第4話 外へ出たい気持ち



 次に子供が現れた時、その手には見覚えのある銀の皿が握られていた。



 表情はいつものように乏しいものの、視線は下がり、明らかに沈んでいるのがわかる。石段の最下段も降りきれずにいる姿に、少年は苦笑を浮かべながら声をかけた。



「いいって。この前のが特別だったんだろ? そこ暗いし……こっちに来て食べていいからさ」



 ちょいちょいと手招きすると、ようやく顔を上げて近寄ってくる。檻まで来た子供の唇が、きゅっと噛み締められているのが目に入った。

 皿を石畳に置くと、飴玉を二つ差し出してくる。少年は感謝の言葉と共にそれを受け取った。


「………………ごめん、なさい……」

「謝ることないだろ? それにパンだって、もともとお前の食事だったじゃないか」

「………………」

「いつも分けてくれてありがとうな。気にすることないって!」


 包みを解いて飴玉を口にする。


 子供は石段には戻らずに檻の前に座り込むと、ゆっくりとスープを飲み始めた。パンの時とは違って、やはりスプーンを差し出してくることはない。ちびちびと、時間をかけてその液面を減らしていく。


 相変わらず特徴のないスープだった。パンを食べる子供の姿を見てしまった後では、もうそのスープを飲ませてほしいという気持ちは微塵も湧いてこない。



(やっぱり……あれだけおかしい。いったい何のスープなんだ? そもそもパン一つで、あれだけ美味しそうな顔をするなんて……)



「……あのさ」

「…………?」

「それいつも飲んでるけど、他の食事は?」



 飴を舌の上で転がしながら、少年は何気なく話しかけた。


(今なら、いろいろ聞けるかもしれない)


 言葉を交わしてくれるようになった今なら、この子から新しい情報を得られるかもしれないと考えたのだ。檻から出た時のために、この世界の情報はいくらあってもいい。

 相手を身構えさせないように直球は避けつつ、あくまで雑談の調子で話しかける。


「…………ない」

「え? まさか…………一日の食事、それだけ?」


 淡々と頷いた子供を見て、少年は愕然とした。他には食べていないのかと問いかけても、首を横に振るばかりの子供に、少年の表情が険しくなっていく。



(ありえないだろ! こんなの、足りるわけない!)



 小さな子供とはいえ、いくらなんでも目の前の食事は少なすぎる。胸の奥で怒りがふつふつと湧き上がるが、それを表に出すわけにもいかない。気持ちを落ち着けるため、一度大きく息を吐いた。


 一日一回の食事ということは、子供が現れるたびに一日が経過していた……と考えられる。おそらく一週間ほどこの部屋で過ごしていると大雑把な計算を出す。


「それは、お母さんが作ってくれたの?」


 感情を表に出ないよう、笑顔を作って質問を投げる。

 たった一度の食事をここで摂っているのなら、親はどう見ているのだろうか。もしその親こそが黒幕だとしたら、この子供にこれ以上の協力を求めるのは危険になる。


 この質問自体が危ない橋を渡っている。そう認識しながら、少年は子供の反応を窺った。


「……ううん、ほかの人」

「…………他の人って、誰?」

「ご飯を、もってきてくれる人」



(いや、それじゃ何もわからないんだけど)



 あまりにも漠然とした答えに、思わず突っ込みそうになる。



「お、親が作ってるわけじゃ……」

「………………」

「あー、いや! そういう家もあるよな! お父さんお母さんは忙しいとか!?」

「…………忙しい、とおもう。……あまりこない、から」


 視線を落として、子供は首の装身具を指で引っ掻いていた。

 どこかぼんやりとした目で考え込んでいる様子を見ながら、少年は得られた情報を整理していく。



(親はいる……けど、側にはいない。あと、誰かが食事を運んでいる)



 どおりで食事のたびに来ても気づかれないはずだ。


 おそらくこの子供は以前から一人の食事だったのだろう。食事を運ぶ人物についても『ご飯を持ってきてくれる人』と抽象的な表現をするからには、親しくない可能性が高い。

  親が来ない理由はわからないが、この子供は孤立した環境にいる可能性が高いと、考えを巡らせていた。


「へー……お前、いつも一人なのか?」

「…………いる時も、ある」

「それ、まさかこの食事運んでもらうだけ?」

「……お風呂とか、お着替えの時……も、くる…………」



(身の回りの世話をされる時だけ人の出入りがある、ってことか……?)



