第32話 文化祭 占い

 文化祭当日。

 色々準備してきた一年一組の出し物は・・・。


 「これは美味しいでござるぞ諸君」


 円の声が第一声。

 続いて。


 「さあさあ、俺たちのたこ焼きは絶品よ。そこのお兄さん! 彼女とどう!」


 浜辺の陽気な声が第二声。

 さらに続いて。


 「ようこそようこそ・・・・え・・・っと。そこのお嬢さん。どうですか」


 春斗の感情のない声が第三声。

 そして最後が二つの花。


 「俺らの飯。買ってけ。買ってけ」

 「はいはい。あたしも作ってるよ~」


 アルトと香凛の声で、締めくくられると行列が出来上がる。

 これを一定数行えば、間違いなく・・。


 茂野が眼鏡をくいッと上げる。

 屋台の裏でしめしめと微笑んでいる。

 

 「一番になりますね。売上一位は間違いない。どうです鴨君」


 売上計算をしていた。

 接客業は得意な人たちにやらせて、他は援護に回る。


 「うん。いけますよね。たぶん」

 「ですよね。食材は足りますか? 雅君」

 「大丈夫。こっちも計算はしているから」

 「ありがとうございます。ではここからも押し切ります。進みますよ。我々一組は!」


 内政三人衆の影の力を支えに、一年一組は文化祭トップの売り上げを目指した。


 ◇


 慣れない接客に疲れた春斗は、屋台の裏に回る。


 「こ、これは・・・ダンジョンに行ってた方が疲れない!」

 

 そうダンジョンよりもきつかったのだ。

 変わった人間である。


 「にしても、アルトは楽しそうですね」

 

 そういえば、定食屋の息子だと言っていた。

 それが、今回の立ち回りの上手さかと、春斗は感心していた。


 「ええ。笑顔が一番ですね。皆さんも楽しそうで・・・ええ・・・」


 なぜかここで儚げな顔をした春斗。

 そこを気にかけた茂野が近づいた。

 

 「ん。春斗君どうしました? 疲れましたか?」

 「え。いや。多少は疲れましたけど。大丈夫ですよ」

 「ええ。なら良かったですが・・・本当に?」

 「はい」


 と言ってくれても、その表情に憂いがある。

 微かな違いだけど、普段よりも悲しげだ。

 茂野はそう思った。


 「そうですか。春斗君。無理はしないでくださいね。午前の分は作り終えたんですし。もう休んでいてもいいですよ」

 「ええ。大丈夫ですよ。でもとりあえず、休憩に入りますね。一旦校舎にいきます」

 「はい。どうぞ。誰かに聞かれても、休憩だと言っておきますね」

 「お願いします」



 春斗は休憩として校舎に戻った。


 ◇


 NSSの文化祭は学園祭と同じ動きをしているが、文化的な催しがありながらのクラスの出し物もあるのだ。

 本来の展示物なども、校舎の中や第一体育館などに飾ってあって、生徒たちが研究してきたものやダンジョン成果などが展示されている。

 親御さんたちはそれらを見て、子供たちがどのような学習をしているかを見守っているのだ。

 あと、それらとは別に中学生くらいの子らも来ていて、自分たちもここに入るかもしれないと真剣に見学していたりする。


 幅広い年齢層の人が学校の中にいる状態だ。


 「たくさんいますね・・・教室で着替えは・・・無理そうですね」


 周りに人がたくさんいるから邪魔にならないように春斗は移動していた。

 どこに行こうかと行き場を失っているとバッタリ出会う。


 「春斗さん」

 「あ。モモさん。あれ、エプロンですか?」


 ピンクのエプロン姿の桃百と出会った。

 お互い正面に突然現れる形となり、驚いている。


 「ええ。今終わった所でして」

 「終わった?」

 「はい。お料理を全部作ったので。今から着替えをして。休憩にしようと」

 「なるほど。自分と同じですね」

 「春斗さんもですか」

 「はい。そうです。でもこれだと・・・・」


 一学年の教室は親御さんたちなどで溢れている。

 見学場所を探すのに一苦労している人たちが、一旦一階で待機しているので、自由に使えるスペースが無かった。


 「そうですね。着替えは無理そうです」

 「ええ。エプロンくらいを置いてきますかね。自分」


 全部を着替えるのは無理そうだから、エプロンだけを片付けに行こうと思った春斗。

 その意見に彼女も頷いた後。


 「春斗さん。この後休憩ですか」

 「ええ。そうです」

 「私もなんで、一緒に回りませんか」

 「ここをですか」

 「はい」

 「いいですよ。三組にいてください。すぐにいきます」

 「はい!」


 二人は別れた。


 ◇


 合流後。


 「モモさん」

 「はい。春斗さん、いきましょう」

 「ええ。いいですけど。どこへ?」

 「どこでもいいです。いっしょであれば」

 「んんん。とりあえず歩きますか」


 二人が各教室を巡る。

 展示物を見て、研究発表したものを見て、喫茶店に入ったりと、今日は特別なイベントの日だけど、特別に面白いことをするわけでもなく、二人は淡々といつも通りの感じで、仲良く会話をするだけだった。


