第11話 チュートリアル1


「それでは始めるでござる。装備の方針などの相談は後でまとめてするのでそのつもりで」

「はい!」


 倉之助はその場に座り、柴犬パーカーを着た愛音はスタート台に座る。巨漢の倉之助と小柄な愛音はそれで同じ視線となる。


「まず最初に知っておきたいボイスコマンドは〈チュートリアル〉〈ストレージ〉〈ショップ〉の三つ。疑問があればその都度聞いてくだされ。できる限り答えるでござる」

「分かりました!」


「よろしい。まずは〈チュートリアル〉だがこれはゲームの導入と説明でござるな。簡単に説明すると〈遊戯神サイ〉と名乗る神性存在が地球人とゲームをしに来た。ラスボスを倒せれば手に入れた能力とアイテムは地球人の全取り、負ければ没収されるRPGのようなものでござる」

「オーソドックスですね。そういえばTRPGを参考にしたって言ってましたけど、ラスボスはすでにいるんでしょうか?」

「不明でござる。まぁ順当に考えれば特殊なフラグを立てたらラストダンジョンが現れて、という感じでござろう。愛音殿も暇な時に目を通しておいてくだされ」

「はい!」


「うむ。では次は〈ストレージ〉でござるな。ボイスコマンドを」

「〈ストレージ〉!」


 愛音がボイスコマンドを発すると、眼前にロッカーのようなウィンドウが表示される。倉之助と同じく枠は五つ。そのうち二つには金属質の首飾りと銅色に輝く本のアイコンが収められていた。


「機能はダンマスが言ってた盗難防止と食料の腐敗防止もあるが、運営からの贈り物なんかもここに送られるようなので最低一つは開けておいてくだされ」

「開けてなかったらどうなるんですか?」

「目の前に送られるようでござるな」

「……盗まれる可能性があるわけですね」

「そうでござるな。なんらかのペナルティはあるようでござるが、それでも奪う者はいるでござろう。なので貴重品だけ入れて空きを作っておきたいところ」

「でもそうなると最大でも四マスしか使えませんよ? 流石に少なくありませんか?」

「一応〈ショップ〉で枠を購入するか〈カタログ〉で拡張することは可能でござるよ。ただ、今は戦力にリソースを割きたいので後回しがよかろう」

「……そうですね。死んだら意味がないですもんね」


 しんみりする愛音を見て大魔神は活を入れるように声を張る。


「では生き残るための術を知ろう!」

「――はい!」

「〈カタログ〉の使い方はわかるでござるか?」

「聞いていたので大丈夫だと思います」

「ならば先に〈魔技マギの首飾り〉に付いて説明しよう。〈魔技の首飾り〉を選択してくだされ」

「選択しました!」


 愛音の眼の前に〈魔技の首飾り〉が実体化する。

 見た目は古ぼけた金属製のタリスマン。

 お土産屋やネットで売ってるスピリチュアルなアイテムに似ている。


「……なんというかアナログチックですね」

「おいどんは好きでござるよ。とはいえ精度最低、エネルギー効率最低、黒マナ耐性最低ではお話にならん」

「精度とエネルギー効率はなんとなくわかりますけど『黒マナ』ってなんですか?」

「モンスターを構成する主要エネルギーのようでござるな。愛音殿を襲った個体も死んだあとに黒い液体が残ったでござろう?」

「――たしかに墨汁のようなものがあったような……」


「それが〈黒マナ〉でござる。〈プレイヤー〉が浴びればダメージやバッドステータスを受けるし〈アイテム〉にかけると呪われたアイテムになる汚染物質でござる。自然回復はしないようなので極力触れないでくだされ」

「〈エリクサー〉ならどうでしょう?」

「説明文を見る限りは回復できるようでござるな。とはいえ〈ブロンズカタログ〉で三本のみ。ちょい飲みを駆使しても、そう何度も回復はできないので温存するのがマストでござろう」

「それは――すみません。そんな貴重な薬を使っていただいてしまって……」

「一滴程度で気にしないでくだされ。愛音殿が元気になったなら正しい使い道でござるよ」


 シュンとする愛音に倉之助は朗らかに答える。

 いつもの倉之助ならこの後さらに冗談を交えてフォローを入れるところだが時間がない。倉之助は表情を引き締めると次の話題をふる。


「そして愛音殿も察しているようでござるが一応、精度とエネルギー効率についても補足しておこう。〈魔技〉は〈プレイヤー〉の体力や精神力を消費して発動するんでエネルギー効率が低ければ無駄に疲れるし、精度が低ければまっすぐ飛ばしたつもりが斜めに飛んでしまう。黒マナ耐性のことも考えたら早々に買い替えた方が良いでござるな」


「……ゲームとかなら『初期装備でクリア』みたいな実績解除が狙えそうですけど命がかかってますし実績システム自体があるか不明ですからね」

「実績システムはあるでござるよ」

「あるんですか!?」

「うむ。これは〈チュートリアル〉にのっていないボイスコマンドでござるが〈ログ〉を表示、とボイスコマンドしてくだされ」

「〈ログ〉を表示」


 愛音がそう言うと新たなウインドウが表示される。

「初期資金が【ダンジョンスタート特典】で3,000ポイント、【不運な遭遇】で1,000ポイント、【不運な遭遇からの生還】で1,000ポイント、【アシストキル】が……たったの5ポイント?」


「まぁ、ペットボトルの水をかけて倒せるようなモンスターなら仕方ないでござろうな。ちなみにおいどんには【モンスターキル】で10ポイント入っているでござる」

「ラストアタック総取りで他はアシストで半分、ってことですか? となると序盤は節約しないと……って、それなら余計にこのパーカーはだめじゃないですか!」

 慌てて脱ごうとする愛音だが、大魔神は押し留める。


「フッフッフ、実はおいどん、ユニークな実績を解除しているんでござるよ。その名も【最速討伐世界4位】でござる!」

「最速討伐? あ、さっきの!」


「その通り! ぶっちゃけあれで一位じゃないのはビビるがそれでも四位! ボーナスとして70,000ポイントも手に入れたでござる! おまけに武器や攻撃スキル以外で倒すと討伐報酬が二倍になる『トリックキル』で追加で10ポイント! つまりたった一体倒しただけで70,020ポイント入ったんでござる! さらに愛音殿も手に入れた【ダンジョンスタート特典】などを諸々を合わせると、なんと80,000ポイントを超えるでござるッッッ!」

「すっごいッ! すっごいですよコーチ!」


 愛音は感激で目を見開くが、倉之助は肩を落とす。


「とはいえ愛音殿と京太郎殿が作ったスキをついたに過ぎん。横取りみたいで申し訳なくてな……」

「横取りじゃありませんよ! あの状況でわたしたちが倒すのなんて不可能ですよ! コーチだからできたんです! だから気に病む必要はありませんよ!」

「……そう言ってもらえると助かる。まぁそういうわけでポイントには困っておらんのでパーカーは受け取ってくだされ。愛音殿が着たパーカーを返されてもおいどんが着るわけにもいかんしな」

「そういうことなら記念にいただきます」


 愛音は花開くように笑顔を浮かべ、倉之助は胸のつっかえが取れてほっとため息を付いた。


「そうしてくだされ。それでは首飾りについて続けるでござるよ」

「はい!」


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