直ぐに忘れる
メモをとるのが苦手だが、私はメモ帳を手放すことが出来なかった。
常にメモ帳を手にする私の姿を不思議そうに見ている先輩達もいたし、実際に、
「これはメモを取るほどでもないよ、直ぐに覚えられるよ」
と言われたが、私は自覚していたのだ。自分が耳から入ってきた情報を直ぐに忘れるということを……。
数分前に聞いたことを直ぐに忘れるのはざら。だけど文字等の視覚情報は頭に残り易いので、必死に苦手なメモをとるしかなかった。
だがしかし、忙しかったりしてどうしてもメモがとれない場面が生じる。すると案の定、私は、
「すみません、覚えてないです」
と口にすることが多くなるのだが……果たして私は聞いたのに忘れたのか、そもそも最初から聞き取れていないのか、そのどちらなのか分からなかった。
思えば私は昔から現在に至るまで、患者として病院へ行った時なども、医師の話す診断や所見を家までちゃんと覚えて帰って来られたことは一度もなかった。
家族に、
「先生はなんて言ったの?」
と聞かれるのが苦痛過ぎて、
「覚えてない。そんなに気になるならついて来ればいい。ついて来れないなら聞かないで。命に関わらないのは確かだから、それでいいでしょ」
とむちゃくちゃなことを答えるしか出来なかった。
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