まあこれでマーガリンのことはチャラにしておこうか...)




本日の出費 約3500円

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神様拾いました @aransumishi

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