第7話 ドゴォンと変身!



 「準備はいいかい?」

 「は、はい…」


 麗花ちゃんをなんとか立ち上がらせる。魔法少女に変身するため、準備をしなければならない。


 「本当にするんですか…。私は知りませんよ、どうなっても!」


 妖精がぶーぶーまだ文句を言っている。


 「俺は決めたんだよ。この娘はさせる。さあ今から始めんぞ、妖精ぃ!」

 

 俺は妖精の方に目をやり、顎で示した。


 「……これは賭けですよ」


 妖精はため息を吐き、嫌々ながらも自分の胸に手を当てた。すると、胸からぱあっと薄紫色の光が漏れ出した。



 これは人間に魔力を与える一連のプロセスだ。



 妖精と麗花ちゃんの周りにまばゆい光が蝶のように集まり、二人を覆った。そして数秒後、光がぱあっと晴れたかと思えば、二人が現れた。



 「…これが私っすか?」



 彼女はキラキラとした光を纏いながら、魔法少女へと変貌していた。


 変身したんだ。


 長いウェーブのかかった髪のてっぺんに桃色のリボンを付け、大きく広がった白いドレスが特徴的。青っぽい模様も彩られ、手には白のグローブ、足元も同系色のシューズを履いている。


 スカートにもかわいらしいフリルが付いてあり、白と青を基調としたカラーで、青空のような爽やかさを印象付けた。


 「…え、マジ?」


 彼女の隣で、呆然とした表情の妖精が立っていた。


 彼女が変身できたことに驚いているらしい。


 「な? 変身できただろ」

 「いや、でもそれだけでは足りません。魔法少女の真髄はここから!」


 それもそうだな。


 「えー! ちょっとこんな、私って二十歳過ぎですよー? 社会人経験もあるし、もうこんなの少しキツくないっすかー、やだもー!」


 と言う割にはノリノリだ。


 鏡の前で、麗花ちゃんは照れながらもふりふりと踊っている。笑顔を隠すことができていない。


 女性にとってかわいい格好をするのは、幾つになっても嬉しいものなのだろう。


 元気になってくれて良かった。こっちも嬉しい。


 「君は今から魔法少女だ」

 「北条さん」

 「気を引き締めていけよ。今からこの先に出たという魔獣を討伐しに行って貰う!」

 「はい!!」


 衣装をヒラヒラさせながら、麗花ちゃんは窓から飛び出していった。


 「音のする方へ向かいます!」


 俺たちも後を追うことにした。



 



 *

 




 エビのような外見をした魔獣が住宅街を壊している。コンクリの壁や地面を発泡スチロールのように軽く潰し、瓦礫の山を築いていた。


 

 「うわーたすけてー!」



 住民はほとんど逃げ出してたが、その中に子供が一人いた。泣きわめき、逃げ惑っている。その声に反応してか、エビ魔獣は子供をギョロリと見つめ、狙いを定めた。


 その血走った眼球に驚いた子供は、腰が抜けてしまい、その場で動けなくなっていた。


 「たっ、たすけ…」


 魔獣は自身の持つハサミを振り上げようとした、その時──


 「待ていっ!!」


 瓦礫の中を、女の声が響いた。


 魔獣と子供の目に映っていたのは、謎にポーズを決めている魔法少女の姿。


 「神妙に縛につけ!! いやこれは違うか。魔法少女が来たわ! 魔法少女の登場シーンってどんなのがいいんだろう。うーん悩ましい…」

 「うわあああああん」


 子供が泣きながら、麗花ちゃんのそばに寄ってくる。


 「もう大丈夫だよ。向こうに逃げて。後はお姉ちゃんがやるから」

 「あ、ありがとう…。コスプレのお姉ちゃん」

 「一言余計~」


 なんとか子供をこの場から逃がした。

 そして振り向き、魔獣を見る。


 「あんな幼い子までヤるなんて許せない…。今から退治するっすよ! 見てろよ魔獣! この若草麗花さまが…」


 「ちょっと待ったあ!」


 妖精の横やりが入る。


 「本名はNGですよ!」

 「うわ、なにこのトカゲ」


 同じ魔法を共有しているので、彼女は妖精が見えている。

 

 「あなたのサポートをする相棒です。いやそんなことより、本名は名乗ってはいけませんよ」

 「そうなんだ」

 「名乗るなら、自分の魔法少女名を名乗る必要があるんです」

 「名前……」

 「魔法少女が名乗ってるでしょ。ブラックとかプリンセスとか、カタカナっぽい洒落た名前。自分に合った名前を付ければいいんです」

 「なるほど」


 麗花は顎に手を当て考え込んでいると、痺れを切らしたのか、魔獣が暴れだした。


 「魔獣が動き出した。お、お願いしますよ、魔法少女!」

 「オーケーっすよ。私の力を見せてやりまっす!」

 「おお…」

 「期待しておいて、トカゲちゃん!」

 「おお…!」 


 声を張り上げた麗花は拳を魔獣に向け、身を翻して格好よく飛び込んだ。魔獣の目前まで、一気に距離を詰めると



 「いきますよー! これが私の攻撃!」



 拳を振り上げ、勢いよく繰り出した。


 魔獣にクリティカルヒット。確かに彼女の拳は届いた。



 ──だったのだが



 「あれ?」

 「おお…!?」


 なんと麗花のパンチは全く効いていなかった。

 魔獣にとっては蚊に刺されたようなもので、微力なダメージしか与えられなかった様だ。


 「やば」


  

 ドゴォン!



 魔獣の巨大なハサミが無慈悲に振り下ろされた。彼女は身を守る暇もなく、腹部を深々とえぐられ、轟音とともに彼方へと叩き飛ばされた。


 








 









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