 いったい、どういう環境にいるのだろうか。



 話を聞く限り、親は普段近くにはいない。食事や入浴などの世話を受ける時だけ人が出入りしている。

 それはまるで『飼われている』ように感じた。けれど同時に、この子供は世話をされるだけの価値はある、ということでもある。



(この子しかいない時間帯に抜け出すのがベスト、か)



 これが例えば朝食だとして、それ以外の時間は何をしているのだろうか。人がいる時が限られているのなら、大半の時間は一人でいるはずだ。それなのに、子供は食事が終わると必ず次の食事までここを離れている。


「その食事、わざわざ持ってくるの大変じゃないか?」

「………………」


 カチャ、と銀皿の底でスプーンが音を立てた。食事の終わりを告げるその音に、そろそろこの雑談も終わりかと少年は判断する。

 子供はしばらく皿を見つめてから、視線も合わさないまま小さく呟いた。



「…………一人……さびしいかな、……って思ったの」



 ぽつりと落とされた言葉に、少年は何も返せなかった。

 石段を登っていく背中を見送る。青白いランタンの光が遠のいていくのをぼんやり眺めながら、子供の言葉を反芻していた。

 それはお前の方じゃないのかと、なぜかそう言ってはいけない気がした。




「人がいない時間帯があるのはわかったけど、肝心の檻が壊せなきゃなぁ」


 この後は、いつものように水を汲んできてくれるはずだ。

 ポリポリと頬を掻くと、そのベタついた感触に思わず顔をしかめる。数日間風呂に入っていない体だ、皮膚が脂ぎるのも無理はなかった。


(うぇ……気持ち悪い。せめて顔だけでも洗えたら……)


 ぺたぺたと足音が近づく。

 子供が差し出してきたグラスを見て、少年はしばらく考え込んだ。顎に手を当てて悩む少年を見て、子供は不思議そうに小首をかしげる。


「ごめん、それ、もう一回汲んでもらうことってできる?」

「…………?」


 きょとんとした子供は、やがて小さく頷いた。それを確認してから、手元のタオルに貰ったばかりのグラスを傾ける。一体何をしているのだろうという視線を感じつつも、水をたっぷり吸ったタオルで顔を拭った。



(あ、やっぱりこれ高級品だ)



 水で湿らしてもなお品質の良さがわかるタオルで、顔の不快感を拭っていく。冷たくひんやりとした感触で拭き取るたび、表現出来ない爽快感が広がった。ベタつく顔をおおかた拭い終わると、さっぱりした心地で顔を上げる。


「ふぅ! ちょっとスッキリした!」

「…………」

「ごめん、わざわざ汲んできてくれたのに。どうしても気持ち悪くてさ……」


 グラスを受け取った子供は、悩むような顔をしていた。飲み水として用意したものなのに、こんな使い方をされて気分を悪くしただろうか。そういえば何に使うかは一切説明していなかったと思ったところで、子供が口を開く。


「お水、……もっといる?」

「え?」

「お洋服、とか……」



 子供の提案にパチリと瞳が瞬く。



「………………いいのか?」

「……うん」


 子供は部屋を後にすると、程なくして両手に抱えられるだけの荷物を抱えて戻ってきた。それを置くとまた石段へと向かっていく。そうして何度も往復を重ねていき、いつしか石畳の上は様々な物で賑わいを見せていた。


 体を拭くためのタオルが数枚と、なみなみと水を湛えた数々のグラス。それから着替えの衣類。高い階段を何度も上り下りするのは疲れるだろうに、嫌な顔一つ見せずにそれを繰り返す。


