第23話


「まるで迷宮ですね……これでは地下水湖にたどり着くのに、時間がかかりそうですね――」

「タイムリミットは午後七時でしょ。まだ時間はあるし、地図を取りながら進めば何とかなるよ。私、遊園地の迷宮とか好きでよくやるんだ」

 結愛はエスカレーターの近くにあった、パンフレットスタンドからデパートの地図が載っているパンフレットを取り、蓮と美咲に渡した。

「筆記用具持ってる? 私のペン使う?」

 蓮と美咲は結愛からペンを借り、地図にエスカレーター前の地形を書き込んだ。

「どの道に進みますか?」

「左手の法則を使ってみようよ」

 結愛の提案で左の道から進むことにした。通路は横幅が、一メートル五十ほどだ。三分ほど歩いて通路の先にたどり着いた。

 そこは、壁と地面が岩で、横幅十センチほどの、小さな川が大きく曲がりながら、流れていた。上を見れば、高さ三メートルほどの天井からは、無数のつららがぶら下がっていた。

「鍾乳洞ですね。とても神秘的ですね」

「足場が悪いから気を付けてね」

「出口はどこでしょうか……見通しは悪くないですけど、先が暗くて見えませんね」

 三人はバラバラに、鍾乳洞を探索した。探索の結果、出口を二つ見つけた。

 地図に鍾乳洞を書き込むと左側の出口から出た。鍾乳洞の出口の先は、鍾乳洞に入って来た道と同じ、デパートの壁に囲まれた通路だった。

「通路が全く同じだね。どの通路も同じなのかな? 地図がないと絶対に迷っちゃうね」

「そうですね。しかし、この状況では……生前者と出会うことは難しそうですね――」

 蓮は、美咲の言うとおりだと思った。地下二階の経験からも、水辺のある自然の地形ほど、小さい鮫に襲われる可能性が高そうだった。地下三階は、特に自然の地形が多そうだ。鮫の玉を持ってない人が生き残るの可能性は低そうだ。

 それは拓也の生存が絶望的な事でもあった。拓也と美咲は鮫神に不敬をはたらいたため、鮫の協力を得られない。美咲の頭の中ではそのことを考えているかもしれない、蓮は口に出さずとも美咲の声色からそのことを感じ取った。

 通路を抜けた先は、狭い部屋のような空間で、エレベーターの扉が壁にあった。他は二つの通路があるだけだった。

「変なの、エレベータの近くに扉がなくて、長い通路があるだけなんて。こんなとこにエレベーターある意味ないじゃん」

「地図を見ると、元の地形では、エレベーターはエスカレーターから、離れたところにあります。元の地形の間に、別の地形が挟まれているわけではないようですね。……目的地にたどり着くには虱潰しに歩くしかなさそうですね」

「デパートのエリアは広くはないでしょうけど、通路や自然の地形は広いかもしれません。想定より地下三階の探索は時間がかかりそうですね」

 三人は地図に地形を書き込むと、エレベーターの正面の通路を進むことにした。通路は何も変わりがなく、まるで夢の中をさまよっているような感覚になる。一人で進んでいると、時間の感覚すら変になるだろう。

「こんな真っ白で長い通路二度とお目にかからないだろうね。せっかくだからあれやってみたいな、カラースプレー! よくシャッターとかに落書きされているやつ」

「道の目印としては有効かもしれませんね」

「調子乗って変なこと書いて、地下三階が元に戻った時に残ってたら最悪だね」

「うーん、『世界平和』とか書いてたら許してくれるかな?」

 通路を進んでいるとき、結愛はいつも以上に口数多く、しゃべっている。周囲を警戒する必要がないからだろう。変化のない通路を五分も歩き続けると、蓮はあくびが出そうになった。

 通路を抜けると崖が現れた。下から吹き上げる風が、向こう岸との間に、深い谷があることを教えてくれる。蓮は周囲を見渡すと崖と崖との間にある、小さな崖があった。そこには、黒いスーツを着た男が椅子に座ってこちらを見ていた。薄暗く、距離はあるが、手には玉を持っているように見える。

「美咲さん、彼に見覚えはありますか?」

「……ええ、兄の部下です。顔はよく見えませんが、風貌に覚えがあります」

 男との距離は二十メートル以上離れている、蓮の玉はまだ光ってはいなかった。崖の下に鮫を忍ばせて、近づいてくれば、玉が光るはずだ。まだ、鮫は出していないのだろうか。蓮は崖に近づかず、ゆっくりと男に向かって行く。