 その途中。

 占いの館があった。

 三年二組の教室である。


 「占い?」

 「します?」

 「いや。自分よりもモモさんが信じられますか?」

 「う~ん。どうでしょう。そう言われると悩みますね。私、聞こえちゃいますし。占っている人の声が」

 「そうですよね」


 心の声が聞こえるタイプの人間と、そもそも人に対しての警戒心がある人間。

 共に占いとは無縁の二人だ。

 それと二人して感性が似ているから、一緒に入っても楽しめるかが不安だった。

 お互いがお互いを思う結果。

 入る事を躊躇する。


 「まあ。でも記念に入りませんか」

 

 それでも桃百が一歩踏み込んだ。


 「記念ですか。なんのです?」

 「デートの記念です」

 「デート?」

 「は。はい。これデートじゃありませんでしたか?」


 桃百が、俯いて恥ずかしそうに言った。


 「・・・たしかに、まあ。デートと言えばそうですね」


 春斗は淡々と答えた。

 男女でどこかに出かけたらそれはデート。

 アルトが言っていた事を思い出した。


 「じゃあ。一緒にいきましょう。春斗さん」


 桃百が春斗の片腕に抱き着いて、引っ張る形となって、教室に入る事になった。


 ◇


 「ふふふふ。ようこそ・・・どなたかな。お名前どうぞ」


 老婆の格好をした女学生が言った。

 杖を持っているので、本格的な変装をしていた。


 「はい。青井春斗です」

 「成田桃百です」

 

 二人が素直に言うと。


 「おお。良い子たちだね。二人でかい?」

 「ええ。まあ」

 「それじゃあ、奥の間に・・・」


 杖を使って、奥を指差した。

 雰囲気を醸し出すための演出らしい。

 それよりも二人が気になったのは、その恰好的に、あなたが占うんじゃないんですね。

 と思っていた。


 「暗いですね」

 「はい。お化け屋敷ですかね?」

 

 二人は暗闇の中を進む。

 

 「いえ。多分違いますね。お化け屋敷なら人が多いはず」


 そう春斗は気付いている。

 この教室にいるのがたったの四名である事にだ。

 お化け屋敷であれば、最低でも十名以上が必要だろうと、身も蓋もない予想をしている。

 夢のない男だ・・・。


 「こっちかな。あ。暗いので、モモさん。自分の手を」


 一人でいる場所に占い師がいる。

 春斗はそう思った。

 実はこの中には四人いる。

 一人が入口の老婆の格好の人。

 一人が小部屋にいて、二人がその近くに待機している。

 だから、占い師は小部屋だろうと春斗は予測していた。

 音反響はとても便利な技だ。

 部屋の構造と同時に人員配置も読み切ることが出来る。

 

 「あ。はい。お願いします」


 二人は手を握って、目的の場所にまでやって来た。


 ◇


 二人が部屋に到着。

 すると、春斗が声に気付く。

 蝋燭の火で少しだけ明るくなった小部屋には、群青色のカーテンを頭に被っている女の子がいて、でもその子の声ではなくて、その部屋の右の隅にある小さな穴から声が聞こえている。

 おそらく待機部屋だ。

 

 二つの女性の声はヒソヒソと話していた。


 「成功。成功」

 「ウシシシ。今日さ。カップルって初じゃね」

 「うんうん。良い感じで手を繋いできたよ。真っ暗闇迷路作戦。バッチリ決まったね」

 「やっぱりさ。雰囲気って大切だよね」

 「わかるぅ。こういう暗い場所ではさ。男女はこうじゃないと!」

 「恋愛脳ですな悪代官」

 「お主も悪よの・・・莉愛!」


 ここをわざと暗くしているのは、カップルをカップルっぽくするための罠らしい。

 それを隙間から見て楽しんでいる三年二組の生徒が二人いる。


 「そういうことですか」

 「春斗さん?」

 「え。ああ。そうですね。モモさん、占いしますか」

 「はい」


 二人は占い師に近づく。


 「ようこそ・・・座って」

 「「はい」」


 素直に席に座ると、占い師は水晶玉を取り出した。


 「何を占いましょうか」

 「何が出来ますか」

 「何がとは?」

 「あなたが占い師をするという事は、どんなタイプの力でありますか?」

 「ん?」

 

 春斗は、ギフターズ能力から逆算して聞いていた。

 夢のない男である。


 「未来視? 対話者トーカー? 霊視クレアボヤンス?」


 この違いに応じて頼める依頼が決まると、春斗は判断している。


 「な・・・・・何でもいいです・・・占いはしますか?」


 占い師の言葉が定型文に戻った。


 「え。いや。そうなると」


 聞くのは何が良いのかな。

 相手の能力が分からないと、漠然と依頼するのも失礼だろう。

 春斗は馬鹿正直に悩んでいた。


 「占い師さん。ズバリ! 私たちの相性は! 私、知りたいです」


 いつもよりも気合いの入った桃百の声だ。

 普段の大人しい部分を知っているから、信じられない気迫を出しているのが春斗にも伝わった。


 「相性? 自分らのをですか? 聞いてどうするんでしょう」

 「知りたいのです!」


 春斗が驚いている間でも、桃百の表情は真剣。

 顔が強張る。女の子は占いが大好きなのだ!