「ごめん、ありがとう。疲れたよな?」

「だいじょうぶ……」

「少し休めって。お前裸足だし、足痛めたら大変だから。その間体拭かせてもらうからさ」


 そう言ってタオルを手に取ると、子供はその場にぺたりと座り込んだ。大丈夫と答えたものの、やはり疲れていたのだろう。高価な衣服や長い髪が石畳の塵で汚れるのも構わず、力なく座り込んでいる。


「……さすがに……この服は着られない、や」

「……? 色のせい?」

「色じゃな……いや、色もか? そのー……これお前の服だろ? 背丈は似てるけどさ、こういうのは……着られる人が限られるっていうか!」


 上半身を拭きながら、替えの衣類を見て呟くと子供は不思議そうな顔をした。


 目の前には、子供が身に纏うものと似た服が置かれている。子供は毎度デザインを変えつつも、いつだって聖職者が纏うような神聖な白の衣装を着てくる。届けられたのも当然、細部まで拘り抜かれた純白の衣服だった。


 しかしこれは、明らかに着る人を選ぶ代物だ。

 目の前の幼子には似合っていても、浮浪者のような髪をした人間が着たら見るに堪えないだろう。


「俺の顔……わかんないけど、これ着て似合う顔してないんじゃない?」

「……お顔もお洋服と関係あるの?」

「いや、そうじゃないけど……。俺、服はこれをまた着るよ」


 子供は何か考えているようだった。そしてそのまま石段を登って行ってしまう。せっかく運んでくれたのに、悪いことを言ってしまったなと少しだけ後悔した。何往復もさせてこれだけ用意してもらっておきながら、注文をつけるとは恩知らずもいいところだ。


 一人になった隙に下半身を清拭していると、扉の向こうで物音がした。ガタガタと、何かを探しているような音が何度か響く。元の服に袖を通しながら耳を傾けていると、やがてまた白い姿が石段の上に現れた。


 

「……これ、見つけた」

「ん……?」

「鏡。……お顔、わからないっていってたから」



 子供が柱の隙間から腕を伸ばしてくる。


 その手に握られていたのは、珍しく埃をかぶった鏡だった。鏡そのものは銀細工の美しい手鏡だが、長らく使われていなかったのか表面にも彫刻の溝にも薄っすらと塵が溜まっている。それでも鏡面が見えなくなるほどではないようで、興味深そうな一人の少年がそこには映し出されていた。


 鏡面の先に映る、幼い顔。

 少年はこの時ようやく、自分の顔と対面することになった。



「………………まじか」



(これ、将来かなり期待できるんじゃない!?)


 

 そこに映っていたのは目鼻立ちの整った、好感の持てる顔つきの子供だった。くっきりとした目元、痩せこけてはいるが調和の取れた端正な顔立ち。少年漫画の主人公にもなれそうな、その容貌をまじまじと眺めてしまう。

 青い光の影響で瞳の色は判別しにくいが、紫……いや赤だろうか。


 元の自分の容姿が思い出せないせいか、この顔を見ても違和感がない。何の抵抗もなく、すんなりと少年はその顔を受け入れていた。



「俺こんな顔なのか!! へぇ〜っ! カッコイイ系だ!」

「じゃあこれ、着れる?」

「着られないッッ!!」



(だってそれ美人系しか似合わないやつだし!)



