神様拾いました

@aransumishi

第1話私は神様。そんな気がする

2024年6月22日


深夜0時すぎ、岐阜県郡上市美並町の国道を原付で走る一人の学生がいた。

六月終盤の夜風を体に受け、少しの寒さを覚えながら八幡町を目指していた。頭上の高速道路を過ぎてコンビニが見えてきたころ、右手に見える日本中心中央センターに不思議な光が見えた。それは街灯よりは弱く優しい光であったが妙に目を引き離さない。

「こんな時間になんだ?特にイベントがある時期でもないのに」

妙に気になって仕方ないのでそちらに向かおうと心の中で決めた。

郡上は人口が少なく0時すぎともなればほぼ交通がない。そのためスピードを出していた彼は中央センターに本来より早く到達した。

適当な場所に原付を止めて未だ光を放つそれの場所へと歩を進める。

(人の声などは一切ない。イベントではないならこの光はただの街灯か何かかな。まさかUFOなんてことはないだろ)

そうしてついにそれが視界に入ってきた。

その正体は白い大きな外壁にもたれかかって寝ている少女だったのだ。少女は鮮やかな紫交じりの漆黒の髪で、顔のパーツは本当に人であるのか疑いたくなるほど洗練され綺麗だった。けれども大人っぽさはなく幼さすらも感じる。それはきっと彼女の背が低くやせており不必要な脂肪がぱっと見見当たらないからだろう。彼女だけでいくつか詩を読めそうなくらいだ。彼にそこまでの文才はなかったが。

(なんでこんなところに女の子がいるんだ?しかもこの子を中心に光がともっている。なのに周りに照明器具の類は一切ない...もしかしてコレ本当はなかなかにやばい心霊系の’’何か’’だったりする?)

彼は葛藤していた。内心はこの日現実的な状況に恐怖を覚えているが、この子が本当に普通の人間ならこんまま放置していいのだろうか?いや、人間に普通じゃないことはないか...と思い至った。

彼はゆっくりと少女に歩み寄って声をかけた

「こんばんは」

その時すっと周りの光が消え、夜の闇が返還された。

光を失い視力が一時的に落ち、やっと見えるようになったとき少女は立ち上がり無表情ながらも彼をじっと見つめていた。彼は今までに受けたことのない純粋な視線に少しだけ戸惑いながらも再び声をかける。

「こんばんは」

少女はきょろきょろと周りを見てから返答する。

「こんばんは」

その声は純粋で透き通るような声だった。あまり大きな声ではないがしっかりと聞き取れる綺麗な発音だった。ビジュと声の良さに驚きつつも次の言葉を紡ぐ。

「えぇっと君の名前を教えてくれないかな?こんな夜中に移動してこんなところにいるの?」

それは子供をあやすような優しい言葉だった。それは彼が少女にどう接するべきか考えた結果だ。

「わからない」

じっと目を見ながら少女は答えた

「ここがどこかってこと?」

「名前と何でここにいるのか。ここがどこかってのも分からない」

彼は絶句した。日頃の行いを振り返った。

(これは一体何の天罰だよ...変な光を見に来たら怪奇現象みたいなことが起きて、出会った少女は記憶喪失か電波か。確かに何かを期待してたけど本当に起こるなんて思わないじゃん)

はぁとため息がこぼれた。けれど彼はこの子をこのまま放置してはいけないと感じた。

「それじゃあ色々教えてあげる。まず俺は前沢悠斗(まえざわ ゆうと)よろしく」

「うん、よろしく」

「ここは岐阜県の郡上市美並町。この建物は日本中心中央センターってところ。ここまでできになることはあるか?」

少女は首を振る。

「ないよ」

「...」

「...」

なんか不思議な子だなと気まずい沈黙の中で思う。

「どうしたの?」

少女が沈黙を破り近づいてきた。

(どうしたも何も会話のキャッチボールができてないから仕方ないだろ...)

「いや、なんでもない。ところで君のことはなんて呼べばいいの?」

「君が私じゃないの?」

「そうじゃなくて名前、あるでしょ?」

そこで少女は少し黙り込んだ。

「名前、わからない。ゆうとの好きなように呼んで」

「そんなこと言ったら今の君は幽霊か記憶喪失の子かそんな感じにしか言えないけど...」

「幽霊に少し近い気がする。私はたぶん記憶喪失だよ。私は何も思い出せないから」

(幽霊に近いってなんだよ...)

「幽霊に近い?仏様とか?」

「仏様...さっきよりも近い気がする!」

「それじゃあ神様?」

少女の中でしっくりきたようでうなずく

「そう、私は神様。そんな気がする」

「...」

「...」

神様は首を傾げ、悠斗は頭を抱えた。

「信じてないの?」

「信じてないというか何というか...」

神様はじっと悠斗の目を見つめる。じっと見つめる。見つめる。

高校二年生の男子が美少女に見つめれて敵うはずもなく、目をそらしてしまった。

「あ~もう。分かった。分かったよ神様...それでこれからどうするの?俺は警察に行くべきだと思うけど」

神様は少し考えるような仕草をしたのち告げた。

「警察に行っても何もならない。私は貴方についてって見たい。色々教えてくれるんでしょ?」

(そういうことじゃ...)