 「いいですよ。そちらの女性の話を聞きましょう」


 というよりもこの男は駄目だ。

 占い師は、この男と会話してはいけないと決めた!


 「むむむむむ。はあああああ」


 彼女の胡散臭い声が、薄暗い部屋に響くが、春斗には力を感じる。

 精神系の能力者の波動だ。

 春斗は、彼女の何かの能力の波長を読み取った。


 「これは・・・この人・・・」

 「ふん! 出ました。出ました。出ましたよ!」


 一等賞が当たりましたよ。

 みたいな言い方だ。


 「ど。どんなですか!」


 桃百の拳にも力が入る。


 「「どんなのだろう」」

 

 別な部屋で待機している女の子二人も気になっていた。

 他人の占いなのに。


 「相性はズバリ!」

 「はい」

 「バッチリデス! スバラシイ リョウシャノクロスグアイガナイスデス」


 なぜ片言?

 春斗だけが、疑問に思う。


 「ほ、本当ですか」


 普通に返答するんかい。


 「「きゃ、やったね。あのカップル。グッジョブ」」


 そっちも返答するんかい。

 春斗は心の中で思っている。


 「ソウデス。アナタタチハ・・・かなり似た者同士ですね。考えなどに多少の違いがありますが、根本の価値観が同じです。だから喧嘩しても大丈夫。すぐに仲直りします! なので相性は良い方です。ただ・・・こちらの人の気配が見えないので、不安が残りますね」


 途中で流暢に話し出した。

 片言が飽きたのかも。と春斗は思う。


 「こちらの人・・っていうのは春斗さんが見えていないのですか?」

 「はい。この人。私の力でも見通せない。色がないんじゃない。ミエナイノデス」


 春斗は今の発言で分かった。


 「色・・・わかりました。なるほど」


 相手の力を言うのは失礼だと思ったので、春斗は心の中で思う事にした。

 彼女の力は。

 識別信号フルカラー

 である。

 人の気配を色で判断する力。

 相手の相性まで見えるのなら、それはBランクの融合色を見ている可能性がある。

 春斗と桃百の間にある色を見て、相性を判断している。 

 そして、春斗の色が見えないのは、春斗のせい。

 彼の力が膨大だからか。またはそもそも色がないのか。

 または春斗が出しているオーラが色の阻害をしている可能性がある。


 「はい。だから私が、アレンジを加えます。勘も混じりますが、言いましょう・・・う~ん」


 彼女から力を感じなくなった。

 春斗はギフターズの力抜きに、彼女が自分を見ていると感じている。


 「そうですね。この人との相性よりもまず・・・本気で勝ちにいってます?」


 彼女らしい言葉に変わる。

 これは、流暢を超えて、この人本来の話し方だろう。


 「ん? 勝ちに?」

 「ええ。人生、掴み取りに行ってます? あなた。何かを諦めているような気がしますね」

 「自分がですか」

 「そう。自分の心が分からない感じで、逃げを感じますし。あなたの心のどこかに引っ掛かるものがある。それが解消できない限り・・・この子との相性うんぬんよりも。誰とも前に進めない気がします。それを取らねば、あなたは自分の人生を歩めませんよ。誰かの人生を歩んでいきそうです」

 「・・・・」

 「何か困っているのなら、誰かに相談するのもありなんです。あなたはそこを気をつけましょう」

 「・・はい。そうですね」

 「ではお二人は相性はおっけ! ということで。またお会いしましょう」


 占い師は最後に笑顔で手を振った。

 胡散臭い感じは取れない。


 ◇

 

 教室を出て行った後。

 

 「春斗さん。何かあったんですか」

 「いえ。大丈夫です」

 「本当ですか。お顔が・・・」

 「いえいえ。大丈夫ですよ」


 最初からお疲れだった様子なのは分かっていた。

 でも自分と出かければ少しは気が晴れるてくれるのかもと思って、桃百はデートに誘っていた。

 春斗の若干きつそうな様子に気付いていたのだ。


 「やっぱりお疲れなのでは?」

 「まあ。明日が休みです。回復しますから」

 「それは、やっぱり。ご無理をし・・・」

 

 心配の声を掛けようとすると、運命は徐々に動いていく。


 「その人が疲れるなどありえませんよ。そこのピンク。その人は化け物ですから」

 「ん。その声は・・・杏」


 いつも無表情の春斗のその表情が一変した。


 

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