第12話 チュートリアル2


「それでは改めて〈魔技マギの首飾り〉の説明をするでござる。首飾りにはには四つの穴が空いているでござろう?」


「はい。正三角形を描くようにビー玉サイズの穴が三つ、中央に大きめな穴が一つ空いてます」

「まず周り三つの穴が〈魔技〉用の穴でござる。〈魔技〉はゲームで言うところの技と魔法をセットするところでござるな。〈魔技〉の効果を拡張、強化する補助系もあるんで考慮してくだされ」

「はい」


「そして中央の穴が〈ギア〉用の穴でござる。ゲームで言うところの装備用の穴でござるな」

「装備用って……武器とか防具のですよね? 一つだけですか?」


「そうでござる。その代わり〈ギア〉はダンジョン側がエネルギーを供給してくれるんでかなり強力でござるよ」

「――役割ロールのようなもの、ですかね? でもアシストは半分しかもらえないのにタンクやヒーラーをやりたがる人はいるんでしょうか?」

「そこを補うための『トリックキル』でござろうな。『トリックキル』の発生条件は武器か攻撃系スキルで倒すこと。シールドで殴ったりアンデッドを回復して倒せれば条件を満たせるはずでござる」

「なるほど!」


「他にも体力回復効果のついた指輪やステータス強化の宝珠なんてのもあるんで武器以外の選択肢も十分ありでござるよ」

「ステータス――そういえばレベルはあるんでしょうか?」

「確認した限りではレベルや熟練度のようなものはないでござるな。なので強くなるにはより強い装備に乗り換えていく必要があるでござるな」

「となるとステータス強化もありですね。コマンドは――〈ステータス〉表示、でしょうか?」

 愛音がボイスコマンドを発するとステータスウィンドウが表示される。

「――んんんん?」

「どうしたんでござるか?」

「いえ、ステータスがゼロばっかりで……。これって普通なんでしょうか?」

「見てもいいでござるか?」

「どうぞ」

 首を傾げる愛音はステータスウィンドウを紙のように掴んで反転させる。

 あくまで電子的なものだと思っていた倉之助は目を丸くしながらもウィンドウに注目する。


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プレイヤー名:甘神愛音あまがみあいね

基礎ステータス

 筋力:0  頑健:0  敏捷:0

 知力:0  精神:0  魅力:3

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(『0』が目立つ、が愛音の運動能力は低くない。少なくとも『0』じゃない)

 愛音は引きこもり期間が一年近くあるがここ一ヶ月でだいぶ動けるようになった。


 それなのに『0』。


 ならば『0』はではなくと考えるのが妥当だろう。

「――ふむ」

「なにかわかりましたか?」

「おそらくこの数字は最終的な値ではなく強化値でござろう」

「強化値、ですか?」

「うむ。愛音殿のステータスは〈魅力〉以外が0だが問題が有るようには見えん。ならば上乗せでござろう」

「なるほど……では3という数字はどうなんでしょう?」

「おそらくキャップかリミットでござろう」

 倉之助はそう言うと自らのステータスも表示させて『やはり……』とつぶやくと愛音に見せた。


////////////////////////////////////////////////////////////////

プレイヤー名:大鯨倉之助たいげいくらのすけ

基礎ステータス

 筋力:3  頑健:3  敏捷:3

 知力:3  精神:3  魅力:3

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「見ての通り数字がきれいに横並び。普通に考えればあり得ないでござろう。と、なれば『3が限界キャップ』の可能性が高いでござるな」

「そうですけど、え? だとしたらコーチのステータスはカンストってことですか? すご……」


「あまり気にしない方が良いでござるよ。こんな太鼓腹なのに魅力が3になってる時点で信頼できないでござるからな」

「何を言ってるんですか! コーチのお腹の曲線は芸術的ですよ! ずっと抱きついていたいぐらい心地良いですし!」

「そいつはどうも。まぁ〈ステータス〉の検証もしたいがそれは余裕ができてからでござろうな。それでは本題に戻ろう。最後が〈ショップ〉でござるな。ボイスコマンドを」

「〈ショップ〉!」

 愛音が元気よくボイスコマンドを口にするとウィンドウが現れる。


「見ての通り品揃えはかなりいい。食料は1ポイントのレーションから10ポイントのお弁当まで種類も豊富。他にも〈ギア〉や〈魔技〉、〈マジックアイテム〉から日用品まで売ってるでござる」

「至れり尽くせりですね。でも……こう言ってはなんですが……強力なアイテムはなさそうですね」


 愛音の言う通り〈ギア〉は水の剣や水の刀といった物があるが補正値は【攻撃力+1】と高いのか低いのかわからないものであり〈魔技〉は単発の水弾を撃つ〈ウォーターバレット〉や触れた相手をを癒す〈ヒーリング〉といった最低限といったラインナップだ。


「まぁ、まだ始まったばかりだからか、あくまでスタートの手助けだからでござろう。より強力なものは〈カタログ〉からしか手に入らぬのかもしれぬ。ダンマスがと言っていたのはそのへんが理由でござろう」

「そうですね。……って、あれ、〈ヒールポーション〉がありますよ? ダンジョンマスターはなんでこっちを教えてくれなかったんでしょうか?」

「おそらくルールに抵触するんでござろう。だから〈カタログ〉の使用方法というていで教えてくれたのかもしれん。でなければダンジョンマスターに最適解を教えてもらいながらプレイできるでござるからな」

「そういえばそうですね」


「そして最後に注意事項。この〈ゲーム〉はPvEプレイヤーバーサスエネミー――つまり敵はモンスターでござる。なので〈プレイヤー〉に対する攻撃は禁止。攻撃に対する反撃はありだが殺人はルール違反。窃盗強奪なんかも禁止で、これは国家権力であろうとも許されないらしい。最悪、国家自体にペナルティが課せられる」

「それって殺されそうになったらダンジョンマスターが助けてくれるんでしょうか?」

「そこまでは無理でござろう。ダンジョンマスターが『運営側が〈プレイヤー〉に直接手出しするのはルール違反』と言っておったしな。反撃を許してるのは自分たちで解決しろってことでござろう」

「そうですか……」

 愛音はまだ見ぬ犯罪者を恐れるように自らの両腕を抱く。

 そんな愛音を元気づけるように倉之助はほがらかに笑った。


「大丈夫、おいどんが守るでござるよ。大船に乗ったつもりでいてくだされ」

「コーチ……そう、そうですね! コーチがいれば百人――いえ、千人力です!」

「うむ。なのでまずは人よりモンスターの対策をするでござるよ」

「はい!」


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