「わかった」

頭の中では否定することを考えていた。けれど実際にはするりと肯定の言葉を述べていた。それは彼の高校生でありながらも一人暮らしという環境故か、はたまた美少女のおねだりのせいか、それとも別の何かか...それは悠斗にもわからない。

「これは誘拐じゃなくて保護だから...うん」


神様の体温を感じながら原付を走らせ2,30分(法律的に二人乗りはアウトなのでマネしてはいけません)。市役所の前で家から最寄りのコンビニについた。

「よし一旦降りていいぞ」

うん、とつぶやくと神様は悠斗の腰に回していた腕をほどきなれない動作で降りた。

「とりあえず軽食と神様の服を買おうか。今着てる一着しかないでしょ?」

「そうだね、いまはこれだけ」

「最近のコンビニエンスウェアは質が高いからな。明日本格的な服を買いに行くから今日はいったん我慢してくれ」

「特にこだわりはないしいいよ。それに私はもらう側だし」

前沢は神様が少し微笑んだ気がした。

話はここまでにして置き、やけに重たいドアを開き中に入る。店にはいつも夜勤で働いているお兄さんがいた。今はレジ締め作業をしているようだった。

「ばんはーっす」

悠斗は常連なのでいつも通り挨拶をする。

「ばんはー?」

神様もとりあえず悠斗をまねしたらしい。真顔の美少女から腑抜けたような挨拶が飛び出るのは少しシュールである。

「らっしゃいませー」

いつも通りの朝札がかえってくる。けれどこっちを見て少しぎょっとしている。

「その子は?もしかして彼女できたの?」

夜勤のお兄さんこと大野さんはにやにやしているのが隠しきれていない。

悠斗はよく夜中にこのコンビニに行く。そのため週五で夜勤の大野とはそれなりに話す中となっていた。だからこそ悠斗が女を連れてくることはないと思い込んでいた大野は、内心かなりの衝撃をうけていた。

「まさか。彼女じゃないっすよ。親戚の子が少し事情があってこっちで預かることになったんすよ」

「全然似てる感じじゃないけどほんとか?」

そう言って軽くわらう。大野は本気で信じているようじゃなさそうだったが、それ以上追及することもなかった。

その時神様はというと興味深そうに店内を散策していた。

(こいつもし仮に本当に神様だったとしてそれでいいのか。連れてきたのは俺だが自称神様がコンビニ...仮に神様を名乗るならコンビニを興味津々で散策するなよ...)

内心は否定しているが、悠斗は楽しそうな神様を見てまんざらでもないと感じている。本人はそれに気づいていないだろうが。

「何か気になるものはあったか?」

神様は出入り口付近の新聞を指さした。

「これかな。こんなのをよく知ってるような気がする」

(新聞は確か一冊200円程度だっけ。一冊くらいいいかな)

「その中から一つ選んで買おうか。一冊くらいならそこまで値は張らないから」

「ありがとう。それと服はこれでお願いね」

値段を確認し暗算する。無事に足りることを確認し、追加でおにぎり数個と冷凍食品をかごに入れレジで会計を済ませた。

コンビニを出てから再度原付で約一分程度、街中の自宅に辿り着いた。それなりに古めの家を借りている為、悠斗の家も八幡町の歴史的街並みを構成する一軒である。

悠斗は家についたらそのままガラガラとやけに音のなる玄関を開けた。田舎すぎて鍵なんかかけていないのである。かけるべきなのは本人も分かっているがめんどくさく、泥棒もほとんどないのでかけていないのだ。

二人で家に入り、神様を居間に案内した。

悠斗はショルダーバックを適当に投げ捨ててから座り、神様も机の前に座った。

「腹も減ったしさっき買ったの食べるか。その後風呂入って今日は寝るぞ」

「うん。分かった」

そうして黙々とレジ袋から買ったものを取り出す。

悠斗はおにぎり(梅とシーチキンマヨ)とレジ横のチキン。

神様はクッキークリームサンドとフルーツサンド、普通のサラダ(ゴマドレ)にチョコクロワッサンだった。

「いただきます」

続いて神様も「いただきます」と言い食べ始めた。

神様はとても味が気に入ったらしく、今日見た中で一番の笑顔だった。その顔を見ていれば約千円くらい神様の食費を払った悠斗も思わず笑みがこぼれてしまった。

(これだけうまそうに食べてくれるとこっちもいい気分だな。にしても食べるの速くね?)

実際神様は食べるのがとても速かった。悠斗がおにぎり一個と半分くらい食べたころ、神様はすでに食べ終わっていた。

(おいしかったからつい早く食べちゃった。どうしよう...そういえばさっきゆうとはこっちをじっと見てたしそういうものなのかな?)

とくにすることのない神様はじーっと悠斗を凝視した。

言うまでもなく、悠斗にとってここ最近で最も気まずい食事となった。

空気に耐えかねた悠斗が神様に質問をした。

「そういえば神様はなんて呼べばいい?神様って言い続けるのもなんか嫌だし...」

「好きに呼べばいいよ」

結局視線からは逃れられなかった悠斗は顔をしかめた。

「名前だよ。適当に名乗ればいいだろ?」

「そんなこと言われても私名前知らない」

神様は考え込み、視線がすこしあがる。

「どんな名前がいいかな。教えてくれる?」

悠斗はうなずき、検索サイトで「女の子 名前」と調べ適当なサイトを映して手渡した。

「とりあえずその中から気に入ったのでいいんじゃね?指で触れば動く」

「うん、分かった」

そうして神様は慣れない手つきでスマホを弄っていた。

数分後、チキンまで食べ終わった頃に神様の顔が上がった。

「私、これがいい」

その画面が映していた名前は

「瑞月」

悠斗はふっと微笑んだ。

「みずき、いいじゃん。苗字はまあ俺と同じ前沢でいいか。他のがいいなら考えてもいいけど」

神様こと瑞月は首を振った。

「前沢でいいよ。私、前沢瑞月」

「うん、よろしく。瑞月」

「よろしく、悠斗」

二人は少し見つめ合った後フッと笑った。

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