 男は蓮が自分に近づいてくる意思を確認すると、手に持っていた玉から鮫を出した。正面から見ると特徴のない鮫だが、よく見ると尾びれが上に長く伸びている。

「オナガザメですね。おそらく、長い尾びれが武器なのでしょう」

「ノコギリザメと比べれば、たいしたことなさそうだけど――」

 蓮はオナガザメに反応して、ホホジロザメを玉から出した。ノコギリザメをホホジロザメは喰っていないため、姿はノコギリザメと、戦った時と変わってはいない。ノコギリザメと戦った時の傷も治っていた。

 蓮はホホジロザメをオナガザメに向けて飛ばした。尾びれの長さを利用した攻撃をしてくるなら、接近するべきだ。ホホジロザメの角はノコギリを受け止められた、オナガザメの尾びれで反撃されても、角で受け止めることができるだろう。

 オナガザメの尾びれがピカピカと光り、横に傾き始めた、尾びれをホホジロザメに横から突き立てようとしているのだろうか。蓮はホホジロザメを崖下からオナガザメに近づけた。尾びれを横に倒したなら、下への攻撃は強力なものにはならないだろうと、考えたからだ。しかし、蓮の予想と違い、オナガザメの尾びれは、横に向いてから止まることなく、下に向けて動き続けた。ホホジロザメがオナガザメの目の前に迫ると、オナガザメの尾びれが下に向いた。

 下を向いた尾びれの攻撃範囲は、狭いように見える、横から角で体当たりすれば勝てそうだ。蓮はホホジロザメに、オナガザメの横に、回り込むように指示を出した。

 しかし、ホホジロザメは蓮の指示に従わず、体を反転すると、蓮に向かって飛んできた。蓮はホホジロザメの異変に驚いた。

「止まれ!」

 ホホジロザメは蓮の声にも反応しない。目の前にホホジロザメが迫ってくると、蓮は玉にホホジロザメを戻せと念じた。蓮の目前まで迫っていたホホジロザメの体は崩れ、光となって玉に戻った。ホホジロザメの姿が消えると、その後ろに隠れるように近づいてきた、オナガザメが蓮に向かって突進してきた。蓮は慌てて逃げようとしたが、間に合わず、オナガザメの頭が蓮の腹にぶつかった。蓮は吹っ飛ばされて、離れて見守っていた、結愛と美咲の前に落ちた。

「蓮! 大丈夫!」

 落下の際に蓮は受け身が取れず、頭から地面にたたきつけられたので、意識を失ってしまった。

「気を失っています! 蓮君を蓮れて逃げましょう!」

 美咲は蓮の肩に担ぎ、運ぼうとした。そこに、オナガザメが迫って来た。結愛は美咲の反対側から、蓮を肩に担ごうとしたが、オナガザメが近づいてくるのを見て、ポケットから玉を取り出し、ラブカを出した。

 オナガザメはラブカを見ると動きを止め、威嚇した。ラブカは宙から地面に降り立ち、蛇のように地面を這いながら、オナガザメの真下に入り込もうとした。すると、オナガザメの体が崩れ、光となって男の玉に戻っていった。

「諦めたのかな……今のうちに逃げよう」

 結愛と美咲は蓮を両側から担いで、その場から逃げ去った。鍾乳洞にたどり着くと、蓮を下ろして、話し合った。

「蓮、目を覚まさないね。……どうしようか」

「そうですね……頭から出血はしていませんが、中までは分かりません。たぶん、命に別状はないと思いますけど。しかし、数日間目を覚まさない可能性もあります」

「それって、儀式が終わるまでに間に合わないじゃん」

「……ええ、まだ私たちは玉を五個しか手に入れていません。残り時間を考えると、蓮君の目が覚めるまで待ってはいられません。一旦、地下二階のエステサロンに戻り、蓮君を置いて、私たちだけで地下三階の玉を回収しましょう」

「……エステサロンまで、蓮を担ぐの大変だね」

「地下三階の探索が進んでいれば、安全な場所を発見できていたでしょうけどね」

 結愛と美咲は蓮を担いで、エステサロンに向かった。道中、変化はなく、無事にエステサロンに戻れた。

「入り口付近だと、鮫に見つかるかもしれません。奥の部屋に運びましょう」

 昨夜、結愛と美咲が眠った部屋に蓮を運び、ベッドに寝かせると結愛と美咲は額の汗をぬぐった。

「蓮、大丈夫かな……」

「心配ですが、私たちは地下三階の玉を回収しないといけません。蓮君はここにいてもらいましょう」

 美咲は腕時計を見た、時刻は九時になっていた。朝ここから出て、一時間以上が過ぎていた。にもかかわらず、地下三階の地図はエスカレーター前とエレベーター前しか確認できてなかった。このままではタイムリミットの午後七時になってしまう。美咲は焦った。

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