ふしぎなコーヒーのかおり

霜月あかり

ふしぎなコーヒーのかおり

ある朝のこと。

ユウくんは、リビングに入ったとたん、ふんわりといい匂いに気づきました。


「ママ、なにしてるの?」

「コーヒーをいれてるのよ」


ポコポコとお湯の音。

ふわ~っと広がる湯気といっしょに、コーヒーの香りが部屋いっぱいに広がりました。


そのとき――ユウくんの目の前が、ぱっとひらけます。


気がつくと、ユウくんは森の小道に立っていました。

道の両側には、背の高いコーヒー豆の木。

枝にはつやつやの豆がたわわに実り、風にゆれると、鈴のようにやさしい音をたてます。


ポロン、と豆がひとつ落ちると、小さな音楽が生まれました。

♪トン、トン、ポロン…

まるで森じゅうの木々が合奏しているみたい。


香りの風にふわりと乗ると、ユウくんは空をすべるように旅をしました。


見えてきたのは、世界の朝ごはんの国々。

パンの国では、カリッと焼けたトーストにバターがとろり。

コーヒーの湯気といっしょに、町じゅうにあまい香りがただよいます。


島の国では、色とりどりのお菓子といっしょに、あたたかいコーヒー。

にこにこと笑う人たちの声が、海風にまじって聞こえてきます。


山の国では、やさしい香りとともに、あつあつのスープと焼きたてのパン。

冷たい朝をあたためるように、みんなでカップを手にしていました。


ちょっぴり苦い香りは、大人たちに「がんばれ」の力を。

ほんのり甘い香りは、子どもたちに「だいじょうぶ」の安心を。


ユウくんは、なんだか心がぽかぽかしてきました。


――ぱちりと目を開けると、ママがカップを持ってにっこりしていました。

「コーヒーってね、忙しい朝をちょっとやさしくしてくれる魔法なの」


ユウくんもにっこり。

「ぼくも、ココアでその魔法つかえるかな?」


ママは笑って、ユウくんのカップにあたたかいココアを注ぎました。

二つの湯気が重なって、リビングはやさしい香りでいっぱいになりました。

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ふしぎなコーヒーのかおり 霜月あかり @shimozuki_akari1121

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