やわらかプリンにご用心

ねむ

やわらかプリンにご用心

 どうやら私の脳はプリンになってしまったらしい。


「はい、だから、プリンです」

 そう言って目の前の医者は脳のスキャン画像を指さした。

「脳のこの部分だけ輪郭がゆるゆるとしているでしょう。これはプリン化現象といいまして、脳にあるぷ」

「いや、待ってくださいよ。」

 脳が?冗談じゃない。私はただ頭痛の原因を解消したくって――

「その頭痛、正直癖になっていたんでしょう?」

「―っ」

 ぎ、と腰腰掛けた椅子が軋む。こうしている間も続く甘い頭痛。小型犬が指先を甘噛みする、その程度の痛み。

 ずきり、ずきり。

 不快で辛い、本来は一刻も早く取り除きたいかんかく、の、はずなのに、

「やはり、そうでしたか。」

 それもこの症状の特徴でしてね。本来脳に痛覚はない。故に通常の頭痛は脳の周辺の器官による影響であったり、他の箇所の痛みが原因だったりするものです。しかしこの「プリン性脳頭痛」は違うんですね、

「あ、あの」

 人間の体内には潜在的に不活性プディングが存在することは生物基礎なんかで習ったことがあると思いますが、この不活性プディングが活性プディングになる際、痛覚を感じる信号を発信するんですね。どうやら活性プディングに変化する際に生成される、カラメルという成分が影響しているのではないかと考えられているのですが、何故痛覚を感じる信号が発信されるのか、そしてそもそもプディングにどんな役割はあるのかまだまだ研究され尽くされておらず――

「あの!」

 ずきり、 

 私の大声に、彼は黄色と茶色のツートンカラーが印象的なその分厚い本を捲る手を止めた。よく見たら後ろの本棚にも同じような装丁の本が並ぶ。

 その色彩があまりに、甘ったるくて。

 ずきりと、あたまが、

「脳がプリンに?全体にぷでぃんぐ?意味が分かりませんよ高校でもそんなこと習ったことありませんし、」

「いーやー、そんなことはないでしょうよっぽど不真面目だったんですか~?まあいいや。」

 その甘い痛みに依存しないように、気を付けてくださいね。お薬出しておきます。

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