カランコロン

与える方が楽だった。


理由はよく分からない。けど、与えられる側に回ると苦しかった。だから与えてばかりいた。

そうしたら、すっからかんになった。

カランコロンと音がする心臓を抱えながら生きていた。我ながらその音は好きだった。つんざく耳鳴りも自己否定の罵倒も、かき消してくれたから。


おもちゃ。自分はゼンマイ式のおもちゃだった。音を立てて巻き戻っていく力を利用して動くけど、定期的にネジを巻き直さないといけない。そうしないと動けなくなってしまう。

だから定期的に与えてもらわないといけなかった。悔しいが。


与えてもらうものは何でも良かった。物でも、金でも、愛でも。※真偽は問わない。

適当なものを投げてくれれば、あとは動けた。けど、貰った後の反動は酷かった。


立っていられない。ガキのように咽び泣き、涙も鼻水もいっしょくたにして、地面に額をこすり付け、過呼吸を引き起こし、そのまま胃の内容物を吐瀉した。


そうして暫くすれば、段々と諸症状は治まり、また音が鳴り始める。カランコロン。正常に戻りかけた全てを、非正常にして音を鳴らす。そうしてやっと、自分は動ける。


そんな音に惹き寄せられ、次の“何でも”がやってくる。与える方が楽だ。だから、これに与える。そして、次回のネジ巻き担当になってもらう。


これがおもちゃのサイクル。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

死のワンシーン  繭墨紫苑 @Mayuzumi_pen

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