 系統が違いすぎる。少年は即座に首を横に振った。


 釈然としない様子の子供には申し訳ないが、丁重にお断りする。いくら今の顔立ちが整っていても、その衣装はまるで似合いそうにない。例えるならゲームの勇者がシスター服を着るようなものだ。せっかく整った顔をしているのだから、服装のちぐはぐさで笑い者にはなりたくない。


「あとはこのボサボサ頭がなんとかなればなぁ」


 伸び放題の黒髪に手を通す。

 手入れのされていないベタついた髪は重く、触れるだけで強い嫌悪感が湧いた。これからこの油ぎった髪をタオルで処理するのかと考えると、風呂の恋しさがひしひしと募る。


「…………髪、……切る?」

「えっ、ハサミあるの!?」

「…………ナイフなら、ある」


(ナイフ、か。異世界だし、やっぱりハサミとかはないのかな? ここにないだけかもしれないけど)


 子供はまた扉の向こうで物音を立てると、今度は時間もかけずに降りてきた。

 その手にはこれまた薄っすらと埃をかぶった……思い描いていたものとは異なるナイフが握られている。



「ナイフっていうか……、いや、ナイフではあるんだけど」

「……?」



 その手に握られていたのは、ナイフはナイフでも食卓で使うような……というより医療用の『メス』に近い形状だった。てっきり冒険小説に出てくるような武骨なナイフを想像していたために、その薄い刃には面食らってしまう。


(まぁでも、切れればいいわけだしな)


 子供にお礼を言ってから髪にナイフを向ける。

 まずは邪魔な前髪に刃を押し当てると、ザクリという手応えと共にパラパラと髪が舞い落ちた。それを何度か繰り返して、徐々に髪を短くしていく。

 大雑把に全体の量を減らしてから、子供に鏡を支えてもらって細部を整えていった。 



「…………どう思う」

「………………」

「…………ねえ、なんで目逸らしたの」

「………………じょうずだと、おもう」

「嘘つけ!!」



 その仕上がりは、問いかけに視線を逸らした子供の反応が物語っていた。


 前髪はまだ許容範囲だが、サイドのバランスが酷い。ある部分は短すぎ、ある部分は長すぎる。しかし修正を加えればさらに悲惨なことになりそうで、もうこれ以上怖くて手をつけられない。

 後ろ髪については自分では確認できないのもあって、恐ろしい状態になっているのは間違いなかった。



(いいんだよ! どうせ軽くしたかっただけだし!)



 やや泣きたい気持ちになりながら、頭をガシガシと拭いていく。髪が短くなったおかげか、タオルを何度か替えていけばすっきりしそうだった。

 パラパラと、切り落とした髪の断片が石畳へ舞い落ちる。


「お前は本当に綺麗だよなぁ。髪だってさ、すごいツヤがあるし」

「…………え?」

「やっぱり女の子だからかな。長く伸ばしてるのも、すごく似合ってると思う」


 べたつきが消えていく爽快感を味わいながら、何気なく子供を褒めた。

 こんな味気ない部屋を背景にしても、幻想的に見えてしまうほどの美しさだ。将来どう成長するのか楽しみというより、どちらかといえば畏怖を感じてしまう。自分の容姿も相当良い部類に入るとは思うが……なんというか、次元が違った。


 だから少年は、純粋な褒め言葉として自然と口にしたのだ。



「……………………、……ぇ?」



 タオルを外して子供の顔を見るまでは、きっと喜んでくれていると、少年は思っていた。



「――――……」



 子供は俯いて、ぎゅっと唇を食いしばっていた。


 眉間に皺を寄せて、いつものような無表情ではなく、はっきりと顔を歪めている。膝上の手はきつく握りしめられ、力みすぎてカタカタと小刻みに震えていた。

 喜びや照れといった表情とは程遠い。感情を必死に抑え込もうとしている様子に、少年は持っていたタオルを落とした。



「……え、ぁ………………」

「………………」

「も、もしかして、…………お、男の子だった?」



 返ってこない否定の言葉に、サーッと血の気が引いていく。



「ご、ごめん!! 髪長いから女の子に見えたんだ!」



 あの子供がここまで明確に感情を表している。それはもしかすると、かなり深刻な地雷を踏んでしまったのかもしれない。

 泣きはしないが視線もこちらに向けてこない。ぐっと感情を押し殺すように震えている子供を見て、一体どうしたらいいのかと少年は狼狽する。


「ほら、俺たちまだ小さいしさ! こんな歳ならどっちかわからないもんだろ?」

「…………………………もう五歳だよ」

「五歳なら余計わからないだろ……!? 本当にごめんって!!」


 やっと向けられた瞳は縁に涙を飾っていてギョッとしてしまう。子供をなだめた経験など皆無だった。何とか機嫌を直さなければと思うが、小さな子の機嫌のとり方などわからない。


(やばいやばい! これ泣く!? 泣かせる!? どうしよ、何したら泣かせないですむんだ!?)


 甘いものや玩具で気を引けばいいのかとも思ったが、この場所にそんなものはない。あれこれと言葉をかけてみるが、一向に子供の表情は晴れなかった。


「…………っ……きみも髪、長かったのに」


 か細い呟きが部屋に落ちる。



(あんな獣みたいな頭で女の子に見えるかッ!!)



 流石にそのツッコミは口にしなかった。いくら経験がないといっても、その発言がさらに状況を悪化させることぐらいは想像がつく。


 今日中の和解はもう望めそうになかった。子供は俯いたまま石段を上がって、扉の向こうへと消えていってしまったから。


(もう……食事を持ってきてくれなかったりして……)


 流石にそれはないだろうという気持ちと、これがよくある転生ものならバッドエンドもあり得ると言う気持ちが交錯する。

 もしこのたった一度の選択ミスで、最悪の展開を迎えてしまったら。そう考えて少年は頭を抱えた。





 しかし程なくして、子供は再び姿を現した。

 その顔はまだ俯いていたが、何やら両手に布のようなものを抱えている。



「……な、なんでしょう」

「………………」

「あ……受け取ればいいんですね?」



 無言のまま差し出されたそれを受け取る。何だろうかと恐る恐る布を広げて、少年は驚いた。


「これ、服?」

「…………………………見つけた」


 それは明らかに、この子供の服ではなかった。


 というより、今少年が身に纏っている服と瓜二つに見える。同じようなデザインと色。あとは、少しサイズが大きいくらいだろうか。

 古びてはいるものの、きちんと管理されていたようで傷みはほとんど見られない。


「……ありがとう。わざわざ探してきてくれたの?」


 ふい、と目も合わせずに子供は顔を背けてしまう。しかし『見つけた』と言っていたということは、あの後も服を探していてくれたのだろう。



(なんとなくわかってたけど…………こいつ、やっぱりいい子なんだな)



 胸の奥がじんわりと暖かくなる。



(……弟がいたら、こんな感じなのかなぁ)



 記憶を探るが、弟の記憶はない。

 兄なら何人かいた気がするが、弟については全く記憶がなかった。もし許されるのなら、あの髪がぐしゃぐしゃになるほどに頭を撫でてやりたい。そんな衝動が込み上げる。

 ムズムズとつい顔が緩みそうになるのを抑えて、少年は服を着替え始めた。



「後は外にさえ出られたら最高なのに」



 すっきりとした髪と体に、自然とそんな言葉が溢れた。今のこの気持ちのまま外に出られたら、どれだけ良かっただろう。


「…………っ、……」

「……? あっごめん、無理を言いたいわけじゃなくて!」

「………………」

「なんか、気分がさっぱりしたからかな」

「…………うん」

「外に出たいなって。すこしさ、思っただけなんだ」



 子供の返事は、小さかった。


 

 別に非難したかったわけではない。

 正直なところ、この子供が敵だとはもう考えていなかった。仮に敵側の人間だったとしても、この子供の意思ではない。そう考えていた。


 気にしないでほしいと言うと、やがて子供はかすかに笑顔を見せる。



「…………、………………そうだね」



 たった一言。

 少年の言葉を肯定した子供の声は、少しだけ震えていた。



(なんだろう、この感じ)



 胸の奥に、小さな棘が刺さったような違和感を覚えた。

 この違和感は何なのか。それを突き止める前に相手は石段を登っていく。



 扉が閉まる音が、いつもより重く響いたような気がした。



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