実葛怪異帖

凧カイト

第1話 前書き 

 はじめまして。わたしは、実川さねかわあずみと申します。

 赤いちゃんちゃんこを着たのももう何年前だったか。海も山も近い小さな町の、小さなアパートで一人で暮らしている、なんの変哲もない小さな老女です。

 自慢できるものはなにも持っていないつもりだけれど、一つだけあるとすれば、それは若い頃から趣味で集めている怖い話の数々でしょうか。海の話、山の話、街の話。人の話、幽霊の話、名前もついていないなにかの話。似たようなものから聞いたことのないものまで、あれこれ聞いて回るのが好きだったの。こんなことを言うと、眉をしかめる人もいますけどね。でも、中には面白がってそういう話をわざわざ仕入れてきてくれる友人もいて、そんなこんなで集めて話が、今では書き留めたノートのタワーができるくらい、たまってしまいました。

 あるとき、お勤めで知り合った若い友人にふとその話をしたら、たいそう面白がってくれたんです。ぜひそのノートを読ませてほしいとせがまれたけれど、悪筆を見られるのが嫌だから、わざわざパソコンで打ち直した短い話を、いくつか見せてあげました。

 そうしたらこれがまた、予想外の面白がりようで。なんだか私のほうが恐縮してしまうくらいだったのです。

 その彼女が、これを埋まらせておくにはもったいないと、ぜひ世に出した方がいい、というんですよ。

 世に出すといったって、こんな素人以下の老人が書いた走り書きのようなもの、本になるわけがないじゃないと呆れたら、今は無料で自分の作品を載せられる、インターネットのサイトとやらがあって、準備はみな自分がしてあげる、実川さんは文章を打ち込むだけでいいから、とほだされて。なんだかよくわからないながら、彼女の計画に加担する約束をしてしまったのです。

 ニュースでよく高齢者が騙されてお金を取られる事件をやっていますが、それってこういう感じでよくわからないまま話が進んでいくのかしらと、あとになって空恐ろしく思いました。でも、彼女とは長年の付き合いでご家族とも顔見知りだし、信頼のおける人であることは確かなので、おっかなびっくりではありますが、インターネットの世界にこうやって片足を突っ込んでみたところです。とはいえ仕組みなんてものはまるでわかっちゃいなくて、わたしはノートを清書しているだけ。なにかあったときはすべて彼女任せなのですが。

 というわけで、これを読んでくださっているあなた、もしよろしければ覗いてみませんか。お暇つぶしくらいにはなるかもしれませんよ。実葛ばあさんの、ちょっぴり怖くて不思議な話。

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