第10話 初仕事
一行は馬車へと戻り、次の目的地へと向かう。
「えー、馬車捨てるの?」
「捨てるんじゃなく、返すんだ」
リーダーから託されたこの馬車は、『へレディック』のものではなく、移動代行業者モールブという組織から借りたものだった。王国を主として商う彼らは、馬車の貸し出しから運転代行など、移動に関して幅広いサービスを提供してくれる。
レンタル代を、唯一金を持っていたナナメが払って、一行は徒歩へと回帰する。
「足が疲れちゃうよ」
「そうだね。だから、私達は今からあれに乗るよ」
100メートルほど歩いて足の疲れを訴え始めたナナメに、ライラは彼女の肩に手を置いて前方を指さした。
そこあったのは、安全地帯に止まっている路面電車だった。王都の街の主要な道に敷かれたレールの上をゆったりと進む、魔学ではなく科学によって生み出された新たな移動方法だ。
「運賃はあるの?」
「ナナメが持ってるんだろう?」
「えー……これボクが稼いだお金なんだけど……経費で落ちないの?」
財布が軽くなっていく感覚に、ナナメが文句を垂れ始める。困り顔を見せるメロは、ナナメの頭に手を乗せて、
「後で埋め合わせはする。ここは、頼まれてくれないか?」
苦笑するメロを見て、ナナメはしばらく黙ってからそっぽを向いて、
「……仕方ないなぁ。甘ーい菓子パンを所望するよ」
そう言って、メロに金貨を一枚放り投げた。
~~~
「ミト、初仕事だ」
路面電車から降りた時、ミトはメロからそう告げられた。
いつの間にか『へレディック』に所属していることになっているらしいミトは、裏路地に連れ込まれた後、そこで待っていた一人の男を紹介された。橋姫の仮面をつけている『へレディック』だった。
「おっすワルフって名前です。一応『
差し出された手をとり、ミトはわけも分からぬまま挨拶を交わした。赤い髪を長く伸ばしたワルフはにこっと笑う気さくな男であったが、『へレディック』という所属団体であることが好印象の邪魔をする。
「ミトには一旦、彼と『斜陽』と一緒に行動してもらう。やることはワルフから聞いてくれ」
「は、はぁ……」
話の流れから察するに、どうやらミトはメロ達とは行動を別にすることになるらしい。
不安が募り、お守り代わりのウルールの帯を強く握りしめた。
ミトの不安を感じとったのか、メロは微笑みながらミトの頭を撫でて、
「心配するな。お前が助けて欲しい時、俺は必ずお前を助け出す」
力強くそう言われ、ミトの体は反射的に頷いた。
その隣で大きなため息を吐いたナナメが、細めた目でメロを眺めていて、
「ボクもこっち側なの?」
「リーダーからの指令だ。お前がいれば何かと上手くいくからな」
「あのさぁ……ボクの『天命』が便利なのは確かだけど、こんなに動かされてばっかりだと過労死しちゃうよ」
「するほど働いてないだろ?」
「辛さは本人にしか分からないのさ」
嫌々ながらも納得してくれたナナメ、初対面のワルフ。この二人が、しばらくミトの仲間となる。
「それじゃあ、上手く頼むよ、三人共」
メロとライラは三人を取り残し、別の場所へと向かっていった。その背中を見送って、まだやる気が出ないらしいご機嫌斜めなナナメがため息を吐いた。
「くはは……」
仲間の気難しさに苦笑したワルフ。彼は手をパンと叩き、
「うし!そんじゃあ仕事しますか」
「何をするの?」
「記念すべき新入団員の初手仕事は───」
ワルフは指をならし、
「サイドレンの邸への潜入調査だ!」
~~~
王都からサイドレンの領地までは馬車で半日ほどだ。
件のアプルーラの街と同じ方向にある屋敷には、沢山の使用人と兵士が働いている。近くの村への支援や仕事の斡旋を繰り返すことにより、サイドレン領は王国の中でも一目を置かれるほどの活気を見せている。
もちろん、アルゲータの人気は爆発的に増加して、そんな彼のために働きたいと使用人を目指す者もいる。
前までは使用人なんて志願が来ればすぐ採用していたというのに、今では人気職業として倍率がとんでもないことになってしまった。
採用基準は厳しさを増し続け、今では突出した能力がなければ採用されない。
「んてことで、そこへの採用に関してはナザック区長からの推薦でどうにかなっから、あとはその中で頑張って」
「はぁ!?」
「え、ちょっと待って。ボクも潜入するの?」
「そりゃあ、募集要項が女だったんすもん」
潜入調査という仕事が任されてから二日後、屋敷へ向かう馬車の中で揺られながら、ミトとナナメは怪訝な顔で話し合っていた。
「ねぇ、ボク絶対無理なんだけど。絶対使用人とか無理なんですけど」
「ぼ、僕も出来ませんよー……料理とか人並みだし、掃除も人並みだし……」
「ボクも……殺しくらいしかできない」
「それは出来てもアピールポイントになりませんよぉ……」
使用人ということで制服が配られたのだが、制服はまさかのメイド服で、それなりに露出のあるものだった。
ナナメは心底嫌そうに顔を歪め、ミトは男であるのにメイド服を渡されたことに違和感を覚えていた。
「そもそも、募集要項を知ってて僕を寄越したってことは、ワルフさんも僕を女だと思ったってことですよね……」
『えっ、違ぇの!?』
ミトの独り言に、脳内で返事が返ってくる。これはワルフの『天命』である『脳透かし』による通信で、離れた場所でも会話ができるという、ただそれだけの能力だ。
情報戦においては有りを取れるが、同時に連絡を取れるのは三人までで、その三人の定義にも時間がかかるため、使い勝手は思っているよりも悪い。
「それで、潜入調査とかいうおふざけで何を得ようっての?」
『おふざけとか言うなよ!はぁ……今回の仕事でやってほしいのは、アルゲータの右腕って言われてるシュガーの地下室の在処を探って欲しいんだと』
ぶっきらぼうに言うナナメに、ワルフは呆れ気味にそう返答した。
シュガーというのは、アルゲータと同郷の男だ。彼の『天命』は『真実』。顔と名前が分かった相手の『天命』を知り得ることが出来るという能力だ。
敵として、能力を一方的に暴かれるというのは非常に厄介。『へレディック』の主要戦力がコードネームを用いるのも、彼が人類側についているからだ。
「それで、ボクらは本当に実名で活動していいわけ?」
『メロ氏から聞いた感じそれでいいっぽいんよね。ミト氏はともかくナナメ氏はいろいろマズそうだけど』
「だよね。まぁなんかあったら『魅惑』のせいにすればいいか」
シュガーなる者の『天命』がある環境下で名と顔を晒すのは命を握らせるようなもの。これからぶつかり合う相手にわざわざ戦力の一端を見せる必要は無いと思うが、
「逆に、全部曝け出してる方が信用される、かも?」
『それな。今言おうと思った』
「ホントかよ」
潜入調査で怪しまれたら元も子もない。信用を勝ち取るなら、逆にシュガーの手玉に取られるほうが都合がいい。
「なにかあったら、め……『魅惑』さんが助けてくれますし」
『えぐ。絶対の信頼を垣間見た』
「凄いね。あの女たらしのどこにそんな要素があるんだか」
目的地に着くまで、三人は脳内で他愛のない会話を繰り広げていた